ここから本文です

北朝鮮の人事から垣間見る米朝協議の行方

4/17(水) 17:00配信

日経ビジネス

 朝鮮で4月11日からの2日間、最高人民会議が開かれ、金正恩氏が国務委員長に再任された。同氏は先例を破り、最高人民会議の代議員の資格を持たないまま最高指導者を続ける。一連の人事から、同氏の政治基盤とミサイル開発の強化を垣間見ることができる。

【画像】金正恩氏は国務委員会委員長に再任された(写真:KNS/KCNA/AFP/アフロ)

(聞き手:森 永輔)

――北朝鮮で4月11日と12日、最高人民会議(日本の国会に相当)が開かれました。武貞さんは今回の会議のどこに注目しましたか。

武貞:やはり人事です。金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「大統領になるのでは」という予想がありました。最高人民会議に先立って行われた、代議員選挙で金正恩委員長が代議員にはならなかったからでしょう。これまで北朝鮮では、同委員長の父である金正日(キム・ジョンイル)も祖父である金日成(キム・イルソン)も、最高指導者(現在は国務委員長)であると同時に代議員でした。金正恩委員長はこの慣例を破ることになったので、「最高指導者として別の肩書が必要になる」とみられていました。

 しかし、北朝鮮が大統領制を取ることはありません。理由の第1は、憲法第100条により国務委員長が最高指導者であり、新たな権威を保証する肩書は不要だからです。第2は、大統領という「名称」です。ドナルド・トランプ米大統領も、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も「大統領」です。金正恩委員長が3番目の大統領になることを選ぶのは考えられないことです。

 結果として、金正恩委員長は代議員の資格を持たないまま国務委員会の委員長に再任されました。

――金正恩委員長という時の「委員長」は、北朝鮮国務委員会の「委員長」であり、労働党の「委員長」であるという意味です。金正恩氏が、国家機関の最高指導者である国務委員会の委員長に再任されたわけですね。

武貞:そうです。北朝鮮が対外的に「委員長」という肩書を使うときは国家の代表という意味で国務委員会委員長という意味で使っています。

 今回の最高人民会議で憲法が修正されたと発表されています。内容は明らかになっていません。しかし、国務委員長の任期に関わる修正が施される可能性があります。例えば任期をなくす。

 国務委員長の現在の任期は、憲法101条で、最高人民会議代議員の任期と同じと定められています。国務委員長は代議員でなければならない、という規定はありませんが、任期は5年間になります。代議員が改選されるごとに国務委員長も交代もしくは再任される必要があります。これまでの最高指導者が常に代議員であったゆえの規定でしょう。

 憲法を改正し、この任期の縛りをなくす可能性がある。いちいち再任の手続きを踏むのは面倒でしょう。ただし金正恩委員長は最高指導者としての地位にあり権力基盤を強めており、再任の手続きは形式的なものです。任期を撤廃すれば、中国が昨年3月に憲法を改正し、国家主席の任期を撤廃したのに倣うことになります。

 金正恩委員長は代議員でなくなることで権力をさらに強化したと考えるべきでしょう。最高人民会議の代議員は687人おり、その上に常任委員長がいる。つまり、代議員としての金正恩委員長は常任委員長の下にいる687分の1にすぎないわけです。代議員でなくなれば、この状態を解消することができます。

●軍事経済の強化を目指す

――その他の人事はどうでしょう。

武貞:金才龍(キム・ジェリョン)氏が首相に就任したのが非常に大事な人事です。北朝鮮の今後の政策全般と米朝関係を示唆するものだからです。

 同氏はこれまで慈江道(チャガンド)党委員会の委員長を務めていた人物。この地域は軍需産業が集積している場所で、ミサイルを開発・実験する基地もあります。経済と軍事が交錯する地域なのです。したがって、同氏を首相に抜てきしたことは、1.北朝鮮が今後も軍事力を重視していくこと、2.「自力更生」という目標は民生経済だけでなく軍事経済も対象としていることを表しています。

 自力更生という方針は、北朝鮮労働党が4月10日に開いた中央委員会総会でも、金正恩委員長が確認しました。「自力更生の旗を高く掲げ、社会主義建設をさらに進め、制裁でわれわれを屈服させることができると誤解している敵対勢力に深刻な打撃を与える」と強調しました。制裁が強化され、資源を輸出して外貨を得て、国外から物資を輸入することが困難になっているので、無駄を排除し、国内の資源を有効活用することで経済を維持する、という意味です。そして、この「経済」には軍事経済も含む。

 金正恩委員長はこの演説の中で、「自力更生」の表現を28回繰り返したと報道されています。4月上旬、平壌市内では「自力更生」の文字がはいった横断幕、看板が目立ちました。

1/3ページ

最終更新:4/17(水) 17:00
日経ビジネス

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事