ここから本文です

統計問題で攻める野党 政権揺るがず「戦略ミス」の声

4/19(金) 17:07配信

中央公論

永田町政態学

 今国会で焦点となっている毎月勤労統計の不適切調査問題をめぐり、二月下旬、野党議員の間に奇妙なメモが出回った。
「委員長は非常勤の時間給のアルバイト公務員でしかない。これ以上本務に支障をきたす形では協力できない」。署名も日付もないが、野党が国会出席を求めた西村清彦統計委員長は大学教授の本業があることを理由に出席を拒否した、と読める内容だった。
 メモは、総務省の武田博之官房長が二月二十二日、衆院総務委員会の高井崇志・野党筆頭理事(立憲民主党)にファクスで送ったものだ。西村氏は昨年十二月、厚生労働省の毎月勤労統計の数値に不審な点があると指摘し、一連の問題発覚の端緒を開いた専門家だ。国会には参考人としてそれまで四回出席しており、メモを読んだ野党議員らは「絶縁宣言のよう」(国民民主党の渡辺周衆院議員)と驚いた。野党が国会で真意をただす意向を伝えると、総務省内は大騒ぎとなった。週末返上の対応で三日後、今度は西村氏の署名入りの文書を再提出した。そこには「本務に支障のない限りにおいて、国会には協力する」と、正反対の内容が書かれていた。
 最初のメモは、同省の統計委員会担当室長が西村氏とのやり取りを元に本人に無断で作成。武田氏がよく確認せずに送信したという。高井氏は旧郵政省出身で、かつて武田氏の部下だったこともある。このため、武田氏に「気の緩みがあった」(同省幹部)ようだ。石田総務相は国会での陳謝に追い込まれた。「こんなメモを送れば火に油を注ぐと分からなかったのだろうか」と政府関係者は首をひねる。
 統計問題をめぐる政府の不手際は、官僚の劣化を象徴しているという指摘も出ている。想像力と緊張感、責任感が欠如しているというのだ。
 厚労省の特別監察委員会(樋口美雄委員長)は二月二十七日、毎月勤労統計問題をめぐる追加報告書を公表し、同省が東京都の従業員五〇〇人以上の事業所について不適切な調査方法を長年放置していた点を「甚だしい職務怠慢」と結論づけた。「組織的な隠蔽は認められない」とも指摘した。不正がもたらす結果の重大性を組織として十分認識していなかったという意味で、極めて深刻だ。
 もっとも、安倍首相にとって幸運なことに、この問題は政権の大きな痛手にはなっていないようだ。野党は連日、国会で追及を続けているが、報道各社の世論調査では、問題発覚後も内閣支持率は四〇~五〇%前後を保ち、大きな変化はない。政党支持率も自民党が他党を圧倒する「一強多弱」のままだ。
 統計問題が専門的で、国民に分かりにくいのも一因のようだ。野党と政府の国会論戦では、「ベンチマーク更新」や「ローテーションサンプリング」といった専門用語が飛び交っている。アベノミクスなど政府の看板政策の評価にも大きく関わる問題だが、野党が焦点を絞って政権を追及しようとすればするほど、質問の内容が難解になり、世論の関心も薄れるという悪循環に陥っているようにみえる。
 野党は、根本厚労相を辞任に追い込みたい考えだ。だが、たとえ根本氏が辞任したとしても、首相や麻生副総理兼財務相らが批判された森友・加計学園問題ほどには、政権のダメージにならないとの見方がもっぱらだ。「官邸は統計問題のお陰で助かっている」(政府関係者)という声すら聞かれる。世論を動かしにくい統計問題に集中するのは野党の「戦略ミス」というわけだ。
 亥年の今年は一二年に一度、統一地方選と参院選が重なる。三月末に二〇一九年度予算案が成立した後は、与野党とも選挙に向けた対応に追われることになる。参院選と衆院選の「ダブル選」の可能性もささやかれる。野党の戦略ミスは「選挙の年」の行方を大きく左右するかもしれない。(有)
(『中央公論』2019年5月号より)

最終更新:4/19(金) 17:07
中央公論

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事