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ゲイの僕が好きな人と共同生活した、悪夢のような3ヶ月

4/25(木) 17:00配信

文春オンライン

 ハセは毎晩寝る前になると、愛知県にいる彼女の、ほっちゃんに電話をする。ハセと彼女の会話なんて一切聞きたくないのに、同じ部屋にいるものだから、電話の会話がイヤでも聞こえてしまう。ハセの言葉だけで大体の会話の内容はわかってしまうのだ。ハセが毎晩、彼女に愛の遠距離電話をかけることに、ハセを好きな僕が耐えられるわけがなかった。

 この日の晩もハセは彼女に、愛の遠距離電話をかけていた。

「いやだよぉ、ほっちゃんが言ってよぉ!」

「え~、だって七崎がいるもん……」

「わかったよぉ『愛してるよ!』︎……はい、次はほっちゃんの番だよ?」

「なんで! 俺は、愛してるって、ちゃんと言ったじゃん!」

「あっそ。信じらんない。もう切るわ」

 ハセはほっちゃんとの電話を切った。こんな茶番劇が毎晩、僕の目の前で繰り広げられているわけだから、この先の展開が、僕にはわかっていた。

 案の定、思った通り。電話を切って5秒も経たないうちにハセの携帯が鳴った。ほっちゃんから電話がかかってきたのだ。ハセは少し嬉しそうな顔をしたのに、声は冷たく電話にでた。

「もしもし、なに?」

「うん、わかってくれればいいよ。俺もごめんね。……うん、愛してるよ。ありがと。おやすみ。……いやだぁ! ほっちゃんが先に電話切ってよぉ!……じゃあ同時に切ろう? せーの!………ハハ!なんで切ってないの~」……。

「お前らの会話、キモいんだよ!」

 反吐が出る。これが毎晩続くのだ。

 このクソカップルの茶番劇を観ていると、自分の髪の毛をむしってしまいたくなる衝動に駆られる。それなのに、心のどこかで、ハセに「愛してる」と言われる、ほっちゃんが羨ましいと思ってしまう自分がいるのも事実だ。

 ハセの洗濯をしてあげたり、ご飯を作ってあげたりしているのは僕なのに、ハセに「愛してる」と言われるのは僕ではなく、ほっちゃんなのだ。そう考えると、無性に腹が立ってくる。僕は立ち上がり、電話中のハセの方へと近づいた。

「いやだよ~、俺はほっちゃんとの電話は切りたくな……」

 僕はハセの携帯を奪い取って通話を切り、その携帯を床に叩きつけた。

「なにすんだよ!」

 ハセが僕に叫んだ。僕も負けじと叫び返す。

「お前らの会話、キモいんだよ!」

「自分に彼女がいないからヤキモチだろ!」

「お前らみたいなキモいカップルなんてクソ喰らえ! なんなんだよ、毎晩ねちねちと! イラつくんだよ!」

「人を好きにならないお前にはわからないだろうけど、遠距離は大変なんだよ! 俺が近くにいてやれなくて、ほっちゃんがどんなに寂しいかわかるか!」

「そんなのどうだっていい! ほっちゃんなんてキモい女、大っ嫌い!」

「ほっちゃんを悪く言うな!」

「うるせえ! お前が一番キモいんだよ!」

 その間も、ハセの携帯は鳴り続けている。できる限り軽蔑の念を込めてハセに言った。

「その電話、外でして。僕の前では一切彼女と電話しないで。もう気が狂いそう!」

「でも外は雨が降ってる!」

「じゃあいい! 僕が出ていく! この、クソカップル!」

僕は怒りに任せて雨の中、外に飛び出した。

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最終更新:4/25(木) 20:57
文春オンライン

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