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その実験、「孫子の兵法」に学ぼう! 理系のための卒論術

5/15(水) 12:01配信

現代ビジネス

速戦速勝をめざせ

 「戦争は一日ごとに膨大な費用がかかるがゆえに、速戦速勝こそが正しい戦略である」

 結果がまずいから戦争を早めに切り上げる。これは戦略としてありえます。ですが、戦(いくさ)上手だから戦争を長引かせる。これはありえません。

 実験もまったく同じです。「とりあえずあれを。ダメならこれを」と出たとこ勝負に頼っていつまでも続けていては、時間と労力と資金を食いつぶしてしまいます。

 やらなきゃいけないことだけをやる。これが実験を成功させる唯一の道です。

自然を拷問にかけろ

 「速戦速勝のためには、一気に決着をつけることだ。決戦で勝つためには、戦う時刻と場所が自軍にとって最も有利な条件でなければならない」

 一気に決着をつけるためには、自軍を最も有利な条件に置き、敵の主力軍をそこへおびき出すように作戦を立てます。平凡な条件では会戦せず、また、敵の「雑魚」は相手にしないのがよいのです。

 この考えは、科学者ロジャー・ベーコンの「自然の心理を知りたければ、優しく尋問してもだめである。自然を拷問にかけるべし」という言葉に通じます。

 ある現象を観測したいからといって、平凡な材料を普通の机の上に並べて、家電製品を使って実験しても、うまくいきません。超高圧、超高温、超高速、極小、極短、膨大、清浄……。何らかの点で極端な条件に自然を追い込み、真理を「自白」させるのです。

 なかには100年以上も続いている実験もあります。北海道の小樽港で、コンクリートの経年変化を調べるために続けられている実験です。「超長」という極端性を武器にして、自然の真理を知ることです。(関連記事:「明治」から「平成の次」まで100年以上続く「実験」があった​)

 速戦速勝といっても、単に実験時間が短ければよいわけではありません。よけいなことはいっさいせず、条件を研ぎ澄ますことこそが速戦速勝への道です。

勝ってから戦え

 「戦上手は勝ってから戦う。下手な司令官は戦いの成り行きのなかに勝ちを求めようとする」

 成算がない実験をしても、成果は得られません。

 本当は、論文を書いてから実験するのが正しいのです。血液型の発見者であるラントシュタイナーも、論文を先に書いて実験していたそうです。

 実験するとどうなるかを自分の頭の中でシミュレートし、「こうなるはずだ」と予測することが大事です。どのような結果が、どのくらいの不確かさを持って発生するかを、数字として書ける程度に想像を固めます。データは架空であっても、論文全体のスケッチを書いてしまうのです。

 研究の醍醐味とは、予測と実験とを戦わせることです。実験をやってみてデータに誤差が出たとします。予測を考え抜いた人は、どのような誤差が出るかも予測していたはずです。それならば、誤差の標準偏差が大きいとか、方向や分布が違うなどと、的確な目のつけどころで検討できます。考え抜いたはずの自分の仮説が、現実とどう異なるのかを知ることで、真相を究明できるのです。

 インチキな論文は、このような予測を持たなかったために出現するのです。

 「実験前に架空データで論文を書くなんて、それこそ不正だ」と言われそうですが、実際は逆です。「成算のないまま見切り発車で実験したところ、たまたま値があと少しだけ大きかったならば有意差を認められる惜しい結果に終わった」というようなときに、人は情に流されて、値を改竄したくなるのだと思います。そうして不正に手を染めるのです。

 ちなみにプロの研究者は、研究費申請書を頻繁に書きます。申請書は、「こうすればうまくいくはずだ。実験はまだだけど」という文書ですから、架空データによる予測論文の一種です。だからプロの研究者は、予測論文を書いてから実験するという習慣に慣れています。

 モーツァルトの「作曲はもうできたよ。あとは譜面に書くだけさ」という言葉通りの手順を進めるのが、本物のクリエーターなのです。

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最終更新:5/15(水) 12:01
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