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橋下徹・元大阪府知事がジャーナリストを名誉毀損で提訴。しかし、法廷で証言の矛盾を追及される

4/13(土) 8:32配信

HARBOR BUSINESS Online

◆橋下徹氏がジャーナリストの岩上安身氏を名誉棄損で提訴

 元大阪府知事・大阪市長でタレントの橋下徹弁護士が岩上安身・インディペンデント・ウェブ・ジャーナル(IWJ)代表を被告として起こした名誉毀損・損害賠償請求訴訟(リツイート裁判、岩上氏も反訴)の第6回口頭弁論が3月27日午前10時15分から、大阪地方裁判所第13民事部(末永雅之裁判長、重高啓右陪席裁判官、青木崇史左陪席裁判官)第202号法廷で開かれた。

 この日の午前中の弁論では、元大阪府職員の大石晃子氏が被告(反訴原告)の岩上氏側の証人として、また、原告(反訴被告)の橋下氏側の証人として、小河保之元大阪府副知事が出廷した。午後は、岩上、橋下両氏が証言台に立った。

 大阪地裁は午前8時10分ごろから30分まで傍聴券を配布したが、傍聴希望者は64人で、法廷の傍聴席は90席(記者クラブが13席占有)あり、全員が傍聴できた。

◆岩上氏が橋下氏の「訪台前の会議決定なし」を暴露

 午後1時15分からの証人尋問で、岩上氏と橋下氏が並んで「偽証しない」との宣誓文を順に読み上げた。橋下氏は「偽りを述べず」の部分で噛んでしまうなど、かなり緊張しているようだった。

 先に岩上氏が証言した。岩上氏は梓澤和幸弁護士の主尋問で、出版社、週刊誌、フリー記者、テレビコメンテーター、IWJの設立など自身の経歴を述べた。そして、40年間のジャーナリストの仕事ではまず潜行取材を重ね、ファクトを掴み、最後に当事者に当たり取材をして報道することを実践してきたと語った。

 橋下氏の提訴については、「橋下氏に取材したことがある。橋下氏は事前の問い合わせも何もなく、いきなり訴状を送ってきた。IWJの業務を妨害する意図があったと思う。私がリツイートした元ツイートについて、橋下氏は『僕が直接職員を自殺に追い込んだと書いていた』と非難しているが、元ツイートは、知事が幹部を叱責したと書いており、自殺した職員を直接叱ったとは書いていない。

 

 ツイートの文章を読めば誰でもわかると思うが、『幹部たちに生意気な口を聞き』で切れている。『幹部たち』とは複数で、複数の人間がみんな自殺したっていう話に、直結したらなってしまう。何よりも述語が大事だが、この述語を橋下氏は、法廷に出している書面、ツイッターなどでカットしている。た、『追い込んだ』の後に句点まで打っている。これは原文の改竄である」と述べた。

 坂弁護士は、J-Castニュース、『FRIDAY』、『週刊文春』、『週刊金曜日』、『新潮45』、宝島社など、橋下氏のもと参事だったN参事の自殺と橋下知事の関係について聞いたのに対し、「競合関係にある他のメディアも、の自殺の真相に迫っていたので、ライバルにヒントを与えてはいけないと感じて、本格的な深堀り取材レポートを書く前にリツイートを削除した」と述べた。

 この後、岩上氏は「IWJの独自取材で、大阪府の担当者に確認したが、知事の訪台に関する部長会議、戦略会議での決定はなかったという正式に回答を得た。橋下氏のこれまでの説明は事実に反している」と“爆弾”証言した。

◆岩上氏の弁護団が橋下氏の虚偽記述を追及

 最後に証言台に立ったのが原告の橋下氏だった。橋下氏は、訴訟代理人である松隈貴史弁護士(橋下綜合法律事務所)の主尋問で、橋下氏の陳述書(2018年11月29日付)に沿って、「前例のない大阪府知事の台湾訪問は、中国との外交問題に発展する恐れがあるので、台湾の行政関係者との面談をしないなどの台湾訪問に関する方針を、幹部が出席する戦略本部会議で議論を重ねて決定していた」と主張した。

 これに対し、岩上氏側の代理人弁護士はIWJによる調査をもとに、大阪府の意思決定機は戦略本部会議と部長会議であり、それ以外に府としての方針を決定する正式な意思決定機関はない、ということを明らかにしたうえで、「訪台前に訪台方針を議論して決めたという事実は一切ない」ということを明らかにする尋問を行った。

 橋下氏は岩上氏側の追及に対し、「どの会議で訪台方針を決めたかは覚えていない。2つの会議の他に、担当部局と府幹部の会議もある」などと答えた。これは橋下氏が陳述書で書いた「府知事の独断によって意思決定がなされることを防ぐための措置として、上述の『大阪府戦略本部会議』を設置した」「大阪府戦略本部会議において入念に時間をかけて議論を重ね、大阪府知事の台湾訪問の方針を作った」という記述と明らかに矛盾している。

「日本維新の会」創設者で現在も安倍晋三首相と定期的に会食するなど影響力のある橋下氏の法廷での証言の真偽が問われている。傍聴席には記者席が13席あり、橋下氏の証人尋問では、大手メディアの記者9人が取材していたが、橋下氏の食い違いを報じた報道機関はひとつもない。

◆コメントなしのリツイート(後に削除)に対し、100万円を請求

 橋下氏は2017年12月15日、岩上氏が同年10月末、「橋下徹が大阪府の職員を自殺に追い込んだ、という虚偽情報」の元ツイートをリツイートしたことによって社会的信用を低下させられたとして、100万円を請求する訴訟を起こした。

 名誉毀損の提訴でありながら、橋下氏の訴状には、名誉や社会的信用の回復を求める訂正文の公表の要求などが一切ない。100万円という金銭の要求だけだった。橋下氏が真に自身の社会的信用の回復を目指してきたか、きわめて疑わしいものがある。

 岩上氏側は「橋下氏から事前の通告は一切なく、抗議や謝罪の要求もなく、2017年12月末に訴状が届くといういきなりの提訴だった。岩上氏や市民の橋下氏に対する批判を封じることが目的の典型的なスラップ(恫喝)訴訟であり、訴権の濫用に当たる」として、請求の却下を求めた。

 元のツイートは2017年10月25日、「橋下氏、丸山代表の党代表「茶化し」2度目…松井代表『20歳も年下に我慢している』橋下徹が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか! 恥を知れ!」という内容だった。

 岩上氏は翌日、コメントを付けずにこのツイートをリツイートした。岩上氏は数日後、このリツイートを削除した。

 ツイート元の投稿者が取り上げた「自殺」とは、大阪府商工労働部経済交流促進課のN(仮名、法廷では双方が実名で質疑応答)参事(課長級、国際ビジネスグループ長)の件だ。大阪府では「係」制を廃止し、「グループ」制にしている。法廷では双方がN氏の名字を実名にして質疑応答していた。

 大阪府では、橋下府政下の2010年に7人が自殺している。それまでの府庁では自殺者は年間1人前後だった。元のツイートは、N参事の自殺に橋下氏のパワハラが絡んでいると述べていた。

 知事時代に橋下氏が年上の府幹部たちに生意気な口をきき、そのあげくに府職員の自殺事件が起きてしまったことについて、「恥を知れ!」などと、橋下氏に直接呼びかけて、パワハラを諌めるツイートだった。

 そもそもこのツイートは、橋下氏が日本維新の会の丸山穂高議員に対して、ツイッター上で「公開パワハラ」を行っているときに、橋下氏を諌めるために、橋下氏に向けて放ったツイートだった。

 2017年10月の衆院選後、丸山穂高衆院議員(日本維新の会)がツイッターに「議席減となった衆院選総括と代表選なしに前に進めない」などと松井一郎代表を批判する投稿を行った。

 これに対し、自分が創設した日本維新の会の役職を離れ、法律顧問であった橋下徹氏は「口のきき方も知らない若造が勘違いしてきた。言葉遣いから学べ」「代表選を求めるにも言い方があるやろ。ボケ!」などと罵倒するツイートを繰り返した。まさしく政界における「公開パワハラ」だった。

◆橋下氏の「大号令」後に参事が自殺

 元投稿者が問題にした、橋下氏による府幹部に対する激しい叱責は2010年9月14日の府部長会議で行われた。この部長会議の議事録は大阪府のホームページの「部長会議の審議・報告の概要」に掲載されている。

 橋下氏はこの会議で次のように「大号令」を掛けている。

「リスク管理を誰もしてくれず、私は丸裸の状態。今回の所管である商工労働部が準備した当初の日程を見ると、要人との面談まで設定されており、大変驚いた。当初言っていたリスクの話はどうなったのか」

「府では、台湾とは民間交流の範囲内という外交方針を決めていたはず。結局、私が一人で部局に直接指示して、日程を取り仕切り、事なきを得たが、あれだけリスクを言っていたのに、いざ行くとなると全く無くなるのはどういうことか。府民文化部と商工労働部はきちんと連携をとっていたのか」

「台湾サイドには、私が謝罪し、中国への配慮もという事情もお話して、何とか納得していただいたが、これは私だけではなく、府の問題でもある」

◆ないものを「あった」と主張してきた橋下氏

 橋下氏は38歳で知事就任後、以前の府知事が行わなかった台湾訪問を計画し、2010年9月5日から8日まで台湾を訪問した。橋下氏によると、「一つの中国」を重視する中国との外交問題が発生しないように、台湾と府との交流のありかたについて、台湾の行政関係者との交流は行わず、民間レベルの経済・文化交流にとどめるべきだという議論を事前の府庁内の「戦略会議」(副知事や各担当部局の幹部)で決めていたと、繰り返し主張してきた。

 機関決定なのだから、隅々まで府の正式決定が行き渡っていて当たり前であり、違反したものを厳しく叱責するのは当然であるという論理である。しかし前述のように、岩上氏およびIWJの取材によってこの大前提が完全に覆されている。機関決定はなかったのだ。ないものを「あった」と主張してきた橋下氏の偽証が問われる。

 ところが、橋下氏の台湾到着後、台湾の経済部長(経済相に当たる)との面談がセットされており、橋下氏が激怒。橋下氏は帰国後に開かれた部長会議で、「大阪府戦略本部会議で決めた方針について、担当部局の細部にまで意思共有ができておらず、現場の一職員の判断で府庁の決定内容を覆したことを認めるわけに絶対にいかない」と杉本・商工労働部長(当時)らを叱責した。橋下氏の非難の的になった「現場の一職員」の上司が自殺したN参事だとされる。

 橋下氏は陳述書で「大阪府戦略本部会議において、台湾訪問担当部局の部長への注意は、何ら非難されるものではなく、今後重大なミスをおかさないためにも必要な注意だったと確信している」と断言している。

◆訪台前に方針決定の会議はなかった

 大阪府には、府庁の意思決定機関は戦略本部会議と部長会議しかない。大阪府のホームページには、この2つの会議の議事録が掲載されている。橋下氏は「知事になって一番力を入れたのは情報公開で、戦略本部会議と部長会議の議事録はすべて公表している」と断言している。

 府庁内で「部長会議」を担当しているのが政策企画部政策企画総務課だ。同課の安井利昌主査はIWJの中村尚貴記者の電話取材に、「橋下前知事の訪台について、訪台前に会議で議題になった回はない」と表明した。安井氏は「橋下前知事は議事録をすべて公開し、記者クラブにも配布していたので、議事録にないということは、議論がなかったということだ」

 また、政策企画部企画室政策課の粟井美里主事(戦略本部会議担当)は「2010年5月から9月までホームページの議事録に出ている議題がすべてで、訪台に関して議題になったことはない」と答えている。安井、粟井両氏は「この2つの会議以外に、橋下氏を含めた幹部の会議はない」と述べている。

 安井氏は4月2日、筆者の電話取材に「橋下氏の台湾訪問前に、訪台のことが議論されたという記録はない」と述べた。粟井氏も4月5日、「IWJの中村記者に話したとおりで、訪台前に議論をしたという記録はない。非公開にする場合でも、議題に載せないということはない」と述べた。

 橋下氏の陳述書などでは、訪台の方針を「戦略会議」または「部長会議」で慎重に議論を重ねて決めたと言っているのだが、府の両会議の担当者が「いずれの会議でも、訪台前に訪台に関することが議題になったことは一度もない」と明言しているのだ。

◆橋下氏は「岩上さんとは、話し合いをしても仕方がない」と主張

 この日の口頭弁論で、最後に証言台に立ったのが橋下氏だった。原告の橋下氏は松隈弁護士(橋下綜合法律事務所)の主尋問で、府知事時代の「行革」「財政再建」などの成果を詳しく語った。

 岩上氏側が「事前の通告、謝罪の要求もなく、いきなりの提訴で、橋下氏批判を封じることが目的のスラップ(恫喝)訴訟で、訴権の濫用に当たる」と主張していることについて聞かれ、次のように答えた。

「政治家の時は、批判は仕方がない。しかし、政治家の時と違い、いまは権力のない私人だ。出自に関する報道や人格批判など限度を超えたことを言われると、今の活動にも影響するので、内容証明などで修正、謝罪を申し入れる。

 大阪と東京の事務所でスタッフがチェックしている。大手メディアは、根拠のない報道の場合、必ず訂正、謝罪をしてくれる。話しても無駄、無理な人や団体も多い。そういう場合、内容証明、事前の交渉なしに訴える。

 岩上さんは、話し合いをしても仕方ないと考えた。提訴の後の岩上さんの記者会見などを見ると、訴訟提起に不満を言っており、内容証明を出しても無駄だったと思っている」

◆「訪台の方針はどの会議で決まったのか」という問いに、橋下氏「記憶していない」

 中北龍太郎弁護士は橋下氏への反対尋問に立ち、訪台の決定などについて聞いた。

中北弁護士:自殺した参事の名前はいつ知ったか。

橋下氏:最初の報告では、氏名は分からなかった。

中北弁護士:台湾で台湾の経済部長との面談が旅程に入っていたことだけが問題だったのか。

橋下氏:それは大問題ですよ。

中北弁護士:訪台の方針はどの会議で決まったのか。

橋下氏:戦略本部会議なのか部長会議か記憶していない。戦略本部会議だと思っているが、小河・前副知事の証言を今日聞いて、他の会議の可能性もあると今思っている。

中北弁護士:いつの会議か。

橋下氏:訪台する準備に1、2か月かかるので、3か月前ぐらいだろう。さんざん議論している。外務省から出向してもらっている国際交流監にも入ってもらった。台湾のVIPとは接触しない、経済人としっかり交流するという方針を決めた。

中北弁護士:議事録に残っているか。

橋下氏:議事録をすべて残している。外交マターなので、情報非公開にしているかもしれない。会議の記録は1年間に何万枚もあるので全部は見ることができない。議事録には残っている。会議でやっているなら残っている。

中北弁護士:2010年10月14日に参事の自殺に関し記者会見を求められ、「僕の組織運営の在り方に問題があったのかもしれない。遺族の方に申し訳ない」と表明している。

橋下氏:職員が自殺したので、相談対応、上司の動きなどに問題はなかったかなど検討した。最終的には組織の長の責任だ。

中北弁護士:原告は名誉毀損だというが、「直接、俺が罵倒して自殺に追い込んだ、と書いている」という原告の主張は誤りではないか。元ツイートは、橋下氏が、幹部たちに偉そうなことを言ったと書いており、自殺した職員は幹部ではないので、直接叱責した相手は自殺した人ではないのは明らかではないか。

橋下氏:一般読者の読み方では、僕が職員を自殺に追い込んだと受け止められる。

中北弁護士:別の読み方をする人はごく少ない。

◆「自殺に追い込んだ」とネットで発信する講談社は放置する矛盾

 次に、楠晋一両弁護士は原告を「橋下先生」と呼んで、「講談社の『現代ビジネス』、(2011年10月23日)の記事では、<大阪府幹部職員が爆弾証言「私の同僚は橋下徹府知事に追い込まれて自殺した!」>と書いている。この記事を見たか」と聞いたのに対し、橋下氏は「見ていない」と答えた。

楠弁護士:現代ビジネスの記事では、「11月府知事&市長W選挙に持ち込んだ独裁知事。その維新のウソを側近たちが暴く」と書かれている。この内容は虚偽か。

橋下氏:虚偽だ。

楠弁護士:この記事は今もネットに掲載されているが、橋下先生は講談社に削除要請、裁判をしているか。岩上氏への対応と、講談社への対応はあべこべではないか。

橋下氏:この記事は、匿名職員からの取材ということになっている。取材がそれなりにされていれば、真実相当性があるので仕方がない。岩上氏は取材をしていない」「2011年の政治家の時のことで、時効のこともある。

楠弁護士:この記事は2018年6月に証拠として出している。記事は現在もネットに流れているのに、なぜ放置しているのか。

橋下氏:それなりに取材をしている。問題のツイートは匿名で、取材もしていない。

 N氏の自殺については、このほかの単行本や雑誌などでも、橋下知事とかかわりがあると詳しく書いている。ネットでアクセスできる記事も多い。

◆「政治家を辞めた自分は一私人」と主張

 楠弁護士は、橋下氏が17年10月25日にツイッターで丸山議員を非難したことを取り上げた。

楠弁護士:岩上氏がリツイートした内容は、橋下先生が丸山議員を公開の場で厳しい言葉で、いわば“吊し上げ”をしたことを諫める言葉と受け止めなかったのか。

橋下氏:それは自殺の話と全然違う。丸山議員への批判のことを問題にするなら、きちんと言っていただくか、自殺に追い込んだと言うなら、しかるべき取材方法を明示してもらいたい。

楠弁護士:丸山議員への非難は暴力的で、厚労省が定める精神的な攻撃、パワハラに当たるのではないか。

橋下氏:あれがパワハラなのか。国会議員に対してパワハラというのがあるのか。政治家に対する表現としては許される。

楠弁護士:これまでの活動から考えると、橋下先生は一私人と言えるのか。

橋下氏:私はいま一私人で、権力はない。名誉毀損、侮辱かどうかぎりぎりだが、私人が国会議員を批判するのは許される。

楠弁護士:岩上氏のリツイートを知ったのはいつか。

「事務所が2017年10月下旬に見つけた。事務所がメディアをチェックしているので、すぐに引っかかってくる」と答えた。

楠弁護士:岩上氏もチェック対象の中にして入れていたのか。

橋下氏:もちろんだ。メディアとメディアで発信している人たちをチェックしていた。一般人は対象にしていない。

◆橋下氏は岩上氏の投稿がリツイートだということを知らなかった

 橋下氏は、岩上氏の投稿がツイートかリツイートかも知らず、岩上氏のツイートだと思いこんでいたこと、岩上氏がリツイートを削除したことも知らずに提訴したことを“自白”した。

楠弁護士:当初からリツイートだということは知っていたか」

橋下氏:いや、リツイートだと分からなかった。アプリでやるのとヤフーの検索では違う。岩上氏のツイートだと思っていた。ただし、ツイートでもリツイートでも同じだ。

楠弁護士:橋下先生はツイッターを長くやっているので分かるはずだ。岩上氏がリツイートを削除したのは知っていたか。

橋下氏:知らなかった。

楠弁護士:訴状に削除があったと書いているので確認していたのでは。

橋下氏:提訴前なのだろう。

楠弁護士:岩上氏は早い時期に削除したと言っている。提訴前に確認しなかったのか。

橋下氏:代理人から聞いたかもしれない。

楠弁護士:削除された場合、損害の中身とか違ってくるのではないか。

橋下氏:岩上氏からまったく連絡がなかった。削除されても伝播される。

楠弁護士:伝播されたか調べたか。

橋下氏:伝播されたと思う。リツイートだったことは、僕は分からない。岩上さんのツイートだと思った。

◆「謝罪をしてくれていれば提訴しなかった」と弁明

 この後、橋下氏は「私にはごまんとひどい報道があるが、謝罪とか連絡があれば訴えない」と強調した。「大阪と東京の事務所で、「間違った報道があると、大手メディアの場合、『事実誤認なので削除、謝罪する、訂正する』などという連絡が入る。岩上氏の場合は削除、謝罪の連絡がなかった」。

 楠弁護士は「岩上氏は交渉しても交渉に応じてくれる見込みがない方だから、事前交渉をしなかったと言っている。岩上氏が謝ってきていれば訴えなかったとも言っているが、方針があべこべになっているのではないか。『自殺』は言い過ぎではないかなどと、ここが違うという話になって、こちらも初めてチェックし、確認不足ではないかということになるのではないか」と追及した。

 これに対し、橋下氏は「私に指摘をしろと言うのだろうが、世の中でいろんなことを書かれているのでいちいち対応できない。表現者の責任だ」と答えた。

 また、「削除もしているのだから、提訴前に確認してもよかったのではないか」と再び質問したのに対し、「岩上氏の過去の記事を見ている。この人は全く交渉相手にならないと判断した。大手メディアの場合は、調査不足の中で先走ってしまったと認め、訂正・謝罪をするので、こちらも寛容に対応している。それが岩上氏からはなかった」と答えた。

 さらに、「岩上氏の提訴の後の記者会見、反訴も見ると、内容証明を出しても無駄だったことが分かる」と述べた。

 梓澤和幸弁護士は「訪台3か月前、会議で訪台の方針を議論したと言ったが、方針を決めた会議の名前は特定できるはずだ」と質問。それに対して橋下氏は「大阪府のホームページ、何何部との打ち合わせと全部書いている。担当部局との会議なんて名前が付いていない。おそらく、組織を運営していないから分からないのだと思う」と反論した。

 橋下氏は「質問が無理なので、裁判長、質問を切ってください」。裁判長は次の質問を促し、梓澤弁護士は「台湾訪問の府としての方針を決めた会議の権限は何か」と聞いた。「権限は最終的に知事にある」と言い切った。

◆遺書を確認せず「職務上の自殺ではない」と結論

 最後に西晃弁護士が反対尋問を行った。

西弁護士:訪台2日前の9月3日、杉本伸雄・商工労働部長(2012年退職)が『府民文化部が文書化したものに、台湾の経済部長との件は異議がある。このまま放置すると商工労働部の責任になる恐れがあるので、府民文化部に確認をとるように』ということを聞かされていると思うが、橋下氏は知っているか。

橋下氏:知らない。

西弁護士:その時に、『確認を』と指示された職員は『確認の必要はない。責任は私がとる』と返答している。これは府のN参事自殺に関する調査報告書に書かれているはずだが、それは見ているか。

橋下氏:報告書をそこまで読んでいない。最も重要なのは(知事に)責任があるかどうかだから。

西弁護士:責任を自分がとりますと言って、杉本部長からの確認要請を断った職員は誰か知っているか」。

橋下氏:知らない。

西弁護士:この人がN参事だ。

橋下氏:報告書は公になっているのか。

西弁護士:なっていない。私たちが必死に調査して知った。N参事の遺書の中身は今でも分からないということか。

橋下氏:分からない。

西弁護士:遺書の内容を全く吟味、検討せずに、N参事の自殺が職務上のものではなく公務上のものではない、因果関係がないと言えるのか。

橋下氏:私は総務部長にきちっと調査するように命じ、家族のみなさんにもしっかり話をするように指示した。もし、家族の方が遺書を見てほしいというなら、必ず私のところに来たはずだが来ていない。弁護士も入った分限調査委員会がすべて検討した結果、結論付けている。

西弁護士:遺書との関係ではどういう報告が上がっていたか」「関係ないという報告だった。個別の案件で報告書を全部読むことはできない。報告を聞いて、俺の責任か、ないなら組織の責任で対応をしていくということだ。

 末永裁判長は府に対し、元ツイートで言及された橋下氏と府職員の紛争を調査した府報告書の文書送付嘱託を行なったが、大阪府は提出を拒んだ。岩上氏側は地裁に提出命令を出すよう請求したが、裁判長は請求を棄却していた。

◆尋問終了後に「補足発言」を求め、却下された橋下氏

 裁判長が証人調べの終了を宣言し、原告と被告に次回の口頭弁論で結審し、その上で判決言い渡しを行うと表明し、双方に最終準備書面の作成にかかる日数を聞き、次回期日の日程を決定したいと述べた後、橋下氏は突然挙手した。

「裁判長、途中ですが、証言の補充を行いたい。謝罪と訂正が被告からあれば提訴しなかったことについて一言言いたい」と発言した。これには、傍聴席から失笑が漏れた。

 裁判長は「証人調べはさきほど終わった」と答え、岩上氏の代理人弁護士も「証言は終わった」と拒否した。それでも、橋下氏は「謝ってさえしてくれれば裁判にしなかった」と再び発言した。裁判長は「言いたいことは最終準備書面で主張してほしい」と橋下氏の請求を拒んだ。

 橋下氏は、岩上氏に何の連絡もせず、いきなり訴状を提出している。それなのに、「謝ったら提訴しなかった」というのだ。橋下氏は何を焦っていたのだろうか。岩上氏の代理人の西弁護士は「橋下氏に言ってもらったほうがよかったかもしれない。何を言おうとしていたのだろうか」と話している。

 橋下氏は報道陣の囲み取材も受けず、裁判所から消えた。次回の口頭弁論は7月4日(木)午前10時半、大阪地裁1010号法廷で開かれる。

◆岩上氏は訴訟で1800万円以上の損害

 西弁護士は裁判後に大阪弁護士会館で開かれた報告集会で、「私たちの調査で、府の調査報告書に、遺書の内容がわかった。『仕事上の課題・宿題が増え続け、少しも解決しません。頑張っても頑張っても出口が見えません。もう限界です。疲れました。グループ員がこのようなことにならないよう、配慮願います』という言葉を遺して入水自殺した」と述べた。大阪府では「係」制を廃止して、グループ制にしている。

 N参事は「府の決定を現場サイドが従わなかった」と叱責され、上からと下からの圧力に挟み撃ちにされて、自ら命を絶った。N氏がなぜ死んだのかが、この裁判をとおして明らかになってきた。府の方針を現場で拒否したと罵られた部署の中心に座っていたのがN参事だった。

 橋下氏は、岩上氏のリツイートによって、どういう損害があったかを証言しなかった。訴状には、事実誤認があるという主張もない。

 一方、被告の岩上氏は「この提訴で、弁護士費用、IWJのインタビューの激減などで会員数、カンパが減り、いろいろな病気になり、1800万円以上の損害があった」と強調した。

 この日の証人尋問では、裁判長が何度も「聞かれたことに答えるだけにしなさい」「時間がなくなる」などと、岩上氏の発言を制止。岩上氏の代理人弁護士の反対尋問の際も、「こういうことか」と聞いて、「それでは私が聞きます」と勝手に弁護士の質問を翻訳して聞くことがしばしばだった。

 橋下氏の大阪と東京の事務所がメディアチェックを行い、内容証明郵便を送って、事前交渉で謝ってきたら訴えないということを日常的にやっていることが分かった。しかし、どう交渉し解決しているのかは不明だ。

<取材・文・写真/浅野健一(ジャーナリスト、元同志社大学大学院教授)>

※2018年4月19日行われたこの裁判の第1回口頭弁論については、筆者は『週刊金曜日』に書いている。

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最終更新:4/14(日) 16:56
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