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「それは仙さん、筋が違う」山田久志は島野育夫の阪神移籍に抗議した

4/12(金) 6:40配信

webスポルティーバ

連載「礎の人 ~栄光の前にこの人物あり~」第4回:山田久志(後編)

――やはり星野仙一さんが、阪神に行ってしまったということが、プランとしても大きく狂ったと思うのですが。

【写真】山田久志が語る谷繁元信獲得秘話。「名古屋って、難しいところだよ」

「あそこで想定外だったのは、サッチー問題(当時阪神の監督だった野村克也の夫人・沙知代が脱税で逮捕され、野村が辞任)なんだよね。あれが私と星野さんをギクシャクしたほうに持って行くんです。『仙さん、私はあんたに呼ばれたんで、一緒にユニフォームを脱ごうと思って覚悟してるんだけど、あんたがそこまで言うなら(監督を)引き受けましょう。その代わり3年間やったらあんたも帰ってくる?』という話からスタートしたんです。『俺はもう1回ドラゴンズで勝負するつもりはあるよ』ということで引き受けているんです」

――星野第三次政権があったと。

「あったんです。『じゃあ私が3年間やって、今のチームより必ずいいチームにして、もう1回あんたにバトンタッチすることを約束します』『わかった』と。そういう話でした」

――それが阪神の監督に。支えてくれるべき人が、むしろ同じリーグの監督になってしまった。しかも二軍監督の島野育夫さんまで連れて行った。

「新聞辞令で『阪神監督星野、有力候補』と出て、最初見た時にこれはありだなと思いました。ただ島野さんの件は、私はショックだったね。あの時は電話で、ふたりで結構しゃべりました。『それは仙さん、筋が違う。いくらなんでも』と」

 調べたら、島野の入閣は既成事実的に決まってはいたが、中日が島野と契約書をまだ交わしていなかった。その結果、片腕と考えていた島野は阪神に移籍し、山田は組閣の再編に迫られた。しかし、本来球団とのパイプ役になってくれるはずの星野はおらず、コーチ人事についての山田からの要望は通らなかった。

 現場を預かる山田へのサポートが、いかに希薄であったのか。象徴的な現象が、ドラフトと「ケビン・ミラー問題」から見てとれる。ドラフトは2001年と2002年の中日の指名選手を見れば、一目瞭然であろう。上位指名に山田の意向は反映されていない。

 2001年は、山田本人は大阪桐蔭の中村剛也(西武ライオンズ)を推していたが、谷繁元信がいるにも関わらず1巡目(前田章宏)、3巡目(田上秀則)ともに捕手。2002年の1巡目はアライバが全盛期を迎えようとしているのに内野手(森岡良介)であった。

 前後を挟む指揮官、星野や落合博満が強化や編成の実権を持たされていたことと比べればあまりにも対照的である。そして、フロリダ・マーリンズのケビン・ミラー獲得の失敗。

 メジャーで二年連続の3割を記録していた主砲とはすでに2年契約を交わし、支配下登録も済ましていた。ところが、ボストン・レッドソックスが横やりを入れる形で獲得を宣言、ミラーもこれに呼応して来日を拒否する。

 MLBはこの横紙破りを見て、実質的に理は中日にあるという立ち位置から、仲裁をせずにいた。だが、MLB選手会がミラーを支持し、この年に行なわれる予定であった日本での開幕戦のボイコットをチラつかせると、一気に腰がくだけて中日は契約解除に応じてしまう。

 実際、ガバナンスを破ったのはレッドソックスとミラーの方で、それはまるで日米外交の縮図を見ているような押し切られ方であったが、自由契約にするにしても山田には何の相談もなかった。

「最初に決まったと電話をいただいて、構想がもう自分の中であったんです。ミラーとゴメスを組ませて、そこに福留をはめてと考えて打線は形になったなと」

 しかし、それも画餅に帰してしまった。

 一方、2002年6月になると、すでに引退していたキューバのスラッガー、オマール・リナレスの獲得が親会社主導で発表された。

 中日新聞社にキューバとのパイプ確保の意図があったのであろうが、全盛期ならばともかく、すでにリナレスは野球ができる身体ではなかった。それでも「使え」という指令が来た。一塁しかできないということで、これで選手起用の枠がひとつ制限されることになった。

 結局、リナレスは日本シリーズでの活躍はあったものの3年間在籍して通算86本の安打数を記録して日本を去った。

 礎を築きながら、1年目は巨人に優勝を許し、2年目は星野阪神にぶっちぎられたことで、球団は山田に対して冷淡であった。

 2003年9月9日、勝率はほぼ5割をキープしながら、遠征先の広島で解任を告げられた。

 ホテルを出る際、見送りは誰ひとりおらず、選手に挨拶をすると自分で荷物をまとめ新幹線に乗り込んだ。グリーン車で名古屋に帰る途中、社内のニュースで「中日ドラゴンズの山田久志監督解任」という文字が流れるのを見た。

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最終更新:4/12(金) 18:43
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