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TPP11の旗振った日本、対米交渉で加盟国の利益を守れるか

4/19(金) 18:11配信

日経ビジネス

 日米両政府は第1回の貿易協議を4月15~16日に行った。米国が不満とする対日貿易赤字の縮小をめぐり、①米農産物を対象にした輸入関税引き下げ(日本の輸入拡大)と、②日本製自動車の輸出抑制に注目が集まった。このうち、①について、関税水準はTPP(環太平洋経済連携協定)で認めた水準を限度とすることで大筋一致した。この水準の死守を重視してきた日本にとっては“朗報”だ。

 だが、ここで以下の2つを忘れてはならない。一つは、農産物に限った関税の引き下げはWTO(世界貿易機関)のルールに反する可能性があること。本誌に寄稿している細川正彦氏が指摘している通り、「“つまみ食い”は許されない」。

 WTOは「無差別、より開かれた貿易、競争の奨励……」を理念としており、特定の国に対してのみ関税を引き下げることは原則としてできない。ただし、FTA(自由貿易協定)を結び「実質的にすべての貿易」を対象に関税率を引き下げる場合は例外として扱われる。「実質的にすべて」が何を指すか、「数字の基準はないが、一般的には、貿易の対象となる全品目の9割程度をカバーし、10年以内をめどに自由化することを指す」(住友商事グローバルリサーチの浅野貴昭 国際部シニアアナリスト)。

●TPP11を主導した日本の責任は

 2つめは、TPP11の加盟国がどう思うかだ。TPPは、日米をはじめとする12カ国が交渉を進めたFTA。しかし、ドナルド・トランプ米大統領は就任するやいなや、TPPからの離脱を決定した。その後、日本がリードして残りの11カ国で協議を進め、2018年12月、発効にこぎ着けた。

 例えば牛肉の場合、日本がWTO加盟国に課す関税率が38.5%であるのに対して、加盟国向けは27.5%(発効時。以降、徐々に下げて16年目には9%にする)だ。この差が、米国産牛肉のシェア低下を招き、畜産農家の不満が高じたことが、今回の日米貿易協議で米政府が早期の合意を目指すドライバーになっている。2月の輸入は、TPP加盟国であるカナダとニュージーランドがそれぞれ3.6倍、63%増となったのに対し、米国産は17%増にとどまった。

 TPP11加盟国は、発効に至る協議の過程で、牛肉以外のさまざまな産品をめぐる妥協と譲歩の末に27.5%という有利な条件を享受できる。例えばベトナム、カナダは日本製乗用車を対象とする関税を取りやめた。TPPから離脱した米国が、仮に譲歩をすることなく、TPP11加盟国と同等の有利な条件を獲得すれば、同加盟国の間で不満が高じるのが道理だ。

 前出の浅野氏は「米国産牛肉を、TPP11が定めるセーフガードの発動数量に含めるかどうか、この点が気になる」と指摘する。TPP11では、輸入量が59万トン(発効時。以降10年間、年に2%ずつ拡大させる)を越えた場合、セーフガード税率を適用できる。輸入量が急拡大した場合に、国内の牛肉農家を守るための措置だ。仮に米国産牛肉をこの発動数量に含めれば、加盟国が27.5%の恩恵を受けられる量がその分減ることになる。他方、米国産を含めず、米国向けの発動数量を新たに設定しなければ、米国を特別扱いすることになる。いずれにしてもTPP11加盟国にとって面白い話ではない。

 「米国はTPPに戻るべきだ」――第1回の協議において日本がこう発言した形跡はない。もちろん、2カ国協議を重視するトランプ政権の方針を覆すことは難しい。だが、時には、TPPの理想を持ち出すのも「あり」ではないだろうか。

森 永輔

最終更新:4/19(金) 18:11
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