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<解説>驚きの発見、標高3000m超のチベット高原にデニソワ人化石

5/8(水) 17:38配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

新たな扉を開くタンパク質研究

 とはいえ、タンパク質からわかることは限られている。デニソワ人には、驚くほどの多様性がある。今年発表された別の研究では、デニソワ人は独立した3つの遺伝的グループに分けられることが明らかになった。しかも、そのうちのひとつのグループはネアンデルタール人とデニソワ人との違いと同じくらい、他のデニソワ人と異なっていたという。だが、タンパク質はグループ間や年代による違いが少ないため、下顎の主がこれら3つのグループとどこまで似ているのか、それともまた別の近縁グループに属するのかを見極めるのは難しい。

 米ブラウン大学の集団遺伝学者エミリア・ウエルタ・サンチェス氏は、現代のチベット人とデニソワ人が高地に適応する同じ型の遺伝子を持っていたことを、2014年に「Nature」誌に発表した研究者だ。もちろん、当時はデニソワ洞窟でしか化石が発見されておらず、彼らがどのように現生人類に影響を与えたのかはわからなかった。今回の下顎の発見で両者がつながったのは興味深いものの、明確な答えは出ていないとウエルタ・サンチェス氏はみている。

「デニソワ人が高地に適応していた可能性があるという今回の論文には同意しますが、実際に適応していたとまでは言えないと思います」

 ウエルタ・サンチェス氏によると、高地に適応した遺伝子は、あるタンパク質の量を調節するもので、特別なタンパク質をつくるわけではない。つまり、タンパク質の種類を調べても、何もわからない。下顎がいくら低酸素環境で見つかったといっても、やはりDNAがなければ、顎の持ち主が実際に高地に適応していたとは断言できないという。

高地にはまだ多くのものが隠されている

 謎はまだ多いが、ほかにもこの下顎からアジアにおける人類進化の歴史に関してどんな手掛かりが得られるのか、科学者は楽しみにしている。これまでの進化系統樹に当てはまらないアジアの古人類を、この化石を参考にしてデニソワ人と特定できる可能性もあるとマルティノン=トレス氏は言う。たとえば、20万年前の謎の4本の歯は、もしかしたらデニソワ人かもしれない。

 そしてこの化石以外にも、高地にはまだ多くのものが隠されている可能性がある。デニソワ人の化石に詳しいビオラ氏は、「アジアの高山には、まだ知られていないことがたくさんあります。今までは、まさかそんなところに人は住んでいないだろうと思い込んでいたんです」と話す。

 ビオラ氏は現在、キルギスにある標高1900メートルのセルンガー洞窟で見つかった未知の人類の化石を研究している。氏もその研究仲間も、今までこれをネアンデルタール人のものだと思っていたが、今回の論文をきっかけに、デニソワ人である可能性も検討し始めている。

文=Maya Wei-Haas/訳=ルーバー荒井ハンナ

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