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子どもの心にある「世間」と「身内」の境界線

5/5(日) 8:30配信

教員養成セミナー

どうして黙っちゃうの? ―選択制緘黙

■ ストレスはどこにでもある
 世の中はストレスに溢れています。生きている限り、ストレスから解放されることはないでしょう。私たち大人だけでなく、学校に通っている子どもたちにもストレスはかかっています。むしろ学校は、大人社会以上のストレス社会かもしれません。ストレスが非常に少なかった家庭を離れて、学校という場に初めて足を踏み入れた子どもにとって、そこは夢膨らむ魅力的な場であると同時に、社会的スキルを身に付けながら苦難を乗り越えていかなければならない試練の場でもあるのです。

 子どもたちが学校で体験するさまざまなストレスは、総称して「学校ストレス」と呼ばれています。例えば、幼稚園児にとっては母親と別れること、気の合わない子と一緒の時間を過ごすことがストレスになります。小学校低学年では、授業時間が決まっていること、宿題やテストがあることがストレスです。小学校の高学年以降は、学校の勉強やテストから成績評価をされることに加えて、友人関係が大きなストレス源になります。中学生の女子に多く見られるチャムグループは、心の拠り所であると同時にストレスにもなると以前に書きましたね(2018 年12 月号)。

 大学生になった今のみなさんにとっての学校ストレスは何ですか。学業もありますが、何よりも進路、そしてやはり友人関係の悩みも続いているのではないでしょうか。


■ 「世間」を「身内」に変えれば話せるようになる!
 幼少期には、置かれた環境になじめずにチックを起こすこともあります。体の一部の神経が本人の意思に反して勝手に繰り返し動いてしまう、というのが一般的な定義です。緊張したりストレスを感じた時、執拗に瞬きをしたり肩をぴくぴくしたりします。自分自身をモニターするスキルも十分ではありませんし、「ストレスを感じて辛いよ」と言うこともできず、体が自然に反応してしまうのです。男児に多いというのも、女児との表現力の遺伝的な違いの現れなのでしょう。

 また、家庭では家族とごく普通に、場合によっては饒舌なほど会話が弾んで言葉が達者な子が、ひとたび幼稚園や小学校に行くと、一言も話をしなくなることがあります。これは選択性緘黙(かんもく)あるいは場面緘黙という幼少期に起こりやすい不適応行動の一つです。家族と話ができていますから発話能力に問題はありません。先生が言うことをきちんと理解して対応できるので、聞く能力にも問題はないです。となると、原因は心理的なもの、つまり過度な緊張です。幼稚園や小学校がその子にとっての落ち着いた居場所になっていないがために、自分から話をすることができないのです。

 私は大学で2年生の教育心理学の授業を担当しています。最初の授業の日まで私のことを知らない学生も多く、そのような学生にとって私は赤の他人でした。無視できる存在です。しかし授業で顔を知ってからは、もう赤の他人ではありません。そうした人間関係を「世間」と言います。そのため、もし帰宅の電車で友人と楽しくおしゃべりをしていたところに、突然私が隣の席に座ったとしたら、一気に緊張が高まり、私と接近している腕にすべての神経が集中してしまいます。嫌ですね。友人との会話もたどたどしくなり、ただ時間が過ぎるのを待つしかありません。でも、その学生が私のゼミに来たらどうなるでしょうか。電車内で私が座っている隣の席にわざわざ座り、愚痴を言い始めたりするようになります。「世間」ではなく「身内」という関係になったからです。人間関係は、他人、世間、そして身内というように、時間経過にともなって変わり得るものなのです。

 このような例を踏まえると、選択性緘黙の子にとって、自宅はもちろん「身内」ですが、幼稚園や学校はまだ「世間」という関係でしか捉えられていないのです。そのために過剰なほど緊張してしまうのです。まずは緊張せずにいられる落ち着いた空間を提供すること、そして学びの場が居心地の良い「身内」の関係になることが大切です。それを支援することが先生の務めになるでしょう。

著・監修 古川 聡(国立音楽大学音楽学部教授)
筑波大学大学院心理学研究科博士課程単位所得満期退学。学術博士(筑波大学)。

『月刊教員養成セミナー 2019年6月号』「教育心理入門」より

最終更新:5/5(日) 8:30
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