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【書評】冷戦の戦士に捧げる「鎮魂歌」:ジョン・ル・カレ著『スマイリーと仲間たち』(後編)

4/12(金) 17:05配信

nippon.com

滝野 雄作

ソ連から亡命してきた軍人が、ロンドンで惨殺された。二重スパイだった男は死の直前、ソ連情報部の巨魁にして工作指揮官、カーラの名前を口にしていた。伝説のスパイ・マスター、ジョージ・スマイリーが引退生活から呼び戻される。ついに両雄が激突する――。その後編。

(前編から続く)

 この作品のどこに面白さがあるのか。
 物語の楽しみ方は、読者のお好みでいく通りもあるだろう。

 私は、過去作品の登場人物、すなわちタイトルにあるスマイリーの仲間たちの再登場の場面で、思わず拍手喝采してしまった。
 彼らとスマイリーとのやり取りを、ひと言ひと言、噛みしめるように読んだものである。

 そのひとりが、トビー・エスタヘイス。
 スマイリーは、一枚の写真を手掛かりに捜査を続ける。それは、浮かんだ疑問のひとつひとつをつぶしていく作業だった。
 なぜ殺害された亡命軍人のウラジーミルは、自分との接触を求めたのか。直接の工作担当者はエスタヘイスだったはず。これが最初に浮かんだ疑問だった。

「夢に見ていた獲物」

 スマイリー・シリーズの過去作品を読んだ読者ならご記憶かと思う。血の気の多いハンガリー人で、かつてスマイリーがスカウトした情報部員。
 スマイリーは、引退して美術商の身分を手に入れたエスタヘイスに会いに行く。

 案の定、ウラジーミルは、エスタヘイスと接触していた。老いた「将軍」は、彼にこう告げた。
「マックスがいつも夢に見ていた獲物を釣りあげた」
 マックスはスマイリーの暗号名。
「夢に見ていた獲物」は、ソ連の工作指揮官カーラを指す。
 さらに、スマイリーに伝えてくれと、
「サンドマンがひとりの女のために伝説をこしらえている」
 そういえばわかる、と言い残している。
 エスタヘイスは亡命者を相手にしなかった。だからスマイリーに接触しようとする。その過程で、ソ連側にも行動が筒抜けになっていた。誰かが密告したのだ。

 スマイリーに目指すべき光が見えてくる。エスタヘイスの証言によって、亡命者殺害事件の輪郭がうっすらと浮かんできた。
 だが、エスタヘイスはスマイリーにこう忠告するのだ。
「いまになってクレムリンめがけ騎兵隊最後の突撃かい。もうおれたちはおわったんだよ、ジョージ。もう資格がないんだ。ご用ずみだよ。やめたがいい」

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最終更新:4/12(金) 17:05
nippon.com

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