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Twitter代替と言われたマストドンの今。多様性を保つ脱中央集権的SNSの魅力は今も

5/3(金) 15:30配信

HARBOR BUSINESS Online

◆ドワンゴのSNS「friends.nico」が4月28日に終了

 ドワンゴのSNS「friends.nico」が4月28日に終了した。トップページからは「卒業証書」というpdfへのリンクが張られた状態になっている。

「friends.nico」は、マストドン(Mastodon)と呼ばれる分散型SNSの1つである。TwitterやFacebookといったSNSは中央集権型だ。そうした中央集権型ではないマストドンは、2016年10月に誕生して2017年4月に日本でブームが起きた。

 分散型のマストドンでは、自由にサーバーを立てることができる。草の根のサーバーだけでなく、ドワンゴやピクシブといった著名なIT企業が参入してサーバーを作った。それから2年、多くのユーザーを抱えていた「friends.nico」が終了した。そこで、マストドンについて振り返りながら、現状を確認してみたいと思う。

◆マストドンとは?

 マストドンは、2016年にドイツのプログラマー オイゲン・ロホコが開発したフリーソフトウェアだ(フリーソフトウェアは、自由なソフトウェアという意味で、無償のソフトウェアという意味ではない)。

 マストドンを利用すれば、自身でサーバーを立ち上げて、Twitterのようなサービスを提供できる。また、各サーバーは、連合を作ることで発言を共有できる。運営者は、政治、趣味など自由な方針で運営をおこなえる。ユーザーはそうしたサーバーの中から、自分が参加したいものを選ぶ。複数のマストドンにアカウントを作ってもよい。

 TwitterなどのSNSが、強力な統治者がいる中央集権型のサービスだとするならば、マストドンは、都市国家ポリスが並立するギリシア時代のようなサービスだ。アテネやスパルタといった特徴的な都市国家があり、それらが緩い繋がりを持っている。古代のギリシアと違うのは、ユーザーが自由にどの国に属するかを決められることだ。

 マストドンは脱中央集権で、オープン(オープンソースかつオープンな仕様)のSNSだ。Twitterなどでは、運営の方針に合わない発言は禁止される。マストドンでは、禁止されれば他のサーバーに移ればよい。自分でサーバーを立ち上げることもできる。プログラムは公開されており、改造が許可されているので、独自の機能を持たせることも可能だ。

 独自のサーバーを立ち上げた際、世間から孤立するのではないかという懸念もあるだろう。マストドンには連合という仕組みがある。サーバー間で繋がり、発言を共有することができる。どのサーバーと繋がるかは、運営者が自由に選べる。この仕組みを持つことで、完全な孤立を避けることが可能だ。内政干渉を防ぎながら、他のサーバーと交流を維持する。そうした仕組みをマストドンは持っている。

 Twitterの代替と言われたマストドンだが、単なる代替ではない。Twitterに代表される商用SNSとは思想が違う。ソフトウェアは思想の一表現である。マストドンは、現在の中央集権的なWebの世界に一石を投じたソフトウェアである。

◆2017年のブームから現在まで

 2016年10月に公開されたマストドンだが、日本では2017年の4月にブームが起きた。発端は、4月11日に nullkal 氏が、日本初のマストドンサーバー「mstdn.jp」を開設したことだ。ネット上で話題が沸騰して、4月14日にはピクシブが「Pawoo」を作った。また、4月19日にはドワンゴが「friends.nico」を始めた。マストドンは、瞬く間にブームになった。

 筆者も「mstdn.jp」「Pawoo」「friends.nico」それぞれにアカウントを作り、住人となった。タイムラインは非常に活発で、次から次に発言が流れてきた。

 個人的な印象も書いておこう。マストドンは、Twitterのようにフォロワーを確保して情報を流すというよりは、今ログインしている人と、流れてくる情報を元に雑談するという感じだ。

 マストドンの画面では、複数のカラムに情報が流れてくる。フォローしている人のカラム以外に、サーバー全体のカラム、連合のカラムがあり、フォローしている人の情報は、そうしたものの、ひとつでしかない。

 マストドンのUIは、プログラムの改造で自由に変わるために、必ずしも全てのマストドンが、こうしたカラムを備えているわけではない。しかし「中央集権ではない」という思想が、フォロー、フォロワー構造にもおよんでいると感じた。

 2017年の日本のブームは、非常に大きなものだった。4月16日には、「mstdn.jp」のユーザー数が世界全体のマストドンの中で1位になった。4月17日には、「Pawoo」が「mstdn.jp」を抜き去り世界1位になる。

 2019年の現在では、「Pawoo」のユーザー数は53万人を突破している。累計トゥート数(Twitterのツイートに相当する)は2800万を越えている。「mstdn.jp」のユーザー数は19万を突破。累計トゥート数は4800万以上だ(日本のマストドンインスタンスの一覧)。

 マストドンは世界中にサーバーがあり、自由に参加できる(ソーシャルネットワーキングを、あなたの手の中に – Mastodonプロジェクト)。私も、時折ログインしては、タイムラインを眺めたりしている。

 公開から約2年半。マストドンは消えることなく残っている。ただ、収益化という面では難しいのかもしれない。冒頭に挙げた「friends.nico」は4月28日に閉鎖された。「mstdn.jp」は、2018年10月1日に nullkal 氏から合同会社きぼうソフトに譲渡された。

 マストドンの運営には、サーバーの維持費が掛かる。また、メンテナンスの人的コストも必要だ。ただ置いておけばよいというわけではない。小さなサーバーならともかく、ユーザー数が万を超えると、事業として成り立たせないと維持することは難しいのだろう。

◆中央集権的インターネットの世界

 マストドンが誕生したのは2年半ほど前だ。その思想には、中央集権的なインターネット世界への疑問がある。それから月日が経ち、インターネットの世界はどうなっているのか。

 Facebookの月間アクティブユーザー数は23億人を超えている。Twitterは3億人を上回る。インスタグラムは10億人を突破している。マストドンとは、桁が3つか4つほど異なっている。

 コミュニケーションを基本としたサービスでは、ユーザー数が、そのままそのサービスの魅力となる。人がいないSNSには、人が寄りつかない。そして、多くのユーザーを集めた場合、維持やメンテナンスにカネが必要になる。

 より巨大なサービスを運営するには資本がいる。単にサービスを提供するだけでなく、広告を投下したり、マネタイズのための仕組みを考案したりしなければならない。そのため、マストドンのような仕組みが、既存の巨大サービスを脅かすのは難しいと感じる。

 とはいえ、画一化されない世界があることは、ありがたいことだ。日々、インターネットを利用していて感じるのは、少数の企業の価値観に、発言やコンテンツの内容を制限されているという不自由さだ。

 FacebookやTwitterといったSNSを利用したり、スマートフォン向けのマーケットでアプリを出したり、Amazonで本を出したりするには、米国企業の価値観に従う必要がある。グローバルな世界でありながら、アメリカというローカルな世界が基準になっている。

 中央集権的なインターネット世界は、多様性を許さない世界に繋がる。マストドン的な世界や仕組みが、多く登場して普及すればよいと感じている。

◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース

<文/柳井政和 photo by Ken Yamaguchi via flickr(CC BY-SA 2.0)>

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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最終更新:5/3(金) 15:30
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