ここから本文です

「人類の夜明け」はまだまだこれから?車椅子の天才科学者スティーヴン・ホーキングが記した最後の著書【ブックレビュー】

4/22(月) 10:45配信

FINDERS

「天才科学者」の風変わりなスタンス

2019年4月10日、ブラックホールの姿が初めて画像として捉えられたというニュースが報じられた。世界中の8つの電波望遠鏡が連携し、約200人の科学者による国際チームが力をあわせた結果、地球から約5500万光年離れたM87銀河にあるブラックホールの様子を、私たちは人類史上初めて目撃することになった。2018年に亡くなった「車椅子の天才科学者」ことスティーヴン・ホーキングは、こうした「科学の力」を誰よりも信じていた一人だろう。

スティーヴン・ホーキング『ビッグ・クエスチョン <人類の難問に答えよう>』(NHK出版)は、彼が世界の今、そしてこれからをどのように考えていたのかが自らの言葉で綴られており、「スティーヴン・ホーキングによる最後のメッセージ」とも言える、貴重な「生の声」が綴られている。

本書で投げかけられる10の「ビッグ・クエスチョン」は「神は存在するのか?」という議題で幕を開ける。「創造主がいない」ということは、主に宗教上の理由で、長らく世の中において不都合なことで、創造主の存在に疑念を抱くことはタブーだった。そして、「宇宙には何らかの始まりがある」ということは近年まで常識だった。しかし、宇宙の始まりには時間が流れていなかったという考察から、著者はあっけなく「始まり」があったことを否定し、創造主が存在した可能性もまた否定する。

「もしもすべてを足し上げれば宇宙は『無』になると言うのなら、それを作るために神を持ち出す必要はないということだ。宇宙はただで手に入る。宇宙は究極のフリーランチなのだ」(P49)

このように、著者はふつうの人と同じようには「ビッグ・クエスチョン」を抱かない。それでは、ホーキング流に生きるならば、何に向かって生きていけばよいのだろうか。

人類の想像力は、まだまだこれから

人類滅亡まであと何分かを示す「終末時計」の存在は有名だ。2019年1月の時点で、核兵器と気候変動のリスクから、終末時計は2018年と同じく、「終末まであと2分」と示している。

科学の力を信じる著者は、意外にも、人類滅亡の瞬間が思いの外早く訪れる可能性を危惧しており、繰り返し本書で警鐘を鳴らしている。そして、著者は楽観的と自身を称しつつも、聞き手によっては悲観的とも受け取れる持論を展開する。

「十八世紀には、それまでに書かれたすべての本を読んだ人間がいると言われていた。しかし今日、一日に一冊の本を読むとして、国立の図書館ひとつに所蔵されている本を読み終わるまでには何万年もかかるだろう。そしてそれを読み終わる頃には、もっとたくさんの本が書かれているだろう」 (P97)

人の知識がどんどん専門的に細分化されていくという変化は止められず、その一方で、原始時代から続く人間の攻撃本能はそう簡単に変わらないだろうと著者は主張する。そう考えた時、宇宙という「差し当たり、考えなくても日常生活に支障ない空間」に関するあれこれは、どのような可能性を秘めていると捉えるべきなのだろうか。

「いまのところは、私たちにはまだ行くべき場所がないけれど、長期的には、人類はひとつの籠、つまりひとつの惑星にすべての卵を盛っておくべきではない。私としてはただ、地球から逃げ出す方法が見つかる前に、その籠を落とさずにすむことを願うのみだ」 (P168)

よく知られている通り、著者は筋萎縮性側索硬化症(ALS)に若くしてかかり、身体の自由を一部失った。一度は余命宣告をされ研究への意志を失いかけたが、病気の進行がゆるやかになり、再び著者は科学への情熱を燃やした。本書で、「新たな一日一日はかけがえのない贈り物」「命ある限り希望はある」と表現されている通り、日常に立脚しながらも、限りなく遠くへ情熱を飛び火させる秘訣を著者は知っている。

近く、あるいは目の前の出来事はもちろん大切だが、著者と宇宙の関係性から学ぶことができるのは、「自分の立ち位置からはるかにかけ離れた物事を、如何にして考えることが可能か」ということだろう。終末まであと2分だとしても、そこから想像力をいかに発揮するかが、人類の力の見せ所なのだ。

1/2ページ

最終更新:4/22(月) 10:45
FINDERS

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事