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ぼくらのマインドを、スマートフォンによる「乗っ取り」から解放せよ──トリスタン・ハリスからの提言

4/6(土) 13:10配信

WIRED.jp

元グーグルのプロダクトマネジャーであるトリスタン・ハリスは、ソーシャルメディアなどの大手企業が人の心を操って時間を浪費させていると批判を強め、「有意義な時間」という概念を提唱している。彼は、いかにアプリやウェブサイト、広告主、通知による支配と操作から、わたしたちを解放しようと考えているのか。そのアイデアを『WIRED』US版編集長のニコラス・トンプソンに語った。

公共インフラとしてのサービスとは?

スマートフォンは、ときにわたしたちの友となり、恋人のようになることもあれば、薬物を売りつける“売人”になることもある。この関係の複雑さについて、この数年でトリスタン・ハリスほど語ってきた人物はいないだろう。

元グーグルのプロダクトマネジャーであるハリスは、「テック企業がわたしたちのマインドを乗っ取る」ことを阻止するために、「Time Well Spent(有意義な時間)」という名の非営利団体も立ち上げた人物だ。いわゆる大手プラットフォーム企業がそれぞれのプロダクトに人を引きずり込み、知らず知らず時間を浪費させることについて批判することで、たびたび注目されている。

ネットで公開された2017年4月のTEDトークで、彼はオンラインデザインの復興を提案している。つまり、アプリ、ウェブサイト、広告主、通知による支配と操作からわたしたちを解放するためには、どう考えていくかということだ。こうしたアイデアについて、ハリスが『WIRED』US版編集長のニコラス・トンプソンに語った。

セルフ・アウェアネスの必然性

ニコラス・トンプソン(以下NT):大手のインターネットプラットフォームは、わたしたちが理解しないかたちで、わたしたちに影響を与えている。あなたはかねてそう主張しています。こうした発想が広がった経緯を教えてください。

トリスタン・ハリス(以下TH):最初は『60 Minutes』[編註:CBSテレビのドキュメンタリー番組]でした。あの番組のコーナーで、テック業界がどんなふうにデザインテクニックを駆使して、人々をできるだけ長く頻繁にスクリーンにつなぎとめているか、検証したんです。企業がそうする理由は、とにかくほかの企業よりユーザーの興味関心をひきつける競争があるからで、悪意があるからではありません。

あの番組がきっかけで、サム・ハリスのポッドキャストでインタヴューを受けることになって、テクノロジーが気づかぬうちに大勢の人を丸め込むいろいろな方法を説明しました。それがシリコンヴァレーでヴァイラルになったんです。何百万もの人が聴いたみたいで。「いかにテクノロジーがわれわれを乗っ取るか」ということについて、本格的に理解され始めているのです。

NT:どれほどの規模に対する問題なのでしょうか。

TH:テクノロジーは、この地球の20億人が毎日何を考え、何を信じるか巧みに誘導しています。20億人以上の思考を左右するんですから、史上最大の影響力と言ってもいいでしょう。宗教や政府でも、人々の日々の思考にそれほどの影響を及ぼすことはできませんから。

ところが現代では、テクノロジー企業3社のシステムが、人の時間の使い方や視界に入る内容までも決めてしまっているんです。ニュースフィードやレコメンド動画、その他もろもろユーザーに見せるものを通して。しかも、それらの中身はテック企業も制御できていません。

NT:3社というのは?

TH:スマートフォンのことだけで言えば、アップルとグーグルです。OSとスマートフォン本体と、スマートフォンのソフトウェアを設計していますから。スマートフォンで何に時間を使っているかという話になると、ユーザーが主に時間を費やしているFacebookとYouTube、Snapchat、それからInstagramですね。

NT:そうして、この大きな議論が生まれたわけですね。次はどう広げていきますか?

TH:4月のTEDトークは、あの場にいた観客だけに話をしましたが、いまはネットで同じものが見られます。主にテクノロジーについて、根本的に変えていかねばならない3つの点を提示しています。でも、変革を理解する前に、問題を理解しなくてはなりません。

繰り返しになりますが、問題はわれわれのマインドが乗っ取られていることなんです。人が何にアテンションを示し、何に時間を使うか、システムの誘導は高度になる一方です。例えばSnapchatには「Streaks(ストリーク)」という機能があって、これがユーザーの心をがっちりつかみ、つながっている友だち全員と毎日メッセージのやりとりをせずにいられなくしています。

YouTubeやNetflixでも、次の動画が自動再生されるせいで延々と見続けてしまいます。知り合いがいつログインしたとか、誰かがこっちのプロフィールを閲覧したとか、いろんな通知が人の様子を知らせてくるので、すべて見渡していなきゃ──という気持ちになるのです。

そもそもこの乗っ取りの前提には、人を主体的行動から遠ざけるということがあります。人がシステムを使うよりも、システムが人の直感を動かすほうが巧みになっているんです。

こういうのに四六時中、自分を操縦させないでいるのは大変な労力が必要ですよ。だから考えるべきなんです。現代のアテンション・エコノミーと、ぼくらの脳に対する大規模ハイジャック行為を、どう変えていけばいいのか。そこで3つの変革が必要だという話になってきます。

NT:なるほど。具体的には?

TH:最初のステップは自己認識を変えることです。人はたいてい、「他人は流されやすいかもしれないけど、自分は大丈夫だ」と思っています。自分は賢いほうの部類であって、ほかの人たちが思考を操られてるだけだ、と。

だから、まずは理解しなくてはならないんです。ぼくらの心と肉体を動かすのは、数百万年前につくられ進化する“ハードウェア”であるということ。そして、その心と肉体を通じて世界を体験しているということ。一方で何千というエンジニアや、われわれがどう反応するかを完全に把握する詳細なデータに対抗しなければならないということもね。

NT:それはご自分でも感じているのですか。先週末にわたしが連絡をとろうとしたとき、あなたはスマートフォンの電源を切って森で過ごしていましたね。この場合、主導権は自分にあると思いませんか。

TH:もちろん、すべてオフラインにできるならね。でもそうでないときは、世界を代表する頭脳がぼくたちの主体性を損なわせようとしてるんだ、と心得ていなくちゃならない。

NT:だからステップ1はそれに気づくこと、というわけですね。IQの高い人たちがグーグルで働いていて、意図的にせよ、そうでないにせよ、ユーザーの脳を乗っ取ろうとしていることに気づけ、と。わたしたちはそれがわかっていないのだ、というわけですね。

TH:そうです。そのことははっきりさせておかないと。YouTubeでは100人のエンジニアが、次も見たくなるような動画が自動再生されるよう策を凝らしています。こうしたエンジニアの腕前は磨かれる一方です。ぼくらはその腕に対抗しなくてはなりません。こちらの意思の力を遥かに上回るパワフルなシステムなんです。しかも、そのパワフルさは増す一方ですから。自分の反応は本当は自分で選択したものではないと、まず理解する必要があるんです。

NT:その境目はどこにあるのでしょう。わたしもときどきInstagramを使うという選択をします。自分にとって大きな価値があるという理由で。あるいはTwitterを見るという選択をします。絶大な情報源であるという理由で。そして、友人とつながるためにFacebookにもアクセスします。

どの段階で、わたしは自分で選択することをやめているんでしょうか。どの段階で操られているのでしょう? どこまでがわたしの選択で、どこからが機械の影響を受けているのですか?

TH:それは本当に重要な疑問ですよね。最初に、乗っ取られるのは必ずしも悪いことじゃない、という点も言っておきます。ぼくたちにとって有意義なかたちで時間を使えているなら、それは喜ばしいことですから。テクノロジーに反対というわけじゃないんです。人は常に何かに促されて生きているものですし。ただ、アテンション戦争の前提には、ぼくたちのためにではなく、ぼくたちの注意を奪うためにそのスキルが増していくということがあります。

「これを楽しめ」と言われたものを、ぼくたちは楽しむかもしれませんし、自分でそれを選択した気にもなるでしょう。例えば、次の動画がロードされたかどうかを忘れて、見た動画に満足する。でも実際のところ、その瞬間にあなたは乗っ取られていたんです。

あなたがYoutubeで次の動画を見続けずにはいられないようにしている側というのは、それが深夜2時だろうが、あなたが寝たいと思っていようが、そんなことは知りません。こうした人々は、あなたの味方じゃない。ただ、ユーザーがそのサーヴィスを長時間使い続けるために仕事をしているのです。

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最終更新:4/6(土) 13:10
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