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【英国人の視点】カマタマーレ讃岐、J3降格で生まれた「チャンス」。クラブに流れるポジティブな雰囲気

5/12(日) 10:02配信

フットボールチャンネル

毎年J2で残留争いを強いられてきたカマタマーレ讃岐は昨季、22位となりJ3に降格。しかし、初めてJ3の舞台で戦う今シーズンは、好調なスタートを切っている。クラブにとって降格は、すべてがネガティブなことではないという事実を、讃岐は示しているのかもしれない。(取材・文:ショーン・キャロル)

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●開幕ダッシュに成功

 藤枝MYFCが攻撃の手を強める中、最後の一撃として藤枝・谷口堅三がCKにヘディングで合わせてゴールを狙う。

 ゴール前に落ちたボールにカマタマーレ讃岐の守備陣の誰よりも早く藤枝・岩渕良太が反応し、ゴールライン上を守る池谷友喜の背後のネットへとボールを押し込んだ。

 過去5年間、J2の下位で苦しみ続けた讃岐のサポーターにとって、試合終盤の失点は、残念ながらあまりにも見慣れた光景だ。今回もまた終了間際にやられてしまった。

 だが、今年は少々事情が異なる。5月5日に行われたこの試合では、すでに2-0でリードしていた讃岐の試合結果に影響する失点とはならなかった。この勝利により藤枝を上回ったチームは、一時的ではあったがJ3の首位に浮上した。

 この試合の1時間後に行われた試合で、ギラヴァンツ北九州がザスパクサツ群馬を相手に勝利を収めたことで、讃岐は得失点差で2位へと後退した。それでも今季から上村健一監督が率いる讃岐は、5年間のJ2下位生活を経てついに降格したJ3リーグで、開幕から8試合で勝ち点17を獲得。好発進を切ることに成功している。

 讃岐はJ2で過ごした5シーズンで、最高でも16位でしかシーズンを終えることができなかった。最後の2年間ではわずか15勝しか挙げられず、45試合に敗れる結果となった。

 もちろん降格することを望んでいるチームなどいないが、全くの無意味だと言われるのも正しいわけではない。例年通り降格を回避するための勝ち点をもぎ取っていくのではなく、勝利を重ねて上を目指していく戦いを、ファンも選手たちも満喫していることだろう。

●「とにかく楽しめている」

「1年でJ2に戻ることしか考えていません。監督もいつもそう言っています。J3は本当に厳しいリーグだと思いますが、ただ前だけ見ています。プレッシャーはないですし、とにかく楽しめています」。キャプテンの竹内彬は試合後にそう話していた。

 強い日差しの照りつける中行われた、先週末のPikaraスタジアムでの試合の雰囲気は、私が前回訪れた2017年8月とは間違いなく違っていた。

 その日の試合で讃岐は、横浜FCを相手に1-0の勝利を収めたのだが、順位の上では20位に位置しており、その後は15試合にわたってホームで白星を挙げることができなかった。地元ファンの前で次に勝てたのは翌年6月、瀬戸内海を挟んだ隣県のファジアーノ岡山に1-0の勝利を収めた試合だった。

 昨季の讃岐がホームで勝ち点3を手に入れられたのはわずか4回。そのうち3回は岡山戦の勝利を皮切りに、勝ち点を積み重ねたシーズン中盤の好調な時期だった。だが、ラスト17試合はわずか1勝という散々な成績が続き、最終的転落を余儀なくされる結果となった。

 J3を戦う今季、ゴールデンウイーク中に香川県内を回っていると、高松空港でも商店街でも、スーパーで食料品を買っていても、カマタマーレのポスターが目に入らない場所はなかった。ピッチ内外で苦しい状況(練習する芝のピッチを探して奔走することもあった)を過ごそうとも、相変わらずクラブは確かな存在感を持っていることが示されていた。

●降格は「リセットの機会」

 降格を通して、クラブにとって是非とも必要だったリセットの機会が訪れる場合もある。ネガティブな面にばかり目を向けるのではなく、誰もが気分を一新し、基本に立ち返って楽しむことができる。

 日曜日の試合でスタジアムを訪れていたファンも、友人たちや家族と連れ立って地元チームを応援しつつ、スタジアムの光景や音を味わい、一体感を味わうために集まっていた。この日は子どもたちが動物とふれあえる「ピカスタどうぶつ園!」も準備されていた。

 そういった楽しみは、おそらくどんなレベルのクラブにも共通するものではあるが、目標が高く大きくなるにつれて忘れられてしまうように感じられる場合もある。優先すべきものを見失い、クラブは根幹として、地域の代表として人々に帰属意識と誇りを与えるため存在しているということを忘れてしまう者もいる。

 カテゴリーを下げることが、チームの若返りのチャンスに繋がることもある。

 藤枝戦では讃岐の先発メンバーのうち5人が23歳以下であり、19歳の選手2人がベンチに入っていた。

 もちろんそれを補うように、37歳のGK清水健太や35歳のCB竹内も先発し、ベンチには木島良輔と我那覇和樹の合計77歳コンビも控えていた。この日のスタジアム外で触れ合うことができた仔犬たちのような未熟な存在ではなく、経験を重ねてきた選手たちだ。

 そして、チームの戦いぶりも素晴らしいものだった。意図を持ってピッチ上でボールを動かし、恐れることなく最終ラインから組み立てていこうとしていた。一方で、開幕から7試合で5得点と好調にシーズンをスタートさせていた藤枝の森島康仁に対する十分な警戒も怠ることはなかった。

●ポジティブなムード

 前半45分間にはやや危なくなりかけた場面も少々あったが、讃岐は後半立ち上がりからペースを上げ、すぐにペナルティーエリア手前でFKを獲得。これを重松健太郎が絶妙なキックでゴール右上隅へと送り込み、GK杉本拓也の必死のダイブも届かず48分に先制点を奪った。

 そのわずか2分後、観客席からは歓声が沸き起こりハイタッチが交わされた。今度は池谷が胸トラップからの見事な右足シュートを放ち、美しい軌道を描いたボールは再び杉本の伸ばした手を越えてゴール左上隅へと突き刺さった。

 62分には藤枝の安藤由翔が左サイドで圧巻の突破を披露したが、クロスを受けた森島は1点差に詰め寄る絶好のチャンスを逃してしまう。

 この場面を除けば、讃岐はさほど問題もなく試合を終えることに成功した。82分には交代出場の木島がハーフウェイライン付近から思い切ったシュートを放ち、杉本が慌てて戻りながらキャッチ。スタジアムの楽しげなムードを象徴するかのような場面だった。

 藤枝は終了間際に1点を返したが、再開直後にタイムアップの笛が響き、讃岐が今季ホーム4勝目を挙げる結果となった。本拠地でわずか5試合を戦い終えた時点で、過去2シーズンのホームでの年間勝利数に早くも並んでいる。

 残留のための勝利と、成功のために勝利がもたらす感触は異なる。現在首位のギラヴァンツをホームに迎えての新たな首位攻防戦となる来週末の試合でも、チームはさらなる成功を手にしたいと考えている。MF永田亮太もその意志を明確にしていた。

「サポーターの皆さんにも喜んでもらえたと思いますが、もっと相手を圧倒していくべきだと思います。ファンをもっと喜ばせることができるようなサッカーをしていきたいですね」

 それが実現できるかどうかは今後次第だが、今の讃岐はポジティブなムードに包まれている。苦しい数年間を過ごしてきた彼らには、陽光に照らされる資格があるはずだ。

【了】

(取材・文:ショーン・キャロル)

最終更新:5/12(日) 10:02
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