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大分FW藤本憲明、その得点力の真髄。ゴールゲッター出世の3要素、確信に満ちた8割の無駄

4/19(金) 11:11配信

フットボールチャンネル

今季6年ぶりにJ1復帰を果たした大分トリニータは、現在5勝2敗で3位につける。ここまで6ゴールを挙げ、得点ランキングトップに立つ藤本憲明が好調なチームのけん引役だ。下部カテゴリーから実績を残し、J1の舞台でもその得点感覚を発揮。彼はなぜネットを揺らし続けられるのか。(取材・文:西部謙司)

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●シンデレラ・ストーリー

 近畿大学を卒業して佐川印刷SC(現在のSP京都)へ。午前は練習、午後社業。在籍4年目にはJFL得点王になるが、チームが活動休止となり鹿児島ユナイテッド(J3)へ移籍。鹿児島では2年連続でJ3得点王。そしてJ2の大分トリニータへ移籍し、今季チームとともにJ1へ。第7節時点で6得点、リーグ最多得点者だ。

 絵に描いたようなシンデレラ・ストーリーだが、ゴールゲッターならではの現象かもしれない。点取り屋は結果がすべて。得点さえしていれば成り上がっていくことは可能で、しかも得点力はリーグのレベルとはそれほど関係がないらしい。

 藤本憲明はJFL、J3、J2、J1と順調に得点し続けてきた。ゴールできる人がゴールし、上手くてもとれない人はとれない。どうもそういうものらしい。

 アマチュアから得点力でのし上がり、プレミアリーグ優勝を果たしたジェイミー・ヴァーディー(レスター・シティ)、パレルモのアマチュアクラブからスタートして1990年ワールドカップ得点王になったサルヴァトーレ・スキラッチなど、ゴールゲッターと出世物語は相性がいい。得点という目に見える結果、得点力はどんなチームもほしがる能力だということ、そしてカテゴリーに影響されにくい。この3点でカボチャは馬車になる。

●フリーになるタイミングで来るボール

 藤本はあるインタビューで「理想のゴールはPK」と答えていた。理由は簡単に得点できるからで、「形はどうでもよくて、得点できればそれでいい」というのは、いかにもストライカーらしい。

 得点力はプレーするカテゴリーや対戦相手にそれほど影響を受けない。逆に、まともに影響を受けているようでは、そんなに点は取れない。瞬間的にせよ、シュートするときにはフリーになっていなければ点は取れず、フリーになる仕組みは相手の力量や試合のレベルの高低とそれほど関係がないからだ。

 また、ミドルシュートで年間20ゴールする人もまずいない。つまり、得点王を獲るぐらいゴールを量産するには、ペナルティーエリア内でフリーになる能力が必要になる。ただ、それ自体はそんなに難しくない。ある意味、どんなFWでもやっていることかもしれない。

 例えば、サイドからクロスボールが入ってくるとき、DFの背後から動けばフリーになれる。相手の背中には目がついていないからだ。相手が視界に収めようと動いたら、その動きの逆をつけばいい。

 問題はフリーになった瞬間にボールが来ているかどうか、来たボールをゴールに入れられるかどうか。とくにフリーになれる瞬間とボールが来る瞬間を一致させなければならない。藤本は不思議なぐらいマークを外してボールを受けている。まるで最初からそこに来るとわかっていたように、ちょうどのタイミングでマークを外して確実に決めてしまう。

●魚の群れを追うように

 サッカー史上最大級のゴールゲッター、ゲルト・ミュラー。チャンピオンズリーグ歴代でも得点率ではいまだにトップである。引退してずいぶん経ってからだが、ミュラーが来日したことがあった。そのときに、どうしても聞きたかったことを尋ねた。

 1974年ワールドカップ、西ドイツ対ユーゴスラビア。この試合でもミュラーは得点している。右サイドからウリ・ヘーネスが切り込みながら低いクロスをニアサイドへ、ミュラーはDFの背後から突然飛び出してきた。スライディングしてボールを奪うように自分のものとし、寝転んだままシュートを決めた。どこにボールが来るのかを完璧に把握していたようなゴール。ミュラーの得点感覚は「嗅覚」と呼ばれていたが、なぜそこにボールが来るとわかるのかが不思議だった。

「不思議でも何でもないよ。ヘーネスがああいう体勢でボールを持っていたら、ボールはあそこにしか来ない。場所もタイミングもわかっていた」

 ミュラーは質問にあっさり答えた。確信に満ちた「あそこにしか来ない」だった。そこで、なお食い下がって聞いた。「その確信のとおりになる確率はどのぐらいですか?」と。

「20%ぐらいかな」

 ちょっと拍子抜けした。ただ、野球でも3割打者なら主力である。ペナルティーエリアの2割は悪い数字ではないのかもしれない。むしろ、8割の確信に満ちた無駄を厭わないから点を取り続けられたのだろう。

 パスが来るとわかっていてマークを外すのか、外したところにたまたま来るのか…おそらくどちらもあると思う。藤本は縦のボールも横からのパスもゴールに変えられる。そのための駆け引きを常にしている。魚の群れを追うように、石油が出るまで掘り続けるように。

(取材・文:西部謙司)

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最終更新:4/19(金) 11:11
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