ここから本文です

英文学の巨匠がアラン・チューリングを復活させたわけ:イアン・マキューアン、新作を語る

5/14(火) 12:32配信

WIRED.jp

ブッカー賞作家として世界的に知られるイアン・マキューアンの新作は、人工知能と人間との恋がテーマだ。代表作『アムステルダム』や『贖罪』をはじめ、人間に運命づけられた悲喜劇をその感情や性愛のひだまで精緻な筆使いで描いてきた作家が、人工知能と人間との愛を通して、人間を人間たらしめるものはなにかを改めて問う。 『WIRED』UK版によるインタヴュー。

テクノロジーの予言は徒労に終わる

イアン・マキューアンはSFに興味があるわけじゃない。だからこそ、ふたりの人間と人工知能とのもつれた愛について書こうとこの『贖罪』の著者が決めたとき、舞台は未来ではなく、過去の再創造でなければならなかった。80年代のロンドンにおいて、合成人間がその持ち主である生身の人間と並んで街角の店先に佇んでいるなんてことが、どうしたらあり得るだろうか? そう、アラン・チューリングを生き返らせればいい。

「ほんの数歩戻ってみれば、現在というものがどれだけちがったものであり得たかがわかります」とマキューアンは言う。新著『Machines Like Me』のなかでは、数学者で暗号解析者だったチューリングは41歳で自殺してはいない。代わりに「P≠NP予想」というコンピューターサイエンスにおける最大の難問のひとつに取り組んでいる。実際にこの問題はまだ解かれていない。

小説の世界では、この問題に取り組む過程で、学習し、思考し、そして恋に落ちる人工精神(artificial minds)が生まれる。「人工知能をもつということが何を意味するのか、もう何年もずっと興味を抱いてきました」とマキューアンは言う。「一般的な知性だけでなく、感情までもつようになったらなにが起こるのか? 自分たちと同等あるいはそれ以上に賢い知性をどう扱えばいいのか?」

マシンは「グレーゾーン」をどう進むべきなのか?

AIについて詳しく知るために、マキューアンは神経科学者でグーグルが買収したAI企業ディープ・マインドの共同創業者でもあるデミス・ハサビスを頼ることにした。ロンドンのステーキハウスでのディナーの席で、ハサビスは囲碁AI「AlphaGo」をどうつくったのかを解説した。アマチュアやプロの何千という碁の試合のデータを学習し、世界チャンピオンに18度輝いたイ・セドルを2016年に負かしたコンピュータープログラムだ。

そのディナーのあとで、マキューアンは結局ハサビスを物語のなかに登場させた。チューリングの共同研究者に仕立て上げたのだ。「デミスに『きみを小説のなかに登場させようと思うんだ』と書いたんです」とマキューアンは言う。「返事はありませんでした。それでこう考えたんです。『とにかく入れよう。彼は大丈夫だろう』とね」

小説のなかでは、ある合成人間──アダムやイヴと呼ばれる実験的アンドロイドのひとり──が倫理上のジレンマに陥いる。ある女性に恋に落ちるのだが、その女性は亡くなった彼女の友人の復讐のために犯罪を犯したのではないか、とその合成人間は疑ってもいる。人間なら、そういう状況であれば罪を許そうとするかもしれない。だがマシンはそういったグレーゾーンをどう進めばいいだろう?

1/2ページ

最終更新:5/14(火) 12:32
WIRED.jp

記事提供社からのご案内(外部サイト)

『WIRED Vol.33』

コンデナスト・ジャパン

2019年6月13日発売

1,200円(税込み)

『WIRED』日本版VOL.33「MIRROR WORLD - #デジタルツインへようこそ」来るべき第三のグローバルプラットフォームを総力特集

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事