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選挙の日に歩いた桜咲く渓谷と平成の町

4/23(火) 19:30配信

ニューズウィーク日本版

◆「山梨のスペースコロニー」

しばらくローカルな気分に浸っていたところ、四方津(しおつ)駅の手前で都会に引き戻されるような地名が国道20号の看板に現れた。実は、以前からその「コモアしおつ」はとても気になっていて、初見ではない。わざわざ訪問して町をぐるりと歩いたこともある。国道の上の丘に広がる一大ニュータウンで、麓の中央本線四方津駅とは、エスカレーターとケーブルカーのように斜めに上がっていくエレベーターが通る全長200mのSFチックなチューブでつながっている。自分と同じガンダム世代にしか通じないかもしれないが、僕は密かに、『山梨のサイド7(アニメ『機動戦士ガンダム』に出てくるスペースコロニーの名称)』と呼んでいる。

「コモアしおつ」は、積水ハウスがバブル期後半に開発したニュータウンで、1991年から販売開始されている。80万平方メートルの敷地には、コモアしおつ1~3丁目と、独自の地番も与えられている。開発から間もなくバブルが崩壊したため低迷した時期もあったようで、前に来た時は、リーマンショックや東日本大震災の影響も冷めやらぬ景気のどん底にあった頃でもあり、やや寂れた印象を受けた。

しかし、最近は半年に1件くらいのペースで物件が売れていて、活気を取り戻しているようだ。総戸数も最新の情報で1,413戸と、前に来た頃よりもだいぶ増えている。とはいえ、今の時代のことだから、ここに来るまでに通過してきた世田谷の住宅街や多摩ニュータウンのように、高齢化がじわじわと進んでいる様子も予想していた。しかし、エレベーターに乗って実際に街に降り立つと、小さな子供がいる若いファミリー層の姿があちこちに見られた。後に街を降りてから出会った地元の老人に聞いた話によれば、開発当初は都会からの移住者がほとんどだったが、今は周辺の既存市街地や山村からの若い世代の“プチ移住”も多いのだという。

◆親切な老人と山村の優しい光景

バブル期の産物の多くは、今では寂れていて哀愁を感じることも多いが、この平成初期生まれのニュータウンは今のところ、少なくとも、自分のストリート・スナップ写真家としての街に対する嗅覚を信じれば、うまく新しい時代へのバトンタッチができているように感じた。そこを歩くのは、「衰退期」という言葉で語られる今の時代の日本にあって、明るい気分になれるつかの間の白昼夢のような時間でもあった。

コモアしおつの標高は340mで、333mの東京タワーよりもわずかに高い。裏口にあたるワインディング・ロードを徒歩で下り、渓谷沿いの山道を抜けて国道20号に戻る。しばらく国道の狭い歩道を歩いていると、上野原市から大月市に入った所で一台の軽トラックが止まり、老人が降りてきた。僕が登山者のような格好でカメラを持っていたので、大月の里山からの富士山の絶景スポットを教えようと思ったのだという。

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最終更新:4/23(火) 20:34
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