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豊川雄太は「日本にない1トップ像」を追求する。目指すはスアレス、ベルギーで得た信頼と自信

4/26(金) 10:24配信

フットボールチャンネル

 多くの日本人選手が活躍するようになったベルギーリーグにおいて、異彩を放っているのが豊川雄太だ。オイペンでは1トップを任され、エースストライカーとして信頼を勝ち取っている。リオデジャネイロ五輪世代が日本代表で輝く今、24歳になった豊川は何を思い欧州での日々を過ごしているのだろうか。(取材・文:舩木渉)

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●「日本人で海外でずっと1トップをやれている選手はいない」

 試合を終えて取材していると、後ろを通りかかる選手やスタッフたちから次々に声をかけられる。しかも内容は日本語で。

「バーカ、バーカ、バーカ、トヨカワサン」

 そう言ってケラケラ笑いながら通り過ぎていく者もいた。突然、「あっちむいてほい!」も始まった。「このゲーム、あいつとよくやっているんですよ。センターバックのジョルダン(・ロティーズ)っていうんですけど」と充実した笑みを浮かべたのは、豊川雄太だ。

 2018年1月からベルギー1部のオイペンに所属する24歳は、クラブ内で絶大な信頼を勝ち取っている。記者会見を終えて取材エリアの先から歩いてきたクロード・マケレレ監督も、健闘をねぎらって豊川の肩をポンポンと叩いた。

 昨年12月26日のベルギー1部レギュラーシーズン第21節、セルクル・ブルージュ対オイペンを現地で取材した。序盤にロングパス1本で抜け出したママドゥ・ファルがゴールを奪い、その1点を守りきったオイペンがアウェイで貴重な勝ち点3を獲得した試合だった。

 今季の豊川は、日本にいた頃からはイメージの異なる選手になっている。起用されているポジションは「1トップ」。4-3-3の頂点、ゴールに最も近い位置でマケレレ監督からの信頼をつかんでいるのだ。

「もっともっと得点を取って信頼を得られるように、来年はより得点という結果にこだわっていきたいなと思っています。いまは日本人で海外でずっと1トップをやれている選手もなかなかいないと思うので。だからすごく楽しいですよ、やりがいがあるし」

 ベルギーリーグは先述したセルクル・ブルージュ戦でウィンターブレイクに入り、1月下旬から再開してレギュラーシーズンの残り9試合を消化。現在は順位ごとに分けられたプレーオフを戦っている。オイペンも来季のヨーロッパリーグ出場権をかけて奮闘している最中だ。

 そんな中で豊川は21節のセルクル・ブルージュ戦までで4得点、その後の9試合のうち7試合に出場して3得点とペースを上げたが、プレーオフでは未だノーゴール。1トップの選手として決して満足と言える結果が出ているわけではない。

●勝負強さは健在。監督からの信頼も

 とはいえ重要な場面でゴールを決める勝負強さは今季も健在だった。2月16日に行われたベルギ-1部のレギュラーシーズン第26節のオーステンデ戦、終盤の78分に貴重な同点弾をたたき込み1-1のドローに。オイペンはこの勝ち点1を積み上げたことで最下位転落の可能性が消え、同時に来季の1部残留も確定した。

 昨季のセンセーショナルなハットトリックも記憶に残っているのではないか。レギュラーシーズン最終節で、ベルギー移籍後初ゴールを含む3得点1アシストを記録し、降格の危機に瀕していたオイペンの救世主となった。

 オーステンデ戦もシュート1本で1ゴール。2016/17シーズンからクラブ史上2度目の1部リーグを戦うオイペンは、やはりトップリーグでは毎年残留争いを強いられる立場にある。実際、豊川は現時点で7得点だが、それでも3本のPKを含む8得点を挙げているルイス・ガルシアに次いでチーム2番目の得点源だ。やはり必然的にシュートチャンスが少ない中で結果を出すことが求められてくる。

「シュートを打つことですね。シュートはやっぱり自信があるので、その回数を増やす。3本打ったら1点取れる自信があるので、そうやってシュートを打つまでに持っていく形とかも作っていかないと、1トップじゃ難しい。2列目だとJリーグでやっていたように、大きな選手がいて、こぼれてきたのをパンって打ってみたいなのがありましたけど、それは一番前に僕がいるので、いろいろなことをしていかないといけないと思っているし」

 マケレレ監督も豊川の自信と実力を認めている。オーステンデとの大一番の後、この日本人アタッカーが欠場して敗れた27節のズルテ・ワレヘム戦で、「彼ら(DFシェイク・ケイタと豊川)がいないと別のチームだ。小さなユウタはチームに大きなものをもたらしてくれる。(先発出場した)ダビド・ポレにあったチャンスを彼なら決めていただろう」と影響力の大きさに言及した。

 Jリーグでの豊川は、小柄な体格で跳ぶようにピッチを駆け、俊敏性とテクニックでフィニッシュの手前でチャンスメイクに関わる印象の強いアタッカーだった。どちらかといえば身軽な選手のイメージは、屈強なDFの揃うベルギーでガラリと変わった。

 ボールを失えば猛然とプレスバックして相手選手にプレッシャーをかけて追い回す。味方がボールを持っていれば、相手のセンターバックと常に駆け引きをして抜け出すスペースを探す。以前よりもプレーに力強さや迫力があって、こころなしか存在が大きく見えるのである。

 豊川も1トップでの自らの進化をひしひしと感じているようだった。

「僕は好きですね、あの位置。理想は本当にいいパサーといいクロッサーがいて、クロスの中の駆け引きでチョンと合わせるのがベストですけど、それはなかなか今の状況じゃできていない。その駆け引きとかも、(ボールが)来なくても続けていることが大事だと思いますし、マケレレ監督とかからもアドバイスをもらって楽しくやれています」

●豊川はストライカーになった

 オイペンには元ヘントのダニエル・ミリチェビッチや、エスパニョールなどで活躍したルイス・ガルシアといった経験豊富なパサーがいるものの、彼らのような中盤から効果的なパスはあまり出てこず、豊川にとってはもどかしい場面も多くある。

 それでも24歳のサムライはベクトルを自らに向け、「もっと動き出しの工夫が必要なのかもしれないし、動き出しはまだまだ磨けるところがあるし、体の使い方だったりね。いろいろあるので、すごく楽しみです」と、ストライカーとしての動きに磨きをかけていけばいいと考えている。

「いろいろなことをやっていますけど、こっち(海外)の選手は見ても分かる通り強いしゴツいので、どれだけ体をうまく使えるかというのも大事になってきますし、うまく体を預けてターンというか、ボールを流してそのままいくというシーンが今日(21節セルクル・ブルージュ戦)も何回かありました。ロングボールを前の選手がマイボールに出来たらデカいので、やっぱりそういうのは心がけています」

 1トップをやることで、プレーに幅が出てきたのは間違いない。これまでのように自らボールを持った状態からゴールに向かって仕掛けていくことだけでなく、どうやってシュートまで持ち込むか、あるいはいかにしてボールを呼び込むかといった、よりシビアな局面での駆け引きや動きの質をこれまで以上に求めていかなければならない。

 フットボールにおける一般論として1トップには体格に優れた選手が起用されることが多かったが、豊川の場合は慎重171cmと小柄で、常にフィジカル的に不利な状態で相手のセンターバックを上回る必要がある。そのための方策を、手を替え品を替え打ち続けなければゴールには近づくことすらできないのだ。

「やっぱり1トップにならないと身につかないところもあったので、今年1年、そういうところが身について良かったと思います」

 味方のクロスに対してDFと駆け引きして有利なポジションを確保し、ニアサイドに走り込んで相手より先にボールに触る。わざと空中戦で負けておいて、そのこぼれ球にいち早く反応して、そのまま相手をかわす。一度センターバックのマークを引き連れたまま中盤近くまで引いて、味方が最終ラインからのロングパスに飛び出すスペースを作り、再びフィニッシュを狙ってゴール前に走り込む。

●「日本にない1トップ像、俺はそこを追求している」

 こういった狡猾さや賢さは、オイペンという厳しい環境で1トップを経験しなければ、なかなか身につかなかっただろう。豊川は最近、自らのロールモデルとして「ルイス・スアレスの動きは常に分析しています。あとはガブリエル・ジェズスとか。あの2人は常に見ているかな」と語る。

 2人とも南米を代表するストライカーだ。バルセロナに所属するウルグアイ代表のL・スアレスは身長182cm、マンチェスター・シティでプレーするブラジル代表のG・ジェズスも身長175cmと欧州基準ではそれほどおおがらとは言えず、ともにフィジカルに頼るのではなく、駆け引きや一瞬の動きの鋭さを武器に世界屈指のストライカーとしての評価を確立してきた。

 鹿島アントラーズで出場機会の確保に苦しみ、ファジアーノ岡山へのレンタル移籍も経験した24歳は、ベルギーで急成長を遂げ、欧州主要1部リーグで戦えるだけの力を身につけつつある。かつてリオデジャネイロ五輪代表メンバー入りにあと一歩足りない悔しさも味わった。同世代の活躍を刺激に、豊川は独自の路線で高みを目指す。

「(同じリオデジャネイロ五輪世代の南野)拓実だったり(中島)翔哉だったり、やっぱり日本代表で点取っていますしね。負けないように。でもタイプで言っても違うと思うので、こっちで1トップというのを磨きながら、日本にない1トップ像というか、俺はそこを追求しているから。南米じゃないですけど、スアレスとかジェズスとか、そんなに身長はない。でも、やっぱり1トップを張って、あれだけ点を取っているから、俺はそこを目指していますね。日本にないような、ゴールに向かっていって駆け引きするような。まだまだですけど、俺はそこが理想です。今はそこを目標に持って常にやっています」

 豊川は「日本にない、南米のような1トップ」を指標に掲げ、ベルギーで研鑽の日々を過ごしている。成長速度はこの1年で急激に上がった。プレーオフではなかなか結果がついてこないが、残り5試合で年間二桁得点も非現実的な目標というわけではない。

 一方、南野や中島といった同世代の選手たちが輝きを放つ日本代表では、大迫勇也に続くストライカー不在が大きな課題として叫ばれているところだ。

 森保一監督は6月のコパ・アメリカに向けて「南米からはまだまだ学ぶところがたくさんある」と述べ、「南米では“マリーシア”という言葉があったりしますが、流れを読むという部分、よく日本では“ずる賢さ”と言われますが、いろいろな部分で賢さを発揮するということを選手にも学んでほしい」と強調していた。

 クラブでの結果という意味では少々足りていないかもしれない。だが、苦しい状況でも成長と可能性は示している。南米っぽさを追求する豊川が、本気の南米相手に戦い、そこから“ホンモノ”を学んでさらに飛躍する。そんな未来にも、ほんの少し期待したい。

(取材・文:舩木渉)

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最終更新:4/26(金) 10:24
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