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10代「ゴスロリカップル」の親殺し 2人が耽溺した虚構の世界とは…【平成の怪事件簿】

4/24(水) 13:00配信

デイリー新潮

 幾多の凶悪殺人が引き起こされた平成の事件史にあって、「河内長野市家族殺傷事件」は、異彩を放つ。死や血に彩られた猟奇的世界に耽溺する2人は、互いの家族全員を殺すことを夢見た――。(駒村吉重 ノンフィクション・ライター)

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 ふたりは、ファースト・フード店や路上で、ひと目もはばからずに抱き合い、キスをした。大学1年生だった18歳少年は、ドクロ柄をあしらった全身黒ずくめ、高校1年生の16歳少女は、黒と白を基調にしたフリル、レース付きの服装。ともに「ゴシック&ロリータ」(ゴスロリ)と呼ばれるファッションを好んだ。こういった嗜好の若者が傾倒しがちな、死や血をイメージする猟奇的な世界に、彼らもまた深く耽溺していた。
 
 そんなカップルが、密かに描いた空虚な物語の一節が、ある夜ふけ、現実世界で実行に移される。

「家族全員を殺した後、しばらくどちらかの家で過ごし、その後、一緒に死ぬつもりだった」「遺体がある家でいいから、2人きりになりたかった」(両者の供述)

 計画は、大学生が刺身包丁で、自分の母親を刺殺し、さらに弟と父に斬りつけたところで頓挫した。犯行に加わらなかった少女も、自分の家族に対する殺人予備罪に問われることになる。
 
 警察は当初、事件の背景には、彼らが勝手にとりきめた「結婚」をめぐって、親子、両家の間にトラブルがあったのではないか、との推測をめぐらせた。しかし、そうした事実は、ついに見つからなかった。「家族への憎しみはなかった」という彼と彼女の告白も、その殺意のありかを、ますます朦朧とさせた――。

ずさんな大量殺人計画

 事件の舞台となった、大阪・河内長野市内にある大学生の自宅は、町工場や商店が集まる通りに面していた。広い敷地に立つロッジ風の家屋はガーデニング趣味に彩られ、一角でも目立つたたずまいだった。両親と中学3年生の弟からなる4人家族。もとはサラリーマンだった父と母は、そろって大学生の祖父母が営む自動車整備会社で働いていた。
 
 ハロウィンの夜、平成15年11月1日の未明に事件はおきた。のちに分かるが、そのとき、母と些細な口論を交わした大学生は、急遽、本来の計画日を繰り上げることを決めた。それを、少女にメールで連絡してから、彼は迷いなく動きだす。まず母親の背後を襲い、背中をひと突きにし、突っ伏した相手の首を繰り返し深々と刺したのだ。
 
 次いで弟の部屋に入り込み、ベッドの上で布団を盾に踞る人影に、容赦なく刃を突き立て、さらに悲鳴で駆けつけた父の腹にも一刀を浴びせる。だが、もみあった父に押し出され、部屋の戸口にロックをかけられるや、彼は血まみれのスポーツシャツのままガレージに駆けだし、父の軽自動車のエンジンをかけた。
 
 待ち合わせ場所に黒いコート姿であらわれた少女を拾った大学生は、「母親はあかんやろ。親父と弟は失敗した」と報告している。
 
 当初の計画では、まず大学生が自分の一家を殲滅させたあとに少女の家の外で待機することになっていた。それから、ナイフを机に隠し持っていた少女が家族殺しの行動をおこし、彼が助ける手はずだった。結局、都合7人の殺人計画は1人の息の根をとめるにとどまり、うっとりと夢想した「2人きり」の未来を見ることはかなわなかった。
 
 これほどずさんな大量殺人計画が、「すべてうまくいくと思っていた」という大学生の言葉を信じるなら、稚拙過ぎた次の行動もうなずくしかない。彼は、当面の生活費を得るために自宅に車を向け、緊急配備の警察官に身柄を拘束されたのだった。

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最終更新:4/24(水) 16:53
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