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日本の宇宙スタートアップ「Synspective」、2020年に衛星打ち上げへ。レーダーによる地球観測と宇宙ビッグデータの可能性

4/27(土) 15:30配信

HARBOR BUSINESS Online

◆日本の宇宙スタートアップが2020年衛星打ち上げへ

 日本の宇宙スタートアップ企業「Synspective(シンスペクティヴ)」は2019年4月18日、フランスのロケット会社「アリアンスペース」との間で、人工衛星「StriX-α」の打ち上げ契約を締結したと発表した。

 StriX-αはSynspectiveにとって最初の衛星で、打ち上げは2020年のに予定されている。

 StriX-αは、小型・低コストな衛星ながら、レーダーを使って地表を撮影することができる衛星で、夜間や雲がかかってても観測ができるという特徴がある。そしてそのデータは、ビジネスや防災、未来予測など、さまざまな分野に利用できると期待されている。

◆日本の宇宙スタートアップ「Synspective」とは?

 Synspectiveは2018年2月に設立された、日本の宇宙スタートアップ企業である。創設メンバーらはもともと、内閣府の革新的研究開発プログラム「ImPACT」で、StriX-αのもととなる技術の研究・開発を行っており、それを事業化するために立ち上げられたのが同社である。

 StriX-αは質量約150kgの小型衛星で、「合成開口レーダー(SAR)」という、レーダーを使って地表を観測する装置を積んでいることが最大の特徴である。

 衛星から地球を撮影する場合、多くはデジタルカメラのような「光学センサー」を使う。Google Earthなど地図アプリでもおなじみの衛星写真の多くは、この光学センサーが撮影している。

 光学センサーの撮影画像は、誰が見てもわかりやすく、また細かいものまで写すことができる。しかし、地球の一日のうち半分は夜であり、またある場所に雲がかかっている率が40~50%ほどあるため、したがって光学センサーで見えるのは地球全体の4分の1程度でしかない。

 一方、SARは衛星から電波を出して、地表に当たって跳ね返ってきた電波の反射波を画像にする。あまり細かいものは見られないが、夜だったり、雲がかかっていたりしても、地表に何があるかを見ることができる。つまり、光学センサーでは見られない、地球の4分の3の姿を撮影することができ、光学センサー衛星とは異なるサービスを展開できる。また同時に、光学センサー衛星とは異なる質の画像が撮れるため、両者の画像を組み合わせることで、新たな価値をもったデータを提供することもできる。

 SARを積んだ衛星はこれまでも世界中で打ち上げられているが、従来は技術的な問題から大型の衛星にしか積めず、また開発コストの問題もあって、その多くは国の宇宙機関などが保有、運用していた。しかし近年の技術革新により、小型の衛星にも積める技術が確立されつつある。SynspectiveのもととなったImPACTの研究もそのひとつだった。

 StriX-αの打ち上げは2020年の予定で、最終的に約25機の衛星を打ち上げて衛星群(「コンステレーション」という)を構築し、地球の全体を準リアルタイムで観測し続けることを目指している。

 また、Synspectiveとアリアンスペースは、今回の打ち上げ契約に加え、将来の協力関係を構築することを目標とした、戦略的パートナーシップ契約にも調印した。

◆「宇宙ビッグデータ」の可能性

 Synspectiveでは、こうした衛星群から集めたデータを、経済活動の視覚化と予測、地形と地質構造の観察、災害時などの早急な状況把握などに活用し、企業や政府機関が持続可能な開発、復興計画を実現することに寄与するとしている。

 衛星を使ったデータは、それ単体でも役に立つものの、さらに近年では「宇宙ビッグデータ」も注目されている。

 宇宙データは、国境などを気にすることなく、地球全体の情報を得られるという点で、ほかにはない大きな価値をもっている。ビッグデータといえば以前から重要なキーワードとして語られてきたが、そうした従来のデータと、StriX-αが撮影するような宇宙からのデータを組み合わせることで、新しい価値を創出でき、ソリューションとして幅広い分野に提供できるようになっている。

 こうしたソリューションは、従来からアイディアはあったが、それがいま実現しつつある背景には、近年の技術革新がある。

 たとえば、StriX-αのような小型かつ高性能で、コンステレーションによって地球全体を準リアルタイムで観測できる衛星が実現できようになり、またそうした衛星からのデータを受け取る地上のアンテナなど、インフラの技術革新もあり、さらにAIやクラウドなどの宇宙以外の技術革新も進んだことで、より効率的なデータ収集や分析ができるようになった。その結果、宇宙ビッグデータが、意思決定につながる実用的で詳細な情報である「アクショナブル・データ」として使えるようになってきているのである。

◆現状把握から未来の予測まで活用できる

 具体的な利用先としては、まず農業や水産業といった、一次産業の分野がある。こうした分野は従来から衛星データが使われていたが、それがより活発になり、作物の生育状況を読み取ったり、いつ収穫や漁するのがいいかといった判断をしたりといったことに使うことができる。

 また、他国の石油や鉄鉱石などの備蓄量も読み取れるため、その国の国力や政策が見て取れたり、外交に活用したり、ビジネスにおいては先物取引に活用したりといったこともできる。

 さらに、衛星から測定した気温や湿度、紫外線量などを、健康・美容産業に活かしたり、スポーツ選手のトレーニングや実際の競技に活かしたりなど、これまで宇宙とあまりかかわりのなかった「非宇宙産業」にも、宇宙ビッグデータの利用が大きく広がっていくと期待されており、すでに研究も進んでいる。

 とくに、いずれの場合においても、現状の把握から、未来の予測にまで使えるという点が大きなポイントである。

◆競合ひしめく地球観測ビジネスで存在感を放つ日本

 こうした衛星から地表を撮影するビジネスは、折からの小型衛星ブームもあり、またロケット開発などと比べると参入障壁が比較的低いこともあって、世界中でさまざまな企業が参入し、すでに衛星を打ち上げている企業も多い。他国で有名なところでは、米国の「Planet」や「Blacksky Global」、カナダの「UrtheCast」、フィンランドの「ICEYE」などがある。

 その中で、日本企業は大きな存在感を放ち、世界的な評価も高い。

 たとえば、光学センサー衛星の分野では、「アクセルスペース」がある。同社は2008年に創設され、すでに10年を迎えた、もはやベンチャーとは呼べないほどの企業である。これまでに他社が運用する衛星の開発、製造を手がけてきたほか、2018年12月27日には、自社で運用する「GRUS」衛星の打ち上げに成功。同社では今後、2022年までに数十機のGRUSを打ち上げ、地球全体を毎日観測するインフラ「AxelGlobe」の構築を目指している。

 SAR衛星の分野では、前述したICEYEが、2018年1月に最初の衛星を打ち上げ、すでにデータの提供を開始している。そして日本でも、今回取り上げたSynspectiveをはじめ、九州の「QPS研究所」も参入しつつあり、今後競争が激化しそうである。

 国も、2017年に地球観測データの取扱い方法などを定めた法律「衛星リモセン法」を施行するなど、民間が参入するためのルールを整えている。さらに、日本の宇宙産業全体の市場規模拡大を目標とした「宇宙産業ビジョン2030」を策定し、さまざまな形で宇宙産業の促進を図っている。

 これからこの分野における日本の存在感はどうなっていくのか、そして宇宙ビッグデータでビジネスや私たちの生活がどう変わっていくのかに要注目である。

<文/鳥嶋真也>

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイト: 「КОСМОГРАД」

Twitter: @Kosmograd_Info

【参考】

・Arianespace to launch “SAR” satellite StriX-α aboard Vega for Japanese startup company Synspective – Arianespace

・Synspective – Small SAR satellite constellation x Big Data x Machine Learning

・Satellite Data – ICEYE – Every Square Meter, Every Hour

・iQPS Inc.

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:4/27(土) 17:39
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