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映画史からNetflix問題を考える:その1 なぜスピルバーグはストリーミング配信の映画を映画と認めないのか?【松崎健夫の映画ビジネス考】

4/11(木) 18:35配信

FINDERS

今年のアカデミー賞で話題となった映画『ROMA/ローマ』(18)が、日本でもイオンシネマを中心に52の映画館で劇場公開されている(4月上旬現在)。1970年代のメキシコを舞台に、富裕層である家族と彼らに雇われている家政婦との関係を、当時の政治的な混乱を絡めながら描いた作品。アカデミー賞では最多10部門で候補となり、外国語映画賞・監督賞・撮影賞に輝いた。高い評価を得ている一方で、この映画は「映画館での上映を意図しないインターネットでのストリーミング配信を基本とした映画」として世界中の映画人の間で議論の的となっている。

今年3月、スティーヴン・スピルバーグ監督は「ストリーミング配信の作品はテレビのカテゴリーと同じように扱われるべき」と、アカデミー賞からNetflix作品を締め出すような提案したと報道された(現在、発言の真偽のほどが問われている)。さらにスピルバーグは、3月末にAppleでの動画配信への参入を表明。4月に入ると「Netflixを締め出すことは独占禁止法に抵触する可能性がある」とアメリカ司法省が警鐘を鳴らしたとも報道され、議論は熱を帯びている。

今回は「映画史からNetflix問題を考える」のその1と題して、スティーヴン・スピルバーグ監督はネット配信を中心とした映画を、なぜ“映画”として認めないのか?ということを中心に解説してゆく。

ハリウッドの映画産業はNetflixを脅威とみなしている

『ROMA/ローマ』をオリジナル映画として製作したのはNetflix。日本でも昨年12月に配信が開始され、基本的にはインターネット上のみでの視聴が可能となった。「映画館での上映を意図しないインターネットでのストリーミング配信を基本とした映画」に対して、フランスで開催されているカンヌ国際映画祭は上映を拒否し、イタリアで開催されているヴェネチア国際映画祭では最高賞にあたる金獅子賞を与えるという両極端な評価を与えた。そもそもカンヌ国際映画祭が、ヴェネチア国際映画祭に対する政治的なアンチとして生まれたことは連載3回で解説したが、映画の都・ハリウッドでの反応は、今回のアカデミー賞結果が示す通り。

メキシコ映画である『ROMA/ローマ』は、アメリカにとって外国の映画(厳密にはアメリカとの合作)。一部の作品を除いて、基本的には英語圏以外の作品をアカデミー賞では「外国語映画賞」の候補に位置づけてきたという経緯がある。それは、アカデミー賞がハリウッドで働く<アカデミー会員>である映画人たちが投票権を持ち、内輪によって仲間の功績を祝福する賞であることにも由来する。ハリウッドの映画人にとって『ROMA/ローマ』は外国映画であり、ハリウッドの各組合に属さない映画人たちによって製作された作品でもあり、さらには映画館での上映を意図しない作品であったことが、世界一とされるハリウッドの映画産業のあり方自体を問われるものだったのである。

そのような状況にある中、アカデミー賞が外国語映画賞(『ROMA/ローマ』は全編スペイン語)や監督賞に選んだ一方で、作品賞や俳優部門(例えば主演女優賞候補だったヤリッツァ・アパリシオは、ハリウッドの俳優組合に属さないプロではない役者)での受賞を叶えられなかったことは、「外国映画としては認めるけれど、ハリウッドの規定する“映画”としてはまだ認められない」という姿勢の表れだったと解釈できる。アカデミー賞には「授賞式の前年度にロサンゼルス地区の劇場で連続7日間以上の有料公開した40分以上の作品」が作品賞候補だと規定としている。『ROMA/ローマ』はその規定を満たすため、ストリーミング配信前に3週間だけ劇場公開を行った。しかし、劇場公開後すぐに配信を始めたため、「劇場公開から90日は映画館でしか上映しない」という別項にある規定を満たしていなかったのだ。ハリウッドの映画人の多くは、その点を問題視しているのである。

映画館で上映したことで生まれる興行収入によって、製作費や宣伝費を回収するというビジネスモデルを構築したハリウッド。1950年代以降はテレビの放映権、1980年代以降はソフト化による<二次利用>の収益が上乗せされ、映像の歴史の荒波を乗り越えてきたという経緯がある。また、ハリウッド映画産業に関わる人たちは、シネコンなど映画館チェーンと結びつきも強い。そこに、興行収入や二次利用を収益の裏付けとしないストリーミング配信による公開を基本とした質の高い作品の登場というものは、ハリウッドの映画産業にとって減収の恐れを導く脅威の存在なのである。

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最終更新:4/11(木) 18:59
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