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フランス人がフライパンを熱いうちに絶対洗わない理由

5/15(水) 12:01配信

現代ビジネス

 20代で渡仏し、20年住んだのちに家族で帰国、現在は日本在住のエッセイスト、吉村葉子さん。2007年に刊行し、文庫だけで37万部を超えたベストセラー『お金がなくても平気なフランス人、お金があっても不安な日本人』からオンラインで初めて記事を紹介する第6回。

 結婚は他人同士が一緒になること。わからないことが多いのはもちろんで、それが国を超えるとなおさらだ。吉村さんの友人である日本人女性が、新婚ホヤホヤのフランス人夫と言い争いをしたという。もう理解し合えない、別れるしかないとまで思い詰めるも、その理由を紐解いてみると、そこにはフランス人の「もったいない精神」が根底にあった。

ある日本人女性とフランス人男性の食い違い

 日本人のY子とルイは新婚ほやほやの日仏カップル。ところがある土曜の午後、Y子が血相変えて私の家にやってきた。穏やかなはずのルイのほうから、この日に限ってY子に喧嘩をしかけてきたという。

 東京でOLをしていたY子は、単調な生活に嫌気がさし一念発起。大学を卒業し、アパレル関係の会社に勤めて10年目にして彼女は、パリ留学を決意した。

 パリで生活するようになって一年足らずで、Y子はリセで物理の先生をしているムッシュ・マルタンと出会った。日本人仲間が主催した日仏文化交流のための合コンの場でのことである。パリ生まれ、フェミニストでハンサムなムッシュ・マルタンとY子のフォール・イン・ラブに、そう時間はかからなかった。

 相思相愛の二人のはずだけに、ギリシャへの新婚旅行から戻ってすぐの彼らのトラブルに、私はただ唖然。とはいえ流行語になった成田離婚のフランス版、さしずめシャルル・ド・ゴール離婚もあるのかと、実は興味津々。私の顔をみるやY子は、ものすごい剣幕でまくしたてた。

 「もう我慢できない、私のすることにルイはいちいち文句いうのだから」

原因は「フライパン」

 マルタンは姓で名前はルイ。ムッシュ・マルタンは有名な王様と同じルイという名前なのである。

 犬も食わないという夫婦喧嘩の原因を、同じ日本人のよしみで私は聞いた。すると案の定、ことの発端はあまりにも小さな出来事だった。出来事というよりは、彼女のしたことがムッシュ・マルタンの気に障ってしまった。Y子が家を飛び出すほど、なにが優しい彼をそこまで怒らせたのか。

 「マルシェから帰ってすぐ、ルイがおなかすいたというから、私たちはデジュネ(昼食)のしたくをはじめたの。ギリシャ旅行ではあまり美味しいものを食べなかったから、お肉屋さんで骨付きのステーキを買ったんです。ルイがサラダの用意をするというから、私はジャガイモの皮をむいてゆでた。サラダを先に食べ、ジャガイモがゆで上がる時間をみはからって私がステーキを焼いたのよ。フライパンにバターを溶かし、焼き過ぎないようにア・ポアンに。

 お皿にステーキを移し、フライパンは熱いうちに洗ったほうがいいと思って蛇口をひねったら、ルイが私を怒鳴ったんです。バカ! だって。Mais non(メ・ノン)! といって、フライパンを私からひったくったのよ、信じられます? 
 冗談じゃないわ。肉を焼いたフライパンは熱いうちに洗っておかないと、油が固まってしまうのを知らないくせに、怒りたいのは私のほうよ」

 そういってY子は、憤懣やるかたなしといった風に肩をいからせた。

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最終更新:5/15(水) 15:00
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