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難民申請が認められず無期限収容、精神崩壊まで追い詰められたクルド人男性

5/6(月) 8:33配信

HARBOR BUSINESS Online

◆トルコ政府のクルド人弾圧から逃れて日本で難民申請

「ガコ(クルド語で「父親」)!?」

⇒【画像】インタビューに答えるHさんの妻

 もうすぐ2歳になるクルド人の女の子が、母親のスマホが鳴るたびに嬉しそうに叫ぶ。

 母親は、トルコから日本に逃れてきたクルド人だ。夫のHさんは難民申請が認められず、2017年11月から現在まで東京入管に収容されている。

 Hさんは実兄がトルコで反政府活動をしていたため、Hさん自身もトルコ当局に共犯の疑いをかけられ、逮捕され拷問を受けた経験がある。そのことが原因で、Hさんは精神疾患を抱えていた。

 収容された当時、Hさんには日本で生まれて間もない娘がいた。未熟児だったため、生まれてからしばらく入院していて、やっと退院して2か月半だけ家族3人で過ごすことができた。しかし、それからすぐ収容されてしまい、それ以来、Hさんは娘と触れ合うことができなくなってしまった。

◆親子の触れ合いすら認めない東京入管

 入管施設によって、そのルールはいろいろと異なることが多い。例えば牛久入管であれば、家族とのガラス越しではない面会はそう難しくはない。事前に予約さえとれば、妻と触れ合うことは禁じられているが、子供とだけは30分だけ触れ合うことができる。

 しかしHさんのいる東京入管の家族面会は非常に厳しく、家族を証明する書類が必要となる。Hさんは入籍していなかったため家族面会が認められない。トルコから日本に逃れてきた立場なので、トルコ大使館へ出向いて婚姻を申請することができなかったのと、生まれたばかりの娘が入院していることもあって、なかなか対処できずにいた。

 しかし、わざわざ遠い入管施設まで他人の子供が面会に来ることはまずあり得ないし、面会時の様子を見れば、親子かどうかはすぐわかるだろう。あまりにも厳しくはないだろうか?

 筆者は、入管の処遇部門の職員に理由を聞いてみた。

「悪いことをする人がいるからです。何かを手渡したりするんです」

「しかし、牛久入管ならここまで厳しくはないし、職員が見張っていればいいのではないですか」と再度、問いただしてみた。

「だって、本当に悪いことをする人がいるんです」

 入管ではよくあることだが、相変わらず納得のいく回答をもらうことはできなかった。

◆「殺すなら一気に殺せ!」体中を刃物で切り刻む

 2018年9月、Hさんの自傷行為が始まった。収容に耐えられなくなったHさんを含む3人のクルド人が「殺すなら一気に殺せ!」と入管職員に対し叫び、暴れ、体中を刃物で切り刻んだのだ。

 見ていた被収容者たちの話によると、床は血だらけだったとのことだった。その後すぐに手当てを受けたが、それぞれ懲罰房に入れられてしまった。

 筆者は3人に面会した。彼らは、どんな刃物を使ったかなどについては覚えていなかった(同室の人たちは「CDを割ったのでは?」と推測している)。

 それ以来Hさんはすっかり元気をなくして、ふさぎ気味になってしまった。いつまでたっても解放されることはなく、ついに1年が過ぎた。赤ちゃんだった娘は、触れ合うこともないまま少しずつ大きくなっていた。

◆娘の服を抱きしめて寝ているHさん

 2019年4月、再びHさんに異変が起きた。もう何度目になるかわからない仮放免申請の却下で、Hさんはパニックを起こして暴れ出した。それから、暴れては懲罰房に入るということを繰り返すようになった。

 Hさんと同じブロックの周りの被収容者に聞くと、みなとても心配して気遣っている様子だった。

「Hさんが自傷行為を繰り返している。5月末は娘の2歳の誕生日らしい。『それまでに出られなければ死ぬ』と言っていました」

「娘の服を抱きしめて寝ています。もう会話もほとんどできません」

 Hさんの義姉は、面会した時のことをこう語る。

「Hは何か服のようなものを抱えていました。『それは何?』と聞くと、『私の娘です』と答えました。それを聞いたとき涙がこぼれそうになりました……。Hは変わってしまった、目も合わせず、ずっと下をむいている」

◆問題があるから、難民だから帰れないで日本にいる

 Hさんの妻が胸の内を語ってくれた。

「Hは本当に優しい人だった。ここのところ心配で、週に2~3回は面会に来ているのですが、まるで私のことを忘れちゃったみたいです。娘のことだけを見て、たまにガラス越しで遊んでるみたいな感じ。私が話しかけてもあまり反応しなくなりました。こんな状態で、もし解放されたとしてもどうしたらいいの。元の生活に戻ることはできなくなってしまった……」

 妻はさらに続けた。

「外国人、悪い人じゃない。問題があるから、難民だから帰れないで日本にいる。家族をバラバラにするの良くない。娘もパパがいないことに気づき始めている。どうか皆さん、手伝って。お願いします」

 Hさんの担当弁護士の大橋毅氏は「もともと精神疾患のある人を収容するのはおかしいし、しかも長期収容するというのはもっとおかしい」と語る。

 Hさんが収容されて1年半が過ぎようとしているが、いまだ愛娘を抱きしめることができずにいる。トルコに帰ることもできないというのに、これ以上の収容は無意味ではないのだろうか。いったい、いつまでこの状況が続くのだろうか。

<文/織田朝日>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:5/6(月) 8:33
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