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アヤックスがユーベを凌駕した戦術的要因とは? 信じられない夜を演出した「我われの哲学」

4/17(水) 11:52配信

フットボールチャンネル

 チャンピオンズリーグ(CL)でレアル・マドリーに続き、ユベントスも姿を消すこととなった。彼らを打ち破ったのはオランダの名門アヤックス。将来有望な若手揃いのチームが、欧州屈指のスター軍団を凌駕し22年ぶりのベスト4進出を決められた要因はどこにあったのだろうか。(取材・文:神尾光臣【イタリア】)

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●アヤックスが過ごした「信じられない夜」

 選手たちはピッチで歓喜の雄叫びをあげ、アウェイサポーター席は沸き立つ。もうすでにかなりのユベントスファンが立ち去っていたアリアンツ・スタジアムの他のスタンドからも、拍手が起こっていた。一般席のチケットを入手して応援していたオランダ人ファンだ。

「レアル・マドリーに続き、優勝候補を立て続けに破るとは。アヤックスにとって、またオランダサッカーにとっても、信じられない夜となったよ」

 試合後の記者会見で、エリック・テン・ハーフ監督は顔を紅潮させた。1stレグで食らったアウェイゴールの影響を全く感じさせない積極的な攻撃サッカーを貫徹し、アヤックスはユベントスに勝利した。

 前半、主導権はユベントスの掌中にあった。試合開始から積極的にプレスを掛け、ボールを奪っては早いテンポで攻撃を仕掛ける。そして28分に右コーナーキックを得ると、クリスティアーノ・ロナウドがまたも凄まじい動きでマークを外してヘディングシュート。ファーサイドからループ気味に加速してマーカーのマタイス・デ・リフトから離れると、ニアサイドに突っ込んで頭を合わせる。慌てたデ・リフトは中央で味方と交錯し、それが原因でビデオ判定の対象にもなるほどだった。

 もっとも、その6分後に試合は1-1に。右サイドの守備のため深い位置に下がっていたフェデリコ・ベルナルデスキが戻り遅れて、ドニー・ファン・デ・ベークをオフサイドポジションに残し損なってしまった。とはいえそれは、いわば事故のようなもの。意気消沈してしまう部分はあっただろうが、前半までの試合のペースを維持できれば勝機はユーベにもあったはずだ。

 しかし、そうはならなかった。後半になるとユベントスを圧倒したのはアヤックス。一方的に攻め続け、逆転ゴールを奪うのみならず、相手に反撃のチャンスも作らせなかった。格下相手への油断、といった単に精神的な要因というだけでは、こうはなるまい。この試合は技術的、または戦術的な要因が大きく影響してひっくり返ったものだ。

●ユーベを封じた3つのポイント

 ターニングポイントとなったのは、後半の入り方だった。テン・ハーフ監督は試合後の記者会見の中で、試合をひっくり返すための戦略的なポイントを明かした。

「ユーベのプレスは圧倒的だったが、選手たちにはハーフタイムで『あのペースはいつまでも続かない』と言った。そして3つのポイントを修正した」

 それがことごとくハマり、アヤックスはユベントスの解体に成功したというわけだ。

 まずポイントの1つ目は、中盤の距離感の細かい修正。「フレンキー・デ・ヨングと、ラッセ・シェーネのポジションが開きすぎて、まずそこを修正した」。アヤックスの展開の要であるデ・ヨングに対し、前半のユーベはしっかりプレスを掛けてパスを寸断していた。そこでテン・ハーフ監督は、もう1人のボランチとの位置関係を修正し、ボールをつなぎやすくする。こうして、ユーベに掛けられていたプレスをパスワークでいなし、無力化することに成功した。

 2つ目のポイントは「エムレ・ジャンにプレスを掛けること」。この日、ユベントスのマッシミリアーノ・アッレグリ監督は、中盤の底で攻守の切り替えを担う役割をレジスタをミラレム・ピャニッチではなく、屈強なドイツ代表MFに任せていた。こうして組み立て役のピャニッチをプレスから逃す役割もあったのだが、テン・ハーフはそこに狙いをつける。トップ下のファン・デ・ベークや1トップのドゥシャン・タディッチが代わるがわるプレッシャーを掛けて、エムレ・ジャンのパス出しを封じる。こうして彼らは、ユーベの展開を破壊した。

 そして3つ目は、「サイドの選手を高い位置に張りつけること」。ユーベのプレスを機能不全に陥らせ、パスの展開を壊した後は、敵の守備陣を切り裂くことが次の狙いとなる。ユーベのプレスに押されてやや低い位置を取りがちだったダビド・ネレスやハキム・ジィエフを高い位置に張らせ、サイドバックにも積極的な攻撃参加を要求。その結果ユーベの左右のサイドバックは高い位置に攻められないどころか、ボールを奪われてカウンターを食らうこととなった。

 一方のユベントスは、パウロ・ディバラを故障で失い急成長中のモイーズ・キーンを投入する。ところが、ディバラが担っていたデ・ヨングへのプレスの役割をキーンにも他の選手にも割り振らなかった。相手がデ・ヨングを自由にしようとした傍らで、それを助けるような真似をすれば苦戦も必至。もはや試合はそうなるべくしてひっくり返ったようなものだった。

●「出ていく選手も多いだろうが…」

 戦術的に整理されたプレスで、パスの出しどころを失ったユーベからボールを奪い、アヤックスは一方的に攻撃を続けた。ヴォイチェフ・シュチェスニーの奇跡的なセーブやピャニッチの必死のカバーでなんとか均衡を保っていた相手に対し、先制ゴールのお株を奪うようにコーナーキックで仕留める。決めたのは、C・ロナウドを逃してしまったデ・リフト。このこともまた印象的だった。

 国際的なスターは買ってこれないが、技術の高い選手を見出し、フィジカルを鍛えて一流の選手に育てる。そして、組織としてどういうサッカーを展開するべきかというモデルが、練習を通し各選手に浸透している。これが、アヤックスというクラブの強みだ。

「これは我われの哲学である。今季が終われば出ていく選手も多いだろうが、充実した下部組織やスカウト網から新たな戦力を発掘するのみだ」

 テン・ハーフ監督は、自信を持って言い切っていた。

 現時点でマンチェスター・シティとトッテナム・ホットスパーとの決着はついていないが、オランダ人記者の中からは「(ジョゼップ・グアルディオラ監督のいる)シティなどとの対決は楽しみじゃないですか?」などという質問が飛んでいた。それだけ、今のチームの完成度には自信と期待が高まっているということだ。マドリーとユーベを立て続けに破れば、もはやフロックとは言えないだろう。

 翻って、CL制覇の野望がまたも絶たれたユベントス。C・ロナウドを約1億2000万ユーロ(約150億円)もの移籍金で引っ張ってきたはいいが、見合う成績は出なかった。もっともC・ロナウドが期待外れだったわけではなく、むしろ彼自身は結果を出している。ただここにきて、チーム全体としての不出来の方が目立ってしまった。

 大枚を叩いて戦力を揃えても、それで強力なチームとなるわけではない。メガクラブとして振舞うことに舵を切ったユーベだが、テン・ハーフ監督いわく「本来はマドリーやユーベに選手を引き抜かれる立場」のアヤックスに敗れたこと何かを示唆するようでもある。

「イタリアのクラブはアヤックスのようにはいかない」「我々には選手が故障で欠けていた。これでは良いサッカーはできない」とアッレグリ監督は語っていた。現実的には言葉の通りなのだろうが、『哲学』を堂々と語るテン・ハーフ監督と対照的だったのは否めなかった。

(取材・文:神尾光臣【イタリア】)

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最終更新:4/17(水) 11:52
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