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<解説>驚きの発見、標高3000m超のチベット高原にデニソワ人化石

5/8(水) 17:38配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

刻印の入った動物の骨と石器も

 顎の骨が発見されたのは1980年代だが、実際に研究が始まったのはそれから30年も経ってからだった。2010年に、中国蘭州大学で博士号を取得したばかりの張東菊(チャン・ドンジュ)氏は、担当教官だった陳発虎(チェン・ファフ)氏と同僚の董光栄(ドン・グアンロン)氏の勧めで、正体不明のヒト科の化石を研究することにした。陳氏は今回の論文の筆頭著者で、張氏と董氏は共著者に名を連ねている。

 最初の仕事は、下顎がどこで発見されたかを調べることだった。発見者は、ある無名の僧侶だった。僧侶はそれを、偉大な高僧の生まれ変わりとされる化身ラマ、グンタン・リンポチェ6世へ委ねたとされているが、発見した洞窟の名を伝えるのを忘れていた。

 研究チームは、最終的に夏河県の白石崖溶洞に的を絞った。現地を発掘してみると、刻印の入った大型動物の骨と石器が見つかった。これら遺物の研究はまだ継続中なため、下顎の主が属していたデニソワ人たちがこの石器を作り、動物の骨に印を刻んだのかどうかはわからないと、張氏は断っている。

 下顎の方からは、意外な分析結果が出た。アジア大陸の広い場所で見つかっている原人ホモ・エレクトスや、私たちホモ・サピエンスの化石とは異なる形態をしていたのである。歯が並ぶ形はホモ・エレクトスほど細長くないし、現生人類のような顎先がみられない。そして、最も明らかな違いは、歯の大きさだ。デニソワ洞窟で発見された化石と同じくらい大きかった。

「私が見る限り、とてもデニソワ人らしい形態をしています」と、カナダ、トロント大学のベンス・ビオラ氏は言う。氏は今回の研究には参加していないが、デニソワ洞窟で見つかった化石のエキスパートだ。「発見されるならこういうものだろう、といった見た目です」

 確認のため、研究者らは化石からDNAを抽出しようとしたが、古すぎてDNAが劣化していたため、タンパク質に頼ることにした。タンパク質は、DNAより分析結果の正確さに劣るものの、劣化のスピードは遅い。

 すると、この骨のタンパク質は概してネアンデルタール人や現生人類よりもアルタイ山脈のデニソワ人の方にはるかに近いことがわかった。

「最先端の技術を組み合わせた今回の手法は素晴らしいです」と、スペインの人類進化国立研究センター所長のマリア・マルティノン=トレス氏は話す。「古遺伝学は古人類学に革命をもたらしました。そしていまや、もうひとつの先端領域であるタンパク質の研究が、知の新たな扉を開きつつあります」。なお、氏は今回の研究に関わっていない。

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