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映画史からNetflix問題を考える:その2 スクリーンの投影を意図しない映画は“映画”と呼べない【松崎健夫の映画ビジネス考】

5/14(火) 12:01配信

FINDERS

来年開催の第92回アカデミー賞授賞式は、2020年2月9日(現地時間)に行われることが既に発表されている。注目ポイントは、今年『ROMA/ローマ』(18)で論議を呼んだ「映画館での上映を意図しないインターネットでのストリーミング配信を基本とした映画」をどう扱うのか?という点。映画館での上映ではなく、インターネットを通じての配信を目的とした『ROMA/ローマ』を製作したNetflixの作品を、今後“映画”として認めるか否かについては、世界中の映画人の間で意見が真っ二つ分かれている。そして先月23日、アカデミー賞を主催する映画芸術アカデミーの役員会がハリウッドで開かれ、ある決定がなされたのだ。

今回は「映画史からNetflix問題を考える」その2と題して、ネット配信を中心とした映画をハリウッドの映画人の多くが、なぜ“映画”とは呼ばないのか?について、今回は「“映画”という言葉の持つ意味」という視点によって解説してゆく。

来年のアカデミー賞もNetflix作品がノミネート対象になる

4月23日に行われた映画芸術科学アカデミーの役員会で決定したことを要約すると、「Netflixの作品は、引き続き賞レースの対象となる」とのこと。つまり、「映画館での上映を意図しないインターネットでのストリーミング配信を基本とした映画」として優れた作品があった場合、来年のアカデミー賞でも作品賞の候補となる資格があるということなのだ。スティーヴン・スピルバーグ監督は「映画館での上映を意図しないインターネットでのストリーミング配信を基本とした映画」が、アカデミー賞の候補となることに異議を唱えているハリウッドの大物のひとり。この件に関してスピルバーグは、以前から「アカデミー賞ではなく、エミー賞(テレビ番組の業績を称える賞)の対象ではないか?」とノミネート条件の変更を提案していた。

アカデミー賞では「授賞式の前年度にロサンゼルス地区の劇場で連続7日間以上の有料公開した40分以上の作品」を作品賞候補の条件に挙げている。ハリウッドの映画会社では、アカデミー賞レース向けに製作した自社の自信作を年末に公開する傾向が増加している。例えば、或る映画を12月24日に公開して、12月31日まで上映すれば、合計7日間となり最短でアカデミー賞のノミネート条件をクリアできる。なぜ、そのような日程で上映するのかと言うと、直近に観た映画の方が印象に残るからである。「昨年の映画で良かった作品は?」と問われた場合、前年の1月~3月頃に上映された作品に対する記憶は誰もが曖昧なはず。当然「公開されたのは昨年だったのか、それとも一昨年だったのか?」ということになる。それは映画ファンのみならず、ハリウッドの映画人であっても同じことなのである。

実は「直近に観た作品に投票する」という傾向が、アカデミー賞の投票権を持つ映画芸術科学アカデミー会員にあるのだ。ハリウッドの各映画会社はその傾向を戦略の一部に取り入れ、ロサンゼルスやニューヨークといった大都市の限られた映画館で“限定公開”させ、規定ギリギリの年末というタイミングに公開することで、ノミネートの条件をクリアさせている。その後、アメリカ国内の各映画賞の受賞結果を参考にしながら、アメリカ全土で“拡大公開”を展開。ノミネーションの発表によって作品への興味を一気に引っぱり、興行的にも成功させようとしているのである。『ROMA/ローマ』の場合は、規定を満たすための劇場公開を3週間だけ行っている。しかし、劇場公開後すぐにストリーミング配信を始めたため「フェアではない」と映画業界からの反発を受けたのだ。それは、別項にある「劇場公開から90日は映画館でしか上映しない」という規定を満たしていなかったからだ。

今回の決定に関して、映画芸術科学アカデミーのジョン・ベイリー会長は「我々は“映画”という芸術にとって、劇場での体験は不可欠だと考えています。今回の話し合いの中でも、このことは大きな比重を占めていました。現在の規定では、劇場公開が条件となっていますが、業界に起こっている大きな変化へ対して、これからも研究し、会員との議論を続けてゆきます」と語っている。

「映画館での上映を意図しないインターネットでのストリーミング配信を基本とした映画」の是非に関しては先送りになった形だが、“変化”という点では、今回<外国語映画賞>を<国際長編映画賞>という名称へ変更することが決定された点も忘れてはならない。これまで、英語以外の言語で製作された作品を<外国語映画賞>=<Foreign language film>の対象としてきたが、この名称を<国際長編映画賞>=<International feature film>と変更。「外国語」という言葉が、国際的な映画製作が増えている中で、感覚的に時代遅れなのではないか?という懸念に対するハリウッドの答えだと解釈できる。ハリウッドの映画産業は“保守的”と揶揄されがちだが、いきなり大きな変化をもたらすのではなく、少しずつ時代の変化を受け入れてゆこうという姿勢を感じさせる決定だ。

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最終更新:5/14(火) 12:01
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