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トレーニングの革命になり得る?サッカーの「制約主導型のアプローチ」とは

4/15(月) 21:31配信

footballista

環境のコントロールで状況判断を鍛える

 選手の育成において、環境は重要極まりない。環境の言語化は1つの重要な鍵だが、制約主導型のアプローチの重要性を読み解くためには「アフォーダンス」という単語が使われる。アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンによる造語だが、環境が生物に対して与える「意味」のことである。

 シンガポールの教育学者J.Y.チョウは「12歳の少年にとって、小さなサイズのバスケットボールは3ポイントシュートの機会を与える。大人用のボールでは、その機会を与えることは不可能だ」と「アフォーダンス」を表現しているが、特に育成年代において「制約を定める」ことで環境をコントロールし、選手が特定の情報を「制限された環境」から得ることは重要だ。制限された環境において、選手は指示されるのではなく「自主的に状況判断をする」必要に迫られる。状況判断は「環境を認知する能力」に依存するが、育成年代の選手に自主的な判断をさせたいと考えた時、通常のゲームでは複雑過ぎる場合が多い。だからこそ、「選手に意味を与えられる環境を整えること」が求められてくるのである。

 例えばフルアムでの指導経験があるデイビッド・ライト氏が作成したユース年代向けの練習メニューでは、「ボールを保有するチームの自陣で両チームがプレーする=守備側は敵陣でのプレッシングが義務づけられる」ので、背後にスペースが生じやすくなる。ボールを奪っても、必ず自陣からのビルドアップがルールとなっているので、選手は相手の守備が整った状態からパスを繋がなければならない。さらにハーフウェイラインをドリブルで越えることは許されていないので、コンビネーションで相手のプレッシングを突破する必要がある。

 このような制約を課すことで、選手たちはフリーランやワンツーを使う技術を習得していく。アイルランドサッカー協会は育成年代のサッカーで「相手が自陣からビルドアップする際に、必ず特定のラインまで選手が戻らなければならない」という「リトリート・ライン」と呼ばれるルールを定めることで、前からのプレッシングを制限。これは逆にプレッシャーを弱める「守備側の制約」によって、丁寧に数的優位を生かすビルドアップを奨励している。2017年にトーマス・マクガッキアンが発表した研究によれば、狭いピッチでのプレーは「スペースの制限」によって「首を振って、スペースを探す動作」の回数を増加させることがわかった。つまり、ピッチを狭くすることで「ボールタッチの技術だけでなく、状況把握の能力を向上させる」ことが可能となる。

 「制約主導型のアプローチ」を指導の現場に持ち込む時、重要視されているのが「教育学・認知科学への理解に基づいたスキル習得の理解」だ。指導者は、的確な制約を課すことによって選手を成長させることになるが、効果の最大化は非常に難しい。例えば同じようにピッチを狭くするトレーニングでも、「特定のスキルを向上させる」という目的に合わせた様々なバリエーションを使い分けなければならない。指導者はチームの特性や状態に応じ、選手が「どのようなスキルを向上させなければならないか」を理解する必要もある。

 育成において着目を浴びるフットサルも、人数やピッチ・時間やルールの制限が存在する「制約主導型のアプローチの一種」という興味深い主張も存在する。オーストラリアのように協会主導での導入を進める国も存在するように、制約主導型のアプローチは今後さらに注目のトレーニング哲学である。

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最終更新:4/15(月) 21:31
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