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台湾の丸かじり~東アジアの空間感覚を教えてくれる台湾映画

4/20(土) 17:40配信

Wedge

 侯孝賢(ホウ・シャオシェン)やエドワード・ヤンら台湾ニューシネマの名作はもちろん、陳玉勲(チェン・ユーシュン)監督による傑作『熱帯魚』や日本にもファンの多い『ラブ ゴーゴー』のデジタルリストア版も見逃せないが、筆者としてもうひとつお薦めしたいのが『台北発メトロシリーズ』と呼ばれる作品たちだ。

 台北メトロ駅の中から6か所を舞台に2016年に制作されたこのシリーズは全7作品あるが、その中から3作品がこのたび日本の劇場初公開となる。どの作品も文化と歴史のミルクレープな台湾の魅力を感じられる美味しい作品となっているが、その中のひとつ『まごころを両手に』(監督:リン・シャオチェン)は、日台の歴史について考えるうえでも興味深い作品だと思う。

 筆者はこの映画を『五星級魚干女』というタイトルで公開当時に劇場で観た。台北の奥座敷・新北投にある古い温泉旅館を舞台に、父母を交通事故で亡くし旅館を経営する父母に育てられた主人公・芳如(ファンルー)を『目撃者』などで演技力を見せたアリス・クー(柯佳●[女へん+燕])が演じている。

 アメリカ留学を夢見ているが、祖母の入院をきっかけとして、日本時代から続く歴史ある旅館がじつは膨大な借金を抱え、アメリカ留学どころか倒産の危機という事態を知ってしまう主人公が、祖母秘蔵の年代物のバイオリンを目当てに旅館にきたアメリカ人のバックパッカー・アレンを巻き込み、すったもんだしながら「五つ星」の旅館を目指して奮闘するラブコメディである。

 この映画の肝になるのが「バイオリン」だ。日本時代に祖母と恋仲になった日本人によって旅館に持ち込まれたものだが、一足先に西洋化した日本が台湾に近代を持ち込んだ歴史を彷彿とさせるなど、日台の関係性をあらわす幾重ものメタファーとなっている。

 ほかにも例えば、終戦と共に日本が台湾を放棄し、さらに1972年には国交断絶という、日本語教育世代からよく耳にする「台湾が日本に二度捨てられた」経験、日本への思慕を残しつつ自立した個として目覚めた台湾がアメリカと上手くやりながら国際社会で発展していること、いま台湾で盛んな日本時代の建築遺産を活かした観光スポットの開発など、現代までの日台米の歩みがバイオリンに重ねられる。

 それはまるで、日本時代の遺産を受け入れ、アメリカ文化も取り込みながら、しなやかに生きる台湾の自画像のようでもある。

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最終更新:4/20(土) 17:40
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