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連休中に注意 ハイキングに多い「迷子遭難」

4/21(日) 8:50配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

救助された人の理由で一番多い「道迷い」。生死を分ける条件とは?

 米カリフォルニア州ハンボルト郡で2019年3月1日、5歳と8歳の姉妹が、自宅近くの森へ散歩に出かけて、行方がわからなくなった。3万平方メートル超ある森に捜索隊が入り、44時間後、ハックルベリーの茂みの下で身を寄せ合う姉妹が発見された。二人の体は冷え切り脱水状態だったが命に別状はなく、無事に救助された。

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 Webサイト「SmokyMountains.com」が公表した最新調査によれば、森へのハイキングで危険にさらされるのは、大人のハイカーも同じだ。しかも、遭難する一番の原因は、けがでも悪天候でもなく、道に迷うことだという。

 調査では、過去25年間の報道100件以上を分析した。北米の国立公園や荒野をハイキング中の大人がどのように道に迷い、生き延びるために何をして、どのように生還したかを突き止めた。生還するまでの期間は半日から90日まで幅があり、生存者の41%が偶然コースから外れたために遭難していた。また生存者の16%はコースから転げ落ち、道に迷っていた。

 道迷いは誰にでも起こり得る。米グレート・スモーキー山脈国立公園でサバイバルインストラクター、捜索救難隊長、野生生物レンジャーとして働くアンドリュー・へリントン氏によれば、道迷いによる遭難は用心深い熟練のハイカーにも起こり得ることで、一番多いのは分かれ道など道を選ぶ、いわゆる決断ポイントでジャッジを誤ってしまうケースだという。

「コース上の分岐点で起きることもあれば、正式に認められていないコースで起きることもあります。コースが狭いため、案内などの手がかりを見落としてしまいがちなのです」とヘリントン氏は話す。

 2018年にオハイオ州からやって来て、命を落としたスー・クレメンツさん(当時53歳)のケースでは、ハイキングコースにも見える水路に入り込み、植物が生い茂る荒れ地で迷ってしまったことが遭難の原因だった。

 今回の調査では、道に迷う危険が一番あるのは、自ら荒野に分け入るバックパッカーではなく、クレメンツさんのような日帰りハイカーだということを示唆している。クレメンツさんの遺体は、国立公園の一部であるクリングマンズ・ドームの駐車場から、わずか3キロほどの地点で発見されているのだ。

 遭難時に体を冷やさないことは重要だ。調査によると、生存者たちが体を温める手段として、一番多かったのが衣服だった(12%)。また、風雨をしのぐシェルターとして最もよく使われていたのは、キャンプ用品だ(11%)。また、生存者の過半数が水を確保していたことも忘れてはいけない。飲み物を持参していた人もいれば(13%)、湖や小川、水たまりの水を飲んだり、木の葉の水をなめたり、コケの水を吸ったりと、水源となるものを遭難した周囲で見つけた人もいた(42%)。1人を除き、飢えが問題になるほど長く行方不明だった生存者はいないものの、35%が活力を維持できる程度の食料も持参していた。

 こうしたデータを総合すると、国立公園で道に迷ったとき、生きて帰ってくるには、暖をとるための衣服や道具、夜を過ごすためのシェルター、さらに、ある程度の水と食料を用意すべきだろう。

 ところが、こうした準備を、大半の日帰りハイカーはしない。バックパックにもう1枚服を入れる代わりに、カメラを持ってくる人の方が多いのが現実だ。ヘリントン氏も次のように述べている。「ハイキングに出掛け、道に迷ったとき、あるいは、悪天候に見舞われて空腹で寝ることになったとしても「夜が明けるまで辛抱すればいい、大した問題ではない」と考えがちです。しかし、野外で一晩過ごすための寝袋やテント、余分な服がないだけで、事態ははるかに悪くなります」

 実際ヘリントン氏は、グレート・スモーキーでそうした光景を数多く見てきた。「私たちは年間100件の捜索救難活動を行っていますが、おそらくその90%が日帰りハイカーでしょう」。米国の国立公園では2004~14年、合わせて4万6609件の捜索救難活動が行われたが、そのうち42%が日帰りハイカーを対象にしたものだった。次に多かったのは泊まりがけのバックパッカーだが、その割合はわずか13%だったのだ。

 ヘリントン氏は日帰りハイカー向けサバイバルのレクチャーで、暖をとるための中綿入りジャケット、レインコートとシェルターを兼ねる約200リットルのごみ袋を携帯するようアドバイスしている。温暖な地域だからといって、例外はない。「雨が降ったり、川に入ったり、汗をかいたりして、服までぬれたら、低体温症になる場合がありますからね」とヘリントン氏は話す。「意外かもしれませんが、温暖なことで知られるニューメキシコ州は低体温症による死者が多い州の一つですよ」。また、けがをしても、低体温症のリスクは高まる。体温調節能力が損なわれるためだ。

 日帰りのハイキングでも危険があること、万一のときの備えが必要であることを、ハイカーに納得してもらうためには、考え方を根本的に変えてもらう必要がある。「テクノロジーが悪い影響を及ぼしていますね」とヘリントン氏は考えている。GPSによる道案内に慣れてしまい、自分で道を探す訓練ができていないのだ。また、出発地点や土産店からそう遠くない国立公園内にいるため、万一何かあっても携帯電話で助けを呼べば、「ヘリコプターが来てくれるだろう」という油断もある。

「そんなに簡単には行きません」とヘリントン氏は警告する。「正しいハイキングコースから外れてしまったら、おそらくその場で一晩過ごすことになるのが普通です」。また、捜索救難隊は「二次災害」を避けるため、暗闇に隊員を送り込むことはない。翌朝から捜索を始めるのが一般的な対応だ。

 テレビのサバイバル番組も助けにならない。荒野でのサバイバルスキルは、ゼロから火をおこすことや虫を食べて飢えをしのぐことだという誤解を与えていると、ヘリントン氏は指摘する。「あれは原始的な生活、いわゆるブッシュクラフトです。ハイキングでは、濡れないようにテープを巻いたライターと何か燃やすものがあれば十分でしょう。飢えに関しては、捜索救難の現場では、それほど重要ではありません。体脂肪率10%のやせた人でも、水があるなど適切な環境があれば、1カ月生き延びることもできます」。ヘリントン氏に言わせれば、現実のサバイバルスキルはそれほど楽しいものではない。

 では、身につけるべきスキルは何だろうか? トレイルランであれ、日帰りハイキングであれ、万一遭難してしまったときに備えて、複数の人に旅程を伝えておくことだ。そうすれば、あなたが戻って来ないときに、気付いてくれるだろう。

文=JAYME MOYE/訳=米井香織

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