ここから本文です

<解説>ブラックホールの撮影成功で何がわかったのか?

4/12(金) 18:23配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

月面に置いたオレンジを撮影するようなもの

 イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)は当初、私たちの太陽系を含む「銀河系(天の川銀河)」の中心にある超大質量ブラックホールを撮影しようとしていた。「いて座A*(エースター)」と呼ばれるそのブラックホールの質量は太陽の400万倍ほどで、M87に比べるととても小さい。そこで研究チームは、銀河系から最も近く、最も大きいブラックホールの1つであるM87のブラックホールにも望遠鏡を向けて、将来的には両者を比較したいと考えた。

 M87のブラックホールの肖像画の方が先に得られたのは、私たちの銀河系の中心をのぞき込むことが、隣の銀河団のブラックホールに目を凝らすことより少々難しかったからだ。

 ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した数々の驚異的な写真が単一のスナップショットだとすれば、今回のEHTの画像は、複数の望遠鏡での観測結果を「干渉法」という手法で合わせた合成写真だ。別々の望遠鏡で同時に観測した結果を照合することで、望遠鏡の間の距離と同じ大きさの1個の巨大な望遠鏡を使っているかのように対象を「見る」ことができる。

 超大質量ブラックホールは、それを取り巻く銀河に比べれば非常に小さい。こうしたブラックホールの姿を写し出すためには、世界各地の電波望遠鏡を動員する必要があった。最終的に、メキシコ、ハワイ、米アリゾナ州、チリ、スペインの6つの天文台の望遠鏡がM87に向けられた。この観測網は地球と同じ大きさの1つの望遠鏡として機能し、ハッブル宇宙望遠鏡が見られる天体の1万分の1の大きさの天体を観測できる。

 EHTの画像チームのメンバーである米カリフォルニア工科大学のケイティー・ブーマン氏は、「私たちが撮影しようとしているものは、空の中ではとてつもなく小さいのです」と説明する。「月面に置いたオレンジの写真を撮影しようとするようなものです」

 研究チームは数日間、短波長の電波でM87を観測した。電波であれば、銀河の中心部を包む塵とガスの雲を貫くことができるからだ。研究チームがM87やその他の天体の観測で収集したデータは5ペタバイトにもなり、データはハードディスクごと運ばなければならなかった。

 研究チームのメンバーである米アリゾナ大学のダン・マローン氏は、「5ペタバイトのデータは途方もない大きさです」と言う。「MP3ファイルなら5000年分の音声データに相当します。私が読んだ文献によれば、4万人が生涯に撮影する自撮りコレクションが5ペタバイトになるそうです」

 別々の天文台からの観測結果をつなぎ合わせる作業は非常に複雑であるため、4つのチームが独立にデータ処理を行った。各チームは別々のアルゴリズムを用い、その結果を別のモデルと比較して検証した。その結果、各チームが生成した画像は互いによく似ていて、観測に問題はないことが示された。実際、最終的に得られた画像は、研究者が事前に行っていたシミュレーションで得られた画像とほとんど見分けがつかないほどよく似ていた。

 EHTチームのメンバーであるオランダ、アムステルダム大学のセラ・マーコフ氏は、「怖いくらい予想通りでした」と言う。

 研究チームは、近いうちに、地球から最も近く、最も重要な超大質量ブラックホールであるいて座A*の画像を発表する予定だ。しかし、いて座A*の方が近いから、今回の画像よりシャープな画像になるだろうと期待してはならない。

 英国の王室天文官であるケンブリッジ大学のマーティン・リース氏は、「M87のブラックホールはいて座A*の約2000倍遠くにありますが、大きさも約2000倍です」と言う。「つまり、地球から見た時の大きさはどちらも同じなのです」

2/4ページ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事