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SPIのアニメーター8名がふり返る!「アニメーターファースト」なカルチャーが根付く『スパイダーマン:スパイダーバース』の制作舞台裏(後編)

4/26(金) 11:17配信

CGWORLD.jp

マーベル・コミックを原作とし、実写映画でも根強い人気を誇る『スパイダーマン』シリーズ。同シリーズでは初となる3DCGアニメーション映画『スパイダーマン:スパイダーバース(以下、スパイダーバース)』が第91回アカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞した。その他にもゴールデングローブ賞、アニー賞最多7部門受賞、第24回放送映画批評家協会賞アニメ映画賞などなど、あらゆる賞を総なめするという快挙を達成。

そんな同作には、Sony Pictures Imageworks(以下、SPI)に所属する日本人アニメーターが8名参加しており、アメコミらしい表現と最新テクニックで魅せるフルCGに加えて日本アニメの手法がふんだんに盛り込まれ、作品をより一層奥深いものに磨き上げている。CGWORLD.jpでは、そんな彼らのインタビューを2回に分けてお届けする。後編となる本稿では、若杉 遼氏、小宮健太郎氏、東郷拓郎氏、池田優子氏の4名に制作をふり返ってもらった。

かっこ良ければそれで良し! 2コマ打ちもフルコマも、全てアニメーターのさじ加減

CGWORLD(以下、CGW):『スパイダーバース』の制作に途中から参加された方も多いかと思いますが、担当されたショットや思い出深いエピソードを教えてください。

池田優子氏(以下、池田):エンディングの近くで、主人公のマイルズと彼のお父さんが抱き合うシーンは思い出深いです。アクションシーンが多い『スパイダーバース』の中でも、自分が好きなアクティングのショットを担当することができて嬉しかったのですが、マイルズのお父さんの表情がなかなかバシッと決まらず苦労しました。

池田:全編を通してアクティング(演技)は監督の指示で、オーバーでないリアリティのある演技になっています。 私が担当したショットで、黒人のお父さんが困った表情をするアニメーションが なかなかOKが出なくて苦労しました。顔のつくりが違うので、自分を鏡で見ても参考にならないですからね。これで良いと思える表情が出来るまで色々な映像や映画を観ました。自分と違う人種の自然な仕草や表情というのは、生まれ育ってきたバックグラウンドが違うので表現するのが難しい時がありますが、アニメーターは俳優の様なものなので、キャラクターを演じるのはすごく楽しいです。

CGW:人種も文化も環境も、まったくちがいますからね。

池田:世界中のあらゆる国の人が自然に理解できて楽しめるアニメーションをつくるには、技術に加えて文化的な背景というか、説得力のある仕草や表情を表現しなくてはいけないんですよね。例えば日本の人が “ いわゆるアメリカ人っぽい動き“ と言われて思いつくのは、“手の平を上に向けて肩をすくめる“ だと思うのですが、実際はそれだけではない。日々、様々な人種や年齢の人々を観察して、 自分の中でストックするようにしています。

東郷拓郎氏(以下、東郷):僕はアクションショットが多かったですね。これには経緯があって、『スパイダーバース』のチームにアサインされたとき、英語があまり喋れない状態で。そのマイナスのギャップを埋めるために「こういうショットがつくりたい!」と自分の宣伝も兼ねた『スパイダーマン』のアクションシーンのアニメーションを勝手につくって、いろんなところで発信したんです。そうしたら、リードアニメーターがそれを見てくれていて(笑)。それでアクションチームに入れてもらうことができて、アクションをつくることが多くなりました。

CGW:海外に出て初めての仕事が『スパイダーバース』の制作だったわけですが、いかがでしたか?

東郷:『スパイダーバース』って「2's(トゥーズ)」といって日本のアニメみたいに2コマ打ちで付けているところがあるんですが、僕は日本でずっと2コマ打ちのアニメ制作に携わっていたので、苦労することなくアニメーションを楽しむことができました。「海外に出たらフルコマのアニメーションをやりたい!」とはりきって日本を出て、一番最初に携わった作品が『スパイダーバース』でまた2コマ打ち(笑)。だから苦労したこともあんまりなかったんですよね。

CGW:日本のアニメ制作の現場とSPIとで、制作にかけられる時間はどれくらいちがうのでしょうか?

東郷:ショットの長さによってちがいますが、日本では1日2~3ショットくらいが平均的だったのに対して、こちらでは短くても1週間に1ショットくらいで、長いアクションのショットになると1ヶ月くらいかけます。日本でもTVシリーズの場合は「繋がりで20ショット」という感じでまとめて割り当てられるので、小さいショットは手早く終わらせて力を入れたいシーンには2週間くらいかけるということもありましたが、やはりSPIに来てすぐの頃は、1週間は結構余裕があるなと思いましたね。

とはいえ、詰める情報量が日本とは段違いだし監督とのやりとりも多くて、1週間という時間がだんだん短く感じ始めるんですよ、不思議なことに(笑)。結局、感覚的には日本の制作と変わらないという。なかなか監督のOKが出なくて7回くらい見せては「もうちょっとこうしよう」と言われて、1秒に満たないショットに3週間かかったことも。「これは本当に俺にはできないかも」と落ち込んだこともありました。

池田:『スパイダーバース』はインクラインとか自分で効果をつくらなければならなかったので、普通のアニメーション制作よりスケジュールが乱れることが多かったですね。本来なら「ここで終わり!」なのにまだやらなきゃ、みたいな。

小宮 健太郎氏(以下、小宮):僕はOLMデジタルでフルCGの制作部門にいたので、ずっと24fpsフルフレームのアニメーションを付けていました。日本でずっとアニメを観てきた背景があったので、2コマ打ちは楽しそうだなと思っていたんですが、縁がないまま終わって。で、『スパイダーバース』のプロジェクトで初めて2コマ打ちができると聞いて「楽しそう! ずっとやってみたかった」と(笑)。それも、時間がかけられる状況での2コマ打ちなので、どこまでクオリティが上がるんだろう、とわくわくしていました。

東郷:初めての2コマ打ちはどうでしたか?

小宮:楽しかった!

一同:笑

CGW:日本ではなくアメリカで2コマ打ちをやるというサプライズですね(笑)。

小宮:『スパイダーバース』は全てが2コマ打ちというわけではなく、ショットの中で最初の数フレームだけ2コマ打ちでその後はフルフレーム、などアニメーターが自分でチョイスできるワークフローだったんですよ。さじ加減はアニメーターの自由でした。1's(ワンズ=フルフレーム)でも2's(2コマ打ち)でもナチュラルに見えればどちらを使っても良くて、とにかく「カッコよければOK」というスタイルで(笑)。1'sと2'sを意図的に使い分けていたというより、「2'sだとちょっとパチパチとした動きになりすぎるから1'sにしようか」と監督から言われる感じで、基本的にはアニメーターのチョイスでした。

CGW:小宮さんにとって、制作で思い出深いことは?

小宮:主人公のマイルズがバイクに乗ったプラウラーに追いかけられるシークエンスです。マイルズがトラックに張り付きながら逃げるショットは自分が担当した中では一番格好良いシーンでもあり大変でもありました。人ってなかなか走っているトラックに張り付けないので、そんなショットで格好良く見せるのは難しかったです。

CGW:そのショットは2コマ打ちで制作されたのですか?

小宮:そうですね、初めは2コマ打ちでつくりました。2コマ打ちがやりたくてワクワクしていたので(笑)。だからまず2コマ打ちで考えて、アクションシーンで動きが大きいとストロボっぽく見えてしまうので、そういうところはフルフレームにして目で追えるように調整しています。こんな感じで、後からフルフレームを足したパターンが多かったですね。

あと、SPIのリグで各キャラクターの「プロキシモデル」という軽いモデルが用意されていたんですが、キングピンのものが少し使いにくくて(笑)。だから、キングピンが扱いやすくなるようにプロキシモデルを自作して、園田(大也)さんをはじめ数名のアニメーターにも使ってもらったら好評だったので、それをチームに導入してもらったんですよ。そうしたら、いつのまにかキングピンを使うアニメーター全員に共有されていました(笑)。

CGW:使いづらいと思いつつも、つくり直す人はいないんですね。

若杉:忙しいのでそのまま使っちゃうんですよね。そんなときにタイミング良く扱いやすいプロキシモデルがシェアされた感じでした。最後の多次元空間でのアクションシークエンスで、マイルズとキングピンが戦うシーンでは本当に活躍してくれました。キングピンのアクションシーンはほとんどなくて、アニメーターがあまり触っていなかったんですよ。最後にキングピンのショットが来るタイミングで小宮君のモデルがリリースされて、本当に助かりました。

小宮:プロキシモデルをリリースしたものの、そのタイミングで僕はプロジェクトから抜けたので、活躍してくれた実感がないんですけどね(笑)。

若杉:プロキシモデルはいるけどケンタロウがいない! ってみんな言ってたよ(笑)。

池田:アニメーションもシステム系も両方できる人は少ないので、すごく貴重ですよね。

小宮:完全に独断でやったことなので、下手したら怒られるかもしれません(笑)。元々は自分のために使っていたもので、自分でアニメーションを付けるときに使いづらいからつくってたんだけど、という話を園田さんにしていたら、気に入ってもらえてじわじわと周囲に広がっていった感じです。

CGW:日本のアニメ制作現場で、非常にタイトなスケジュールで回転の早い仕事を経験されてきたからこそ、「思い切って扱いやすいモデルを元から作った方が、効率もクオリティも上がるだろう」と直感が働いたんじゃないですか? 日本の制作現場と比べると多少は時間にゆとりがある、という精神的な余裕もあったでしょうし。

一同:確かに。

※CGWORLD.jp「SPIのアニメーター8名がふり返る!「アニメーターファースト」なカルチャーが根付く『スパイダーマン:スパイダーバース』の制作舞台裏(後編)」より一部抜粋

最終更新:4/26(金) 11:17
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