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<解説>死んだブタの脳を回復、脳死の定義ゆるがす研究

4/19(金) 17:56配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

「脳死」の判定基準

 数千年にわたり、呼吸と心拍が停止すれば人は死んだと判断されてきた。けれどもそこに現代医学が待ったをかけた。人工呼吸器の発明で、衰弱した人もより長く生きられるようになり、心臓手術や臓器移植が改良され続けてきたおかげで、心臓の停止は必ずしも死を意味するものではなくなった。

 とはいえ、脳の気難しさは今も同じだ。ヒトをはじめとする哺乳類の脳は高性能マシンのようなもので、最大限の力を発揮するには、酸素を豊富に含む血流が絶え間なく供給されている必要がある。脳への血流が途絶えれば、私たちはものの数秒で意識を失う。それから5分もしないうちに、脳が蓄えていたブドウ糖やATP(生体内で使われる、化学エネルギーの共通通貨にあたる物質)は尽きてしまう。

 脳はここから不可逆的な(と思われていた)死のスパイラルに入る。神経細胞の化学作用が乱れ、脳内の血液が変質、やがて、神経組織を分解する酵素が活動しはじめ、脳の小さな構造や血管が破壊される。

 死のプロセスの解明が進むにつれ、そうした知見が死の定義に組み込まれるようになった。1968年には米ハーバード大学の医師からなる委員会が、「不可逆的昏睡」、つまり今で言う「脳死」の判断基準として、完全な無反応、自発呼吸の停止、反射運動の消失、脳の電気的活動の消失の4つを定めた。現在、米国では米神経学会が脳死判定のチェックリストを定めている。

 しかし近年、脳にはこれまで考えられてきた以上に大きな回復力があることを示唆する証拠が集まってきている。例えば、脳細胞のミトコンドリア(化学エネルギーを作り出す部分)は、死後も10時間ほど機能していることが明らかになった。また、ネコやサルの脳は、血流を1時間遮断した後でも、血流を注意深く再開させると回復することができた。2007年には、急性低体温症により体温が18℃まで低下した女性が、神経学的に何の後遺症もなく回復したという報告もあった。

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