ここから本文です

ピクサーの特許を侵害するマイクロソフトから金を奪いとれ!

5/1(水) 17:10配信

クーリエ・ジャポン

ピクサーの最高財務責任者として入社したローレンス・レビーは、社内の状況を観察し、事業の柱の一つであるレンダーマンソフトウェアの販売が問題ではないかと考えるようになった。

ピクサーの技術力の高さを証明するものではあるが、いかんせんマーケットが小さすぎる。そんな結論に達した彼は、ジョブズに「新しい収益の芽」を進言する。
スティーブとは電話で連絡を取っていた。ほぼ毎日、たいがいは1日に何度も、だ。時間は特に決まっていない。私の自宅には、キッチンのFAXに並んで仕事用電話が用意してある。この電話が毎晩のように鳴る。

スティーブはいつも激しく、トップギアで走りつづけているみたいだったが、会話はいつも気安く、滑らかだった。前回の続きがするっと始まるのだ。家族のことなどで手が放せなかったりしたら、少しあとにかけ直す。会話が始まると、時速160㎞まで瞬間的に加速する感じがした。

週末、スティーブは、よく、我が家まで歩いて来た。5分ほどの距離なのだ。

「やあ、ローレンス。散歩に行かないか?」

こう言われるので、一緒にパロアルトの街中をぶらつく。スティーブほどになれば好きなところに行けるはずだが、彼は、近所でいいらしい。オークの古木や古くてすばらしい家屋があると立ち止まって眺める。新しい家屋に興味を引かれることもあった。大学通りまで足を伸ばし、マルゲリータピザを食べてくることもあった。

散歩中の会話はのんびりしており、ビジネス以外のこともよく話し合った。家族について、政治について、映画について、好きなテレビ番組についてなどだ。ふっとピクサーのビジョンや戦略に話が転じることもあった。

この散歩でレンダーマンの話を出してみた。

「つまり、レンダーマンで得られる多少のお金は捨てがたいが、それで成長することはできない──そういうことかい?」

「そのとおりです」

スティーブは納得しない。

「業界をリードする製品で、映画を作るのに必要なものなら、値段を上げればいいんじゃないか? 1本3000ドルを6000ドルとかそれこそ1万ドルとか。必要なら払うだろう」

どうしても必要ならそうなるだろうが、大半のプロジェクトでは不要なのが問題だ。

「あの手のソフトウェアではレンダーマンが一番かもしれませんが、やり方はほかにもいろいろとあります。技術的には劣るやり方ですが、でも、選択肢ではあるのです。そして、コンピューターアニメーションによる特殊効果の制作予算は限られています。

スティーブン・スピルバーグが『ジュラシック・パーク』の恐竜を描くとか、ジェームス・キャメロンが『ターミネーター』でサイボーグを描くとかは例外で、普通なら、品質が下がってもよしということになるのです」

スティーブは結論に飛んだ。

「レンダーマンを売るのは止めろと言いたいのかい?」

「かもしれません」

ちょっとぼかした答え方にした。これは大きな決断になるし、いまはまだプッシュしたくないからだ。

「気になっているのは手間です。顧客のサポートに優秀なエンジニアの手が取られています。彼らにはほかの仕事をしてもらったほうがいいかもしれません」

レンダーマンは社内専用とし、販売と顧客サポートに投入している多大な労力を節約したらどうかというのが私の考えだった。

「レンダーマンをどうしようと、成長戦略や株式公開にはまったく影響しません」

スティーブは納得してくれたようだ。がっかりした様子もない。この件については、このあとも折々検討しなければならない。初手ならこのくらいで十分だろう。

1/3ページ

最終更新:5/3(金) 12:28
クーリエ・ジャポン

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事

あわせて読みたい