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遺伝子治療薬「キムリア」の薬価、3000万円超でも保険財政は破綻しない

5/15(水) 19:00配信

日経ビジネス

 高額医薬品として注目されていたスイス製薬大手ノバルティスの遺伝子治療薬「キムリア」(一般名:チサゲンレクルユーセル)の国内での薬価が1回の投与で3349万3407円に決まった。厚生労働省が5月15日に開催した中央社会保険医療協議会で、原価計算方式に基づいて算出した案が了承された。5月22日に保険適用され、施設基準を満たした医療機関において治療が受けられるようになる。

キムリアは5月22日に保険適用され、施設基準を満たした医療機関において治療が受けられるようになる

 キムリアは患者の免疫細胞を取り出して、がん細胞に対する攻撃力を高めるために特殊な遺伝子を導入した後、細胞を増やして患者の体に移植するという製品だ。米国で2017年9月に世界で初めて承認され、日本でも2019年3月に厚労省が承認していた。

 臨床試験では、通常の治療では治らなかった難治性の白血病やリンパ腫などの血液がんに対して高い有効性が確認されている。ただし、一定の割合で効かない患者がいるほか、非常に重篤な副作用が生じる場合があることが分かっている。

 一方、品質や安全性を確保するために、細胞の製造は特殊な施設において様々な先端技術を動員して行わなければならず、薬価はどうしても高くなる。しかも、米ニュージャージー州にある製造施設で製造しているため、薬価を決めるのには運送コストなども考慮する必要がある。

 米国ではあるタイプの白血病に対しては、治療1カ月後の効果に基づいて47万5000ドル(約5200万円)を請求するという、成功報酬払いの薬価が設定された。ちなみに、リンパ腫と呼ばれる別の血液がんにも承認されているが、こちらは37万3000ドルの価格設定で、成功報酬方式ではない。こうしたことから日本での薬価がいくらになるかが注目されていた。

1回の治療で治る人は治る

 日本で承認されたのは、米国と同じく、あるタイプの白血病とあるタイプのリンパ腫に対してだが、2つの疾患に対する薬価は同額。成功報酬払いではない。また、治療のためには医療機関で細胞を採取し、製造施設で細胞を加工して製品を製造した後、再び医療機関で細胞を移植する必要がある。このため、医療機関での技術料として、採取については17万4400円(診療報酬としては10円=1点)、移植については30万8500円の技術料が設定された。治療を受けるにはこの技術料以外に、もちろん入院料や検査料などもかかってくる。

 さて、この1回3300万円超という高額薬価をどのように考えるべきか。1回のみの治療で治る人は治ってしまうことを考えると、長期間服用し続けなければならない治療薬の場合と経済負担を同列に議論することはできない。

 また、日本の健康保険制度には高額療養費制度というものが存在し、世帯ごとのひと月の自己負担の上限額は所得に応じて一定の金額内に抑えられるため、患者自身が数千万円単位の負担をするわけではない。ただ、「治らなかった人まで費用を負担すべきか。米国と同様に成功報酬払いを検討すべきではないか」といった点は議論の余地があるかもしれない。

 患者の自己負担に上限が設けられているということは、残りは保険財政が負担することを意味する。そうなると以前、抗がん剤オプジーボの時に議論されたように、保険財政を破綻させかねないという声も上がりそうだが、ノバルティスはキムリアの対象となる患者数をピーク時で年216人、販売金額を72億円と予想している。

 しかも、安全性を確保するため、副作用が生じた場合の対応が取れるなど、実施できる医療施設は限定され、相当慎重に市場導入が図られる見通しだ。もちろん今後、他の血液がんに適応を拡大していけば患者数は増えるが、その場合には薬価を見直す仕組みも既に導入されている。「保険財政が破綻する」と身構えるのは正しくない。

 もちろん、今後このような高額医薬品が続々と登場してくるとなれば、誰がどのようにして負担していくか、薬価の決め方なども含めて議論していく必要があるだろう。ただ、今回のキムリアに関しては、約3300万円の薬価で保険適用が決まり、日本でも保険診療の中でこの高度な医療を受けられるようになったことを素直に歓迎すべきだと考える。

橋本 宗明

最終更新:5/15(水) 19:00
日経ビジネス

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