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「美人すぎる囲碁棋士」黒嘉嘉が、「AIの躍進」をさほど危惧していないワケ

3/31(日) 15:31配信

HARBOR BUSINESS Online

 前回から黒嘉嘉(Hei Jiajia)の独占インタビューを続けているが、一つだけ不便なことがあった。人名の問題である。

 かつての日本には、朝鮮半島出身者の名前を日本風に読む慣習があった。金大中を「きんだいちゅう」朴正煕を「ぼくせいき」と読むのが好例である。しかし、最近はできるだけ原語に近い読み方をするのが普通になった。

 いかに絶対親しくなりようがない金正恩であっても「きんしょうおん」と呼ぶ人はいない。筆者に言わせれば、それが当然であり、逆に言えばそうしないと日本国外での会話につまってしまう。

 しかし、未だに中国語圏の人名は日本読みがまかり通っている。黒嘉嘉を日本メディアは「コク・カカ」と呼んでいる。だが、ほかの国の囲碁ファンと彼女について話すなら、それでは通用しない。まして本人を目の前にしているのだから、Jiajiaと呼ぶのが当然だろう。

 井山裕太について聞こうとして、「イヤマ」と発音した時に彼女は一瞬怪訝な顔をした。

 つまり、彼の名前を中国語読みで覚えているに違いない。韓国人名を原語風に呼ぶようになったとき政府や大手マスコミがどういう取り決めをしたのか知らないが、そろそろ中国語圏の人名もお互いに原語に近いものに統一するほうが国益にも礼儀にもかなうのではないか。本稿で名前のルビを一貫して原語に近いものに統一しているのはそのためである。

◆6歳で初めて囲碁教室に行ったとき、すぐに魅せられた

 余談が長くなってしまったが、かつて趙治勲は「囲碁を始めて一年以内に定石の美しさがわかれば、それだけで才能がある証拠だ」と言ったという。黒嘉嘉は囲碁を始めてどれくらいの期間で囲碁に魅せられたのだろう?

「私が囲碁を始めたのは六歳のときに母が囲碁教室へ連れて行ってくれたときです。今思えば、始めてすぐに囲碁に魅せられたと思います。一回目の教室に参加して、もっと続けたいと言ったのです。始めてすぐ楽しいと思い、今も囲碁を楽しいと思います。AIが出てからは、今まで私たちが考えたことすらなかった手順も出て、なお面白いと思いますね」

 筆者の高校時代の同級生に、囲碁アマ六段の男がいる。最近電話で話すと、「AIが強くなりすぎて囲碁プロ棋士という職業およびその存在意義がなくなってしまうのではないか」と本気で心配している様子であった。黒嘉嘉はこの点をどう考えているのか。

「おそらく、その問題は私たちの大部分が一度は考えたことがあると思います。ですが、見る分にはやはり人間同士の対局のほうが興味をそそられますよね。私たち人間は、間違いを犯しますから。もちろん私自身も練習用にAIは活用していますが、囲碁そのものは人間がやっているもののほうが面白いですよね」

◆人間は間違いを犯す。だから面白い

 実を言うと、筆者もこの点はあまり心配していない。理由は簡単である。F1で時速400㎞近くの車が走っている時代においてさえ、ウサイン・ボルトを「お前の脚は車より遅い」と責める者はいない。

 42.195㎞を三時間で走ろうが、四時間で走ろうが、一体何の意味があるのか。そんなもの、車があれば疲れることなく一時間で移動できるではないか。

 にもかかわらず、筆者を含む市民ランナーは性懲りもなくカネを払って走り続け、エリウド・キプチョゲが本当に二時間を切れるか全世界が注目している。だからプロの囲碁も将棋もチェスも、人間が間違いを犯す姿、苦しみの中で正解を見出す凄み、その背後にあるヒューマンドラマがある限りそこまで廃れないだろうというのが筆者の持論である。

「まったくその通りだと思います。人間がやっていて、ミスを犯したり努力したりする姿があるから見ていて興味を惹かれるんですよね」(黒嘉嘉)

◆学校には勉強だけでない人間形成に大事なことがある

 このインタビューは英語で行ったが、黒嘉嘉が英語を話すのは中国語を話せない父親と話すときだけだという。だが彼女の英語はオーストラリア風ではなく米語に近い。

「姉も英語は話せますが、いつも中国語で話しますし、台湾では中国語しか話しませんからね。英語を学んだのはアメリカで暮らした三年だけで、しかもあれから十年たってその後は父と話すだけですから今の私の英語は中国語と同じようには話せていないでしょうね。ですからできるだけアメリカのドラマや映画を見てさびつかないようにしています」

 井山裕太も張栩もそうだが、日本のトップ囲碁棋士の大部分は中卒でその後は囲碁に専念している。黒嘉嘉を含む台湾の囲碁棋士は学歴をどのようにとらえているのか。

「台湾でも中学卒業後は自宅学習の形態をとることが多いですね。それでも試験に合格すれば卒業資格をとることは可能です。私自身は米国での中学を卒業し、その後はプロ棋士になりましたから高卒資格は持っていません」

 では仲邑菫については今後学校とどう付き合っていけばよいと考えるのか。

 「彼女の場合はまだ小学生ですから、学校で一番大切なことでは勉強ではないと思うんですよね。同級生の友達を作ることが人間形成の上で大切だと思います」

 だが現実問題として、仲邑菫は日本の小学校より、韓国の囲碁塾で過ごす時間のほうが圧倒的に多い。何より、今回の黒嘉嘉との記念対局も平日に行われているわけで、当然小学校は休んでいる。筆者に言わせれば、今後本気でプロ棋士として生きるなら、それが正しい。

「それなら、行けるときだけ小学校に行けばそれでいいと思いますよ」

◆黒嘉嘉、そして仲邑菫が作る「囲碁の未来」

 最後に写真撮影をと言った時、黒嘉嘉は「何かポーズをとりましょうか?」と聞いてきた。「いや、自然に笑顔で話してくれたらそれでいいから」と筆者は答えたが、それだけメディア対応に長けているということをさらに強く印象付ける一言だった。

 かつて、将棋の内藤國雄九段は演歌「おゆき」を大ヒットさせ、将棋への関心を高めた。黒嘉嘉には、ぜひ囲碁と並行して芸能活動も窓口にして、さらに囲碁を広めてほしい。

 仲邑菫のプロ入りを聞いたとある筆者の友人は「十歳で人生が決まるなんて、本当に幸せなのか」と聞いてきた。そこでこう答えておいた。

「本人は気付いていないかもしれないけど、こんなに幸せなことはないんだよ。まず人生のスタートラインに立たせてもらえて、両親は孟母三遷を実施してくれているわけだから」

 かつて橋本宇太郎は「囲碁は百年をつなぐ」と言った。幼くは五十歳年上の相手と、老いては五十歳下の子供と対局して「百年をつなぐ」という意味だが、仲邑菫にはぜひ卓球そのものを変え、中国でも台湾でも愛されている福原愛の囲碁版になり、アジア各国をつないで彼女と同じく成人したら家庭にも恵まれるようになることを心から願うばかりである。

【タカ大丸】

 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:3/31(日) 15:31
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