ここから本文です

ジョアン・シミッチが風間グランパスの戦術に不可欠な理由。混沌を操る今季最高級の助っ人【西部の目】

4/26(金) 11:20配信

フットボールチャンネル

昨季は残留争いを経験した名古屋グランパスだが、今季は明治安田生命J1リーグ第8節を終えて5勝1分2敗で3位につける。好調なチームを支えているのが、新加入のブラジル人MFジョアン・シミッチだ。洗練されたプレーで攻守に光る働きを披露。風間八宏監督が用いる戦術においても、重要な役割を担っている。(取材・文:西部謙司)

【動画】J1ポジション別ベストプレーヤー

●オールマイティのMFはまだ25歳

 最も「効いている」外国人選手の1人である。ジョアン・シミッチは早くも名古屋グランパスに欠かせない存在になった。

 183cmの身長と足裏を多用するキープ、シミッチという名前も東欧系の香りがするが、ブラジルのサンパウロ出身。名門サンパウロの育成部門育ちで、ブラジルU-20代表ではキャプテンも務めた。ブラジル、ポルトガル、イタリアでのプレーを経て、今季から名古屋に加入している。

 長短の正確なパス、緩急をつけ、敵の動きを最後までよく見てプレーを変えられる。守備も強く、空中戦も強力、運動量も文句なし。オールマイティのMFである。25歳とこれからピークを迎える年齢、よくもこれほどの選手を獲得できたものだ。

 シミッチが名古屋に欠かせない存在になっているのは戦術的な理由もある。風間八宏監督は「自分たちの距離の中に相手を包み込んでしまうこと」を、名古屋の「特徴」だと話している。包み込んで奪い、そこから攻撃を仕掛けていく。つまり、中央で奪って中央から攻撃を仕掛けるわけで、その真ん中にいるシミッチと米本拓司が攻守両面で非常に重要な役割を担っているわけだ。

●包み込む守備とは?

 具体的にいうと、名古屋の守備はサイドハーフが外側へのパスコースを切る。例えば、敵の選手2人がタッチライン際にいて、1人は名古屋のサイドバックがマークしているとする。このときサイドハーフ(ガブリエル・シャビエルまたは和泉竜司)が、もう1人の敵をマークするために下がるのではなく、あえて下がらずにそこへのパスコースを遮断するポジショニングをする。

 見た目にはサイドで敵が1人フリーになっているのだが、そこへパスは通らない。さらに、サイドハーフが対面しているボールを持った敵にプレッシャーをかけることもできる。つまり、1人で面前と背中側の敵2人を守ることができる。

 リバプールもこの守り方をしている代表的なチームだ。この守り方の問題は、中央へのパスコースが開いているということ。リバプールはミルナー、ヘンダーソン、ケイタなど、屈強なMF3人を中央に配置しているが、名古屋で中央エリアにいるのはシミッチと米本の2人だ。それだけ2人への負荷も大きくなる。

 2トップの1人である長谷川アーリアジャスールが猟犬のようにボールを追ってくれるおかげでバランスは保てているが、シミッチと米本のコンビでなければ成立しない守備戦術かもしれない。ただ、包み込む守備が機能しているかぎり、ディフェンスラインは下げなくていいし、攻撃力のあるサイドハーフもむやみに下げなくてすむ。サイドで敵をフリーにしているぶん、中央のボール周辺の密度は高くなる。

 守備の密集度が高ければ、それだけ奪った直後の敵のプレッシャーも速くなるが、そこをかいくぐるパスワークはそれこそ名古屋の「特徴」だ。中央を起点にできる優位性もある。

●カオスのコントローラー

「攻撃と守備を分けて考えるのは好きではない。グループとして何ができるか」(シミッチ)

 中央へ包み込んで奪い、中央を起点に攻める。もし、中央を支配されてしまえば逆にそこから攻撃できる優位性は相手チームが手にすることになる。その点で、名古屋の包み込むサッカーは諸刃の剣ともいえる。別の言い方をすると、この守備戦術はすでに攻撃なのだ。

 実際、名古屋の相手ボールへのアタックはとても速い。ボールホルダーの正面(ボールと自陣ゴールを結ぶ線上)から瞬時にアタックする。前記のとおりサイドハーフは例外だが、ボールへの寄せはいずれにしても速い。ゴールへの最短ルートを塞がれれば迂回するよりない。そして、その迂回ルートは予測しやすくなるので、狙いをつけて寄せる第二アタックがまた速い。さらにプレスバックもある。

 ハマったときの名古屋はボール奪取のタイミングが早く、奪う位置も高くなる。第一アタックで奪えなくても、第二アタックでボールを奪えるケースが多く、その第二アタックを主に請け負っているのが“ボール・ウィナー”のシミッチと米本というわけだ。とくにシミッチは、ボールを奪った直後の判断と技術に優れていて、自分もパニックになりがちな状況をクールに捌く。

「ポゼッションしろなんて言ったことはない」(風間監督)

 川崎フロンターレを率いていたことから、ボールポゼッションは風間サッカーの代名詞のように思われてきた。現象として否定できないところはあるが本意ではない。少なくとも、いわゆるポジショナル・プレーは風間監督にとって「パズル」にすぎず、今の名古屋の攻守はもっとカオス的な様相を自ら呼び込もうとしていている。意外かもしれないが、マンチェスター・シティよりもライプツィヒのほうが近いのではないかとさえ思える。

 混沌の中に活路を見出すのは、ブラジル人のいわば「お家芸」。クールでファイター、テクニシャンで武闘派。シミッチはカオスのコントローラーとして、うってつけの選手だろう。

(取材・文:西部謙司)

フットボールチャンネル

最終更新:4/26(金) 11:20
フットボールチャンネル

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事

あわせて読みたい