ここから本文です

トレーニングの革命になり得る?サッカーの「制約主導型のアプローチ」とは

4/15(月) 21:31配信

footballista

TACTICAL FRONTIER――進化型サッカー評論

サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。

文 結城康平


 戦術的ピリオダイゼーションを筆頭に、トレーニングの方法論は「アカデミックな視点」を融合することで飛躍的な進化を遂げた。ピッチ上の事象を再現することを目指し、トレーニングはゲームに近づいていく。結果として、スカウティングへの影響も見逃せない。ユルゲン・クロップが、試合前にマンチェスター・シティのトレーニングを熱心に観察していたように、試合前のトレーニングからは様々なチームの特徴をつかむことが可能である。マルセロ・ビエルサは「同じカテゴリーに所属する、全チームのトレーニングを把握しようと試みている」と述べ、その重要性を再認識させた。今回は、多くの先進的な指導者を惹きつけている新たなアプローチに迫ってみよう。

ゲーム中心主義からの脱却

 1986年に、制約主導型のアプローチ(Constraints-Led Approach)を発案したのは、イリノイ大学のカール・M・ニューウェルだと考えられている。生理学・生体力学・運動機構学を含むキネシオロジーの研究者として知られる彼は、知覚・運動学習において「スキルの習得」における「制約の重要性」を主張した。

 ニューウェルは個人・環境・タスクにおける制約が知覚運動学習における変化に繋がり、個々の意思決定を導くという論理を展開した。フットボールというスポーツだけでなく、この研究は広範囲で活用されており、例えばバスケットボール・ヨット・ボクシング・ラグビーなどのスポーツにおいても、多くの学術研究が存在している。日本でも多くの指導者が「様々なルール」という制約を定めることで「選手のプレー基準に変化を与える」アプローチを練習に活用しており、例えば「タッチ数の制限」も基本的な「制約主導型のアプローチ」だ。イビチャ・オシムは思考のスピードを鍛えることを目的に、多色のビブスを使ったトレーニングを好んだ。一見すれば「基本」とされるようなトレーニングに注目が集まっているのはなぜなのだろうか?

 フットボールというスポーツ特有の理論として発展した戦術的ピリオダイゼーションの根底には、「反復トレーニングの否定」が存在する。彼らはゲームにおける有機性と複雑性を重要な要素だと捉え、「サッカーは、サッカーをすることで上達する」という命題を掲げている。

 一方で、この戦術的ピリオダイゼーションを基礎とした近代の理論を信奉することは「紅白戦」のような試合形式のトレーニングに過度に集中してしまうリスクを内包している。それは時に「ゲーム中心主義(Game-Centered Approach)と呼ばれるが、UEFA-Aライセンスを所有する「制約主導型のアプローチ」の提唱者マーク・オサリバンは「ゲーム中心主義は、過度に受動的なアプローチである」と否定的な見解を示す。多くの指導者が理論的な枠組みを学ぶことなく、ゲーム中心主義へと傾倒するリスクは深刻だ。

 ゲーム形式のトレーニングは様々な要素を内包し、エコロジカル(生体力学的)な関係性を発展させることに繋がる。この「エコロジカル・ダイナミックス」というのも現代トレーニング論における1つのキーワードだが、「個人と環境の相互作用によって生じる、知覚・認識・意思決定のプロセスと行動」と定義されている。言い換えれば、選手はゲームという環境に放り込まれることで知覚・認識・意思決定を求められていく。彼らは複数のプレーヤーが共存し、競い合う環境に置かれることで「自然発生的な関係性」を発展させることになる。自然発生的なチームメイトとの連係、ゲームという環境に合わせた自主的な工夫などは、大人に指導されることによって生じるわけではない。柔軟なアイディアを武器にする選手が、指導者が存在しないストリートフットボールから輩出されることは「ゲーム自体が持つ価値」を象徴している。一方、ストリートフットボールの本質的な価値は「自然発生的にプレーヤーが作り上げるルールである」という言論も存在する。限られたスペースでのプレーや簡易的なゴールは「制約」となり、チームメイトも次々と入れ替わる。さらに、自分たちが制約的なルールを作ることもある。

 こういった目線から解釈すると、制約的なアプローチは「環境の最適化」に繋がる。環境を最適化することで、個人へのフィードバックを最適化させるのだ。デイビスを中心とした研究グループの論文を引用すれば、「必要なスキルだけをトレーニングすることは、認知と行動を切り離してしまうリスクに繋がる。だからこそ、試合の複雑性を『単純化』することで選手の認知を助けながら、トレーニングのターゲットを明確にする」ことが求められる。ゲームにおける有機的な要素を残しつつ、選手に足りていないスキルを磨いていくことが、指導者の理想だろう。

1/2ページ

最終更新:4/15(月) 21:31
footballista

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊フットボリスタ

株式会社ソル・メディア

Issue 072
8月10日(土)発売

定価980円(税込)

[特集]
19-20欧州各国リーグ展望
53人の要注意人物

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事