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<解説>死んだブタの脳を回復、脳死の定義ゆるがす研究

4/19(金) 17:56配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

どこまで回復したのか

 研究チームは、哺乳類の複雑な脳の回復力をテストしようと考えた。そこで考案されたのが、BrainExだ。

 BrainExはコンピューター制御されたポンプとフィルターからなり、生体の血液循環と同じように拍動する流れで、死んだ脳に栄養液を送り込む。栄養液は、赤血球中の酸素運搬タンパク質であるヘモグロビンを主成分とし、超音波スキャンで脳内での流れを追跡できるようになっている。BrainExの特許をエール大学は出願しているが、非営利または学術研究目的ならば無償で使用可能になる予定だ。

 実験に際し、脳が「覚醒」したり苦痛を感じたりしないよう研究チームは配慮した。実際にそうした兆候が見られることはなかったものの、研究者らは万が一に備えて、麻酔を投与したり脳の温度を下げたりする準備をしていた。さらに、栄養液には神経活動を阻害する化合物を加えてあった(これには、脳細胞を休ませて回復の可能性を高めるという意味もある)。

「この研究の目的は、意識を回復させることではありません。むしろ、目的は正反対と言ってもよいほどです」と論文の共著者でエール大学生命倫理学学際センターのスティーブン・レイサム所長は言う。

 研究チームはまず、BrainExが脳の血液循環を復活させることができるかどうかを、細かい血管に至るまでチェックした。実際に、血液は再び循環した。また、脳の血管が良好な状態に保たれていることも確認した。次に、BrainExが脳組織の全体構造をどこまで保存できたかをチェックした。BrainExで処置した脳は、生きている動物の脳や、死後1時間が経過した未処理の脳と遜色なく、死後10時間が経過した未処理の脳よりはるかに良好な状態に見えた。

 海馬のように、酸欠に特に敏感な脳領域も、BrainExの下では個々の神経細胞の構造までよく保存されていた。そして、脳に流入する栄養液と流出する栄養液を比較したところ、脳はブドウ糖と酸素を消費し、二酸化炭素を産生していることがわかった。これは、脳全体で代謝が再開したことを示している。

 前述のとおり、研究者たちは、実験に使った脳が大規模な活動をしないよう配慮していたが、小規模な神経活動を観察するため、海馬を使って実験を行った。海馬の組織を切り取って個々の神経細胞が処置後もインパルスを「発火」できるかどうかを調べたところ、まだ発火できることがわかった。

「神経科学者である私にとって最も意外だったのは、この点でした」と米アレン脳科学研究所のクリストフ・コッホ所長は言う。「普遍的な神経細胞の電気信号といえるスパイク状の波形が見られました。つまり、これらの死んだブタの神経細胞が、原理的には神経活動を行えることを意味しているように思われます」。なお、同氏は今回の研究に関わっていない。

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