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官民連合で世界に挑んだ日本のIT産業が「大敗した」本当の理由

4/23(火) 10:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

世界的に過熱するAI開発競争。そのなかで日本のAI開発は周回遅れになっていると度々指摘されてきました。本連載は、囲碁AIの研究開発を行う福原智氏の著書『テクノロジー・ファースト』(朝日新聞出版)から一部を抜粋し、筆者が囲碁AI開発を続けるなかで感じた国内AI業界が抱える問題点について紹介していきます。今回は官民一体となり進められた日本のIT産業が敗れた理由を考察します。

日本のIT産業が世界に負けた「3つの」象徴的事例

これまでの連載で見てきたように、アメリカや中国をはじめとする各国は、産業革命4.0に備えてAI研究、ビッグデータの収集に邁進(まいしん)している。人口が13億を超す中国は、それだけでビッグデータの収集に優位にあるのは言うまでもない。アメリカでさえ中国の脅威が議論されるようになっている。

それに比べて日本国内の危機感はあまりにも薄いという気がする。

日本企業がAIやIoT、ブロックチェーンに関心がないと言いたいわけではない。関連書籍はベストセラーになっているし、IT関連の展示博覧会は大げさなほどの盛況ぶり、お祭り騒ぎのフィーバー状態といえるくらいである。私もいくつかの展示会に行ったが、見回すと多くのブースに「AI導入」「ビッグデータ活用」といった文字が踊っていた。来場者の数も多く熱気もある。

この光景にも、私は違和感しか抱けない。かつてのよく似た光景がフラッシュバックするせいだ。

あれは、小渕内閣が始め森内閣が引き継ぐかたちとなった国家的なIT化推進戦略のころだ。2000年9月に打ち出された「e-Japan戦略」は、官民一体となって、インターネットに関わる法律と環境を整備し、現在でいうスマートな社会の実現で経済成長を目指すものだった。スマートな社会について当時の森首相は、第150回国会の所信表明演説で次のように述べている。

「我々の目指すべき日本型IT社会は、すべての国民が、デジタル情報を基盤とした情報・知識を共有し、自由に情報を交換することが可能な社会であります」

この戦略の一環でスタートした仕事に私も携わっていた。家の冷蔵庫で卵がなくなったら、勝手に卵を注文しますといったようなサービスのプロモーション動画をつくった。おそらく何かの展示会用だったと思う。結果はご存知のとおり。未だにスマート冷蔵庫が普及した未来は実現していない。スマートな冷蔵庫も社会も、そのとき、本気でつくろうと思えば実現できただろう。そうなっていないのは、誰も本気になってつくろうとしなかったからだと思う。

「ネットで社会は便利になる」と、手の込んだプロモーションで誰もが未来を予感した。でも「よし、私たちでインターネット家電をつくろう」とはならなかった。「誰かが勝手に未来をつくってくれるだろう」なんて様子見だけで、本気で開発をする人がほとんどいなかった。たしかにしばらくすると似たような未来は訪れた。ただし、それをもたらしたのは日本企業ではなく、アップルのiPhoneであった。日本発売は2008年である。

今回からは日本のIT業界がたどって来た道を振り返りつつ、失敗の奥に潜む原因と、解決すべき課題を探りたい。

日本のIT業界が世界を獲(と)れず、アメリカのIT企業に負けた象徴的な事例は三つあると私は考えている。一つは私が実際に戦って負けた囲碁AIだ。この分野で最強の名を欲しいままにしているのはグーグルの「アルファ碁」。

なぜ日本から「アルファ碁」が生まれなかったのか? 囲碁と日本の関係は歴史的にも深いというのに。アメリカ、ヨーロッパにチェスAIで遅れをとるなら、まだしも納得ができる。どうして囲碁AI研究でアメリカに遅れをとってしまったのかについて、専門家の意見を聞こうと思った。私は、日本におけるゲーム情報学の第一人者である、公立はこだて未来大学教授の松原仁先生に取材の依頼をした。

二つ目は、プラットフォームである。日本はマイクロソフトのウィンドウズやアップルのマックOSのような、世界中で使われるOSを生み出せなかった。実は日本は機器の制御に用いる組み込みOS「TRON」で世界的なプラットフォームを生み出していたのに、なぜPCなどに使われる情報処理系のOSでそれができなかったのか。TRONの生みの親である東京大学大学院教授・坂村健先生に話を伺う機会を得た。

三つ目は、フェイスブックやアマゾンのような、ITサービスのグローバル企業が出なかった点だ。日本にも資本力を持ち、大規模な研究開発ができる大手IT企業はある。彼らが覇権を握る可能性はなかったのか。この辺りは2000年代からIT業界の門をくぐり、現役で活動している私自身が、現場の最前線で知ったIT業界の現実を客観的に整理しながら探ってみたい。

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最終更新:4/23(火) 10:00
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