ここから本文です

触手への挑戦――『不老虫』著者新刊エッセイ 石持浅海

5/15(水) 11:00配信

Book Bang

 官能の世界には「触手もの」というジャンルが存在する。ぐねぐねと動く紐状のものが女性を襲うという内容だ。

 僕は、このジャンルが好きではない。元々女性が自由を奪われ襲われるシーンが好きではないし、まったく違う理(ことわり)で生きている生命体がなぜ人間に性的に興奮するのか、理解できないからだ。

 だからずっと敬遠していたのだけれど、あるとき、ふと考えた。触手から性的な要素を取り去ってしまえば、いったいどんな物語になるのだろう。

 現実世界にルールをひとつだけ追加するというのは、僕がよく使う手段だ。けれど加えるルールが触手という荒唐無稽なものだと、常識的なキャラクターでは対応できない。負けず劣らず濃い設定が必要になる。

 人間を襲う、謎の触手。

 触手に立ち向かう、特殊能力を持った美女。

 相棒の猫。

 魔法使いと、その弟子。

「もーっ」と言いながら兄の世話を焼く妹。

 そういった、普段の僕なら決して出さないタイプのキャラクターを、触手が存在する世界に当てはめていった。

 濃いキャラクターは、自身の個性が最も活(い)きるシーンを作家に要求してくる。ありがちとかベタと言われることを承知の上で、僕は彼らの希望を最大限かなえてあげることにした。着地は、今まで培った技術でなんとかなるだろう。

 そうやって工夫した結果、どこかで見たようなキャラクターが、いかにもやりそうなことをやる物語ができあがった。では、これは平々凡々な話なのか? 

 それは、読んだ皆さんが判断してください。少なくとも、がっかりは、させません。

[レビュアー]石持浅海
1966年愛媛県生まれ。九州大学理学部卒。2002年『アイルランドの薔薇』で「KAPPA-ONE」より本格デビュー。近著に『パレードの明暗』『殺し屋、やってます。』など。

光文社 小説宝石 2019年5月号 掲載

光文社

最終更新:5/15(水) 11:00
Book Bang

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事