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誰が「維新」を支持したか――大阪・首長ダブル選挙の光景から

4/11(木) 8:33配信

HARBOR BUSINESS Online

◆橋下時代の「熱狂的」聴衆はもういない

「松井さんと吉村さんが負けたら大阪の成長が止まってまうで」

 大阪維新の会の圧勝に終わった府知事・市長の「入れ替えダブル選挙」投票前夜、4月6日の難波・高島屋前。ごった返す土曜の夜のミナミの雑踏で、大阪市南部から来たという50代の男性は言った。スマホを手にした外国人観光客がひっきりなしに行き交う。

「関空がようなって、インバウンドもこれだけ来とる。万博かてこれからやのに、なあ」

 その2週間前、市長選が告示され、本格論戦が始まった3月24日には、天王寺公園で幼児を抱いた30代女性に話を聞いた。

「維新になって大阪が明るくなったと、ママ友たちも言ってます。こうして子連れで遊びに来る場所もできたし、地下鉄のトイレもきれいになった。アナウンスも丁寧やし」

 天王寺公園には4年前、民間委託で「てんしば」と呼ばれる芝生広場と商業施設ができた。市営地下鉄は、市が100%株主ながら、民間の新会社になって1年が経つ。維新が主導する公共施設民営化のメリットを彼女は感じている、ということだろう。

 いずれも、維新の松井一郎(現・大阪市長)と吉村洋文(現・大阪府知事)の街頭演説を聞いた後、その場にいた聴衆の中から適当に声をかけ、短い立ち話に応じてくれただけの人なので、これが代表的な声と言えるかはわからない。ただ、人混みの中で数十分間、足を止めて演説を聞くのだから、支持者ではあるのだろう。松井と吉村が「府市協調で進めてきた維新政治の成果」と誇る話を──本当にそう言えるのかは別として──好意的に受け止めていた。大阪都構想について聞いてみると、先の男性は「そら、やった方がええ」と即答。女性は「うーん、よくわからない」と首を傾げた。

 選挙期間中、維新の演説を何か所か見て回り、印象深かったのは、こうした穏健な支持層の姿だった。もちろん、維新のシンボルカラーである緑色ジャンパーを着て、緑のペンライトを振っているサポーターもいるのだが、大多数は、特別熱心に活動しているわけではなく、強い政治的志向も持っていない、いわゆる無党派の市民が自然発生的に集まっている感じがした。

◆「4年前」とは明らかに違う光景

 4年前までの光景とは明らかに違う。橋下徹の登場に熱狂し、敵をぶった斬る攻撃的な言動に拍手喝采を送っていた聴衆はもういない。現職の余裕か、松井・吉村の口調やキャラクターのせいか、いずれにせよ、維新は確実に大阪に定着し、「市民党」となった感がある。

 演説に対する反応や短い立ち話から、彼らが最も期待しているのは「大阪を成長させる経済浮揚策」なのだろうと感じた。それは市や区など狭い地域単位の利益誘導ではなく、個々人の賃金や税金に直結する話でもない。大阪府域全体に利益をもたらし、活性化させる政党として、さらに言えば、日本の中での大阪の都市格や存在感を復権させる牽引役として、彼らは維新を評価しているのではないか。

 維新はこの点を踏まえ、周到に戦略を練っていた。朝日新聞が選挙後に報じたところによれば、「二重行政」「民営化」「大阪の成長戦略」「大阪万博誘致」「大阪都構想」という5つのキーワードを演説に盛り込むよう、府議選・市議選候補者に指南メールが回っていたという。難波での松井の最終演説はその通り、前回の都構想住民投票を感慨深げに振り返るところから始まり、製造業の技術支援、インバウンドの好調、税収の増加などを実績として強調。「大阪の経済を成長させ、ニューヨークや上海など世界の都市と戦うには府市一体となる都構想が必要なんです」と語りかけた。

 相手の「野合」選挙を強調し、自分たちこそが「市民党」だと印象づけることも忘れない。「向こうは自民党から共産党までが手を組んだ大組織。われわれには組織がない。みなさんの口コミだけが頼りなんです」と投票を呼びかけ、演説を締めくくった。先にマイクを握った吉村は、橋下を受け継ぐように、公務員や既得権益批判、既成政党と野合批判を繰り広げたが、松井は最後まで、声を張り上げたり、強い言葉で聴衆を煽ったりすることはなかった。

◆自壊の負け戦で「逸材」を潰した自民

 一方の自民・公明を中心とする反維新陣営は、候補者選定のスタートから出遅れ、選挙戦が始まっても、不協和音ばかりが聞こえてきた。

 首長選の告示後に発行できる確認団体ビラを出しそびれた。SNSやブログも更新されない。府議・市議が自分の選挙で余裕がなく、個人演説会に知事・市長候補を呼べない。選対本部や応援に来るはずの人間が来ない。翌日の街頭演説予定を問い合わせてもわからない。自公以外の応援弁士を選挙カーに乗せ、陣営内でもめた……。

 「司令塔不在で、組織の体をなしてないんですよ」

 有力な支援者の一人は、あきれたように言う。「自民党はもともと、オーナー企業の集合体のようなもの。そこに公明をはじめ、他党や労組も入ってきて、全体を統括する人間が不可欠なのに、誰もその役割を果たさないからバラバラ。前回選挙の反省がまったく生かされていない。それに比べ、維新はトップダウンだから意思決定や指示が早い。現職の強みで業界団体も押さえている。『組織がない』なんて彼らは言いますけど、向こうの方がよほどしっかりした組織を築いてますよ」

 そもそも、いざ選挙となってから慌てて候補者探しに動くこと自体、いったいこれまで何をしていたのかという話である。

「選挙というのは、負けた時から次が始まるんです。マーケティングに喩えて言うならば、4年先を見据えて、市場(有権者動向)調査を行い、それを踏まえた商品(候補者)を選定し、販売戦略(選挙戦術)を立てないといけない。そうした活動が皆無だったんです」

 結果的に、擁立した候補者は悪くなかった。それどころか、維新の強引な政治手法や詭弁も厭わない言論術に対抗するには、最高の人選だったと言ってもいい。

◆「逸材」を活かせず機能不全を露呈した大阪自民

 市長候補の柳本顕は、25歳から大阪市議を5期務め、2015年5月の都構想住民投票では、反対派の先頭に立って勝利に導いた立役者だ。同年11月の市長選では敗れたものの、政策通で弁舌もさわやか。「自民党大阪府連きっての逸材」と言われてきた。7月の参院選出馬が決まっていたところを口説き落とされて、2度目の市長選に挑んだのだった。

 知事候補の小西禎一は、橋下府政時に「改革プロジェクトチーム」のリーダーに抜擢され、松井の下では副知事を務めた。「府庁のエース」と言われ、府下の自治体職員まで集まる「小西学校」が開かれるほど、行政内部では人望がある地方自治のプロだった。地味で言葉が硬いのは仕方がないが、本人も自覚し、演説や討論会を重ねるごとに上達していた。

 だが、いくら「商品」がよくても、スタートに出遅れ、組織が体をなさず、戦略も後手後手では、巻き返せるはずもない。維新の野合批判に焦り、「共産党とは一切関係ない」と否定して回ることにばかり熱心で、あとは先述したような内情だった。選挙戦中盤以降、マスコミ各社の焦点は既に勝敗にはなく、「松井と吉村の当確をいかに早く打てるか」の争いになっていた(結果、投票締め切りと同時に当確が打たれた)。

 自民党大阪府連は、政党としての機能不全を露呈し、自壊してゆく負け戦に、2人の逸材を巻き込んだ。その結果、柳本に「政治家としては息絶えたと思っている」という悲痛な敗戦の弁を吐かせてしまったのである。

◆維新支持者は「大阪」の代表者を求めた

 この選挙期間中に、とても興味深い本を読んだ。『維新支持の分析 ポピュリズムか、有権者の合理性か』(有斐閣)。善教将大・関西学院大学准教授が、2011年の前々回ダブル選から2015年の都構想住民投票までの維新に対する有権者の支持/不支持態度を調査し、詳細に要因分析を重ねた大変な労作である。

 同書によれば、維新を支持する有権者は、ポピュリストに扇動された「大衆」などではない。橋下が盛んに口にした公務員不信や「改革」への期待(新自由主義的志向)も、橋下個人への評価も、投票行動への影響は大きくなかったという。では、なぜ維新は勝ち続けるのか。それは「大阪」の利益の代表者だという政党ラベル(ブランドイメージのようなものか)を獲得し、有権者もそこに期待を寄せたからだという。

 重要なのは、ここで言う「大阪」とは、大阪市という行政区域に限定されない「抽象的な都市空間」を指していることだ。大阪の有権者は、個々人の地元という狭い範囲の利益ではなく、より集合的な「大阪」の利益を求め、政党ラベルを手掛かりに、自律的かつ合理的に維新を選択した、というのである。

 選挙で維新を支持したからといって、その主張を彼らが丸飲みしているわけでもない。正確な理解と批判的志向を持って慎重に判断したからこそ、住民投票で都構想は否決されたのだと、善教は言う。多くの有権者は、都構想によって大阪市という政令市が解体されることを理解していた。住民投票直前に賛成から反対へと態度を変えたのは、維新支持者に多かったという。だとすれば、今回の選挙で、維新が「大阪市はなくならない。町並みやコミュニティは残る」などと珍妙な言い訳をしていたのは、何の意味もなかったことになる。

 このほかにも興味深い分析結果が数々示されているが、もう一つ挙げるなら、維新支持は「自己強化」の段階に入っている、ということがある。それは、先述した維新の街頭演説から私が受けた印象と合致する。橋下時代に何度も見た熱狂的な雰囲気とは異なり(同書は、当時から「熱狂」などではなかったと否定するのだが)、穏健な支持層が着実に積み重なり、ごく自然に盛り上がっている感があった。

◆ポピュリズム論では説明できない維新支持

 維新支持者の動向はポピュリズム論では説明できないと、善教は繰り返し主張する。にもかかわらず、従来の維新をめぐる議論が、「独裁者に扇動され、誤った情報を鵜呑みにした大衆が熱狂的に支持した」というような単純な見方で、有権者を無視するか、愚者であるかのように扱ってきたことを痛烈に批判している。同書の執筆動機は、そうした論者の姿勢への不満にこそあったという。

 「橋下をめぐる過剰報道と、彼のメディアコントロールが、有権者の熱狂を作り出した」と主張した拙著『誰が「橋下徹」をつくったか』も、善教が批判する論に連なるものだ。実際、同書では拙著にも言及されている。維新や在阪メディアという情報供給側の異様な熱狂ぶりに注目するあまり、受容側である有権者の理性や判断力を軽視したと言われれば、率直に認め、反省せねばならない(ただ、そうであれば、当時のマスメディアの過剰な維新寄り報道の影響はなかったか、あるいは、報道がきわめて公正に行われていたことになり、そこにはまた新たな疑問が生じるのだが、これはまた別の問題だろう)。

 いずれにせよ、維新支持層は「抽象的な『大阪』の利益」を求めているという主張は、大いに頷ける。これは私の印象論に過ぎないが、その背景には、何ごとにおいても東京に対抗し、反発しながらも憧れる大阪の文化的土壌、つまり、根深く強烈な東京コンプレックスがあるのではないか。今回の選挙で、維新は「都構想で東京のような特別区になれば経済成長できる」と言い、自民は「東京の劣化コピーでしかない制度にしても意味がない」と主張した。これは実に重要な論点であり、票の分かれ目になったのではないか。

 大阪維新の会が誕生して、まもなく10年になる。私を含め、その政治手法やビジョンに異を唱えてきた者は、今こそ安易な予断を捨てて維新支持者の声に耳を傾け、対話し、なぜ彼らが支持するのか、支持し続けるのか、丹念に考える必要がある。大阪にこれほど深く根づいた維新政治への対抗軸を立てるには、そこから始めるしかないと考えている。

<取材・文・写真/松本創 Twitter ID:@MatsumotohaJimu>

70年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、フリーランスのライター。著書に『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社)など

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最終更新:4/11(木) 20:33
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