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人々を襲う“奇禍”とその後を描いた力作3冊

4/21(日) 7:00配信

Book Bang

 今回は、人々を襲う奇禍とその後を描いた作品を選んでみた。

 赤松利市の『藻屑蟹』は、『鯖』『らんちう』等、常に衝撃作を発表している作者の原点、大藪春彦新人賞受賞作の文庫オリジナルでの刊行だ。

 東日本大震災の六年後、底辺の生活を強いられている“俺”は、原発避難民たちが、割のいい補償金を得ているのによこしまな嫉妬を抱き、友人の誘いで除染作業員となる。しかし、この原発ビジネス、大金が動けば動くほどヤバイ仕事をさせられ、金の代わりに魂を切り売りすることに。良識ある読者からは眉をひそめられそうだが、元除染作業員の著者だからこそ描けた力作といえる。

 熊谷達也の『揺らぐ街』(光文社文庫)は、東日本大震災以後、小説が書けなくなってしまった桜城葵と被災地(仙河海という架空の町)出身で長らく筆を折っている武山洋嗣、そして二人の担当編集者である山下亜依子の三人が織り成す人間模様を、その心の襞をも剔(えぐ)りつつ描いた力作。桜城は作家として復活するも、亜依子を裏切る小説を書き、武山はスランプの中から一歩一歩立ち直っていく。本書で描かれている作家と編集者の関係、並びに出版状況は、ほぼ現実的で、リトル・ストーリー風のラストも気が利いている。

 最後に紹介する奇禍は東京大空襲である。

 噺家の信吉と、彼の妹が愛した伊吹を中心とした一種の群像劇だ。

 この小杉健治の大作『灰の男』(上・下巻、祥伝社文庫)は、上巻を戦前・戦中に人生を翻弄された人々の物語とすれば、下巻は上巻で描かれた伏線が見事に回収されていき、家族の絆をテーマとした秀逸なミステリーへと転じることになる。

 数ある小杉ミステリーの中で、一、二を争う傑作であることは言をまたない。

 三月九日にはじまったはずの東京大空襲が、なぜ、十日と記録されているのか、という最大の謎をはじめとして、これをめぐる大小の謎がジグソーパズルのようにはまってゆく。名作推理堂々の復刊である。

[レビュアー]縄田一男(文芸評論家)

新潮社 週刊新潮 2019年4月18日号 掲載

新潮社

最終更新:4/21(日) 7:00
Book Bang

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