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米政府の自動車関税判断先送りの狙い

5/16(木) 11:21配信

NRI研究員の時事解説

日・EUに対米自動車輸出削減で圧力

トランプ政権は、輸入自動車への追加関税導入の判断を、6か月遅らせることを検討していると16日に報じられた。この追加関税導入の判断とは、米商務省が今年2月に大統領に提出した報告書を受けたものだ。

トランプ政権は昨年5月に、米通商拡大法232条に基づいて、自動車・自動車部品の輸入が米国の安全保障を脅かしていないかを調査するよう、商務省に指示した。270日以内に調査を終えることが求められていた商務省は2月17日、自動車関税に関する報告書をトランプ大統領に提出した。この報告書には、米国の輸入自動車・自動車部品への追加関税措置の是非についての商務省の見解や、選択肢が記述されたと見られる。同報告では、「追加関税措置が妥当」とする見解が示された可能性が高い。しかし、トランプ政権は、中国との貿易協議などの優先課題に集中するために、当面は発動の是非を含むこの報告書の内容を公表しない方針としたのである。

さらに、トランプ大統領は、この商務省の報告書を受け取ってから90日以内に、追加関税などの輸入制限措置をとるかどうか判断をすることが求められている。その期限が5月18日に迫っている。

追加関税導入の判断を先送りするとの報道は、貿易摩擦問題を緩和するものとして、15日の米国株式市場では好感された。しかし、報道内容の詳細を見ると、日本と欧州連合(EU)にとってはむしろ悪いニュースではないか。トランプ大統領が自動車の追加関税導入の判断を6か月先送りするのは、日本とEUに6か月間の猶予を与え、その間に対米自動車輸出を削減する方策に同意するよう、強く圧力をかける考えだ。つまり、今回は追加関税導入の判断先送りは、米国が対日、対EUの交渉力を高めるための戦略、という側面が強いのではないか。

対米自動車輸出の自主規制で日本経済に打撃

日米間で貿易協議が続く間は、日本からの自動車に追加関税を課すことはしない、とトランプ政権は日本政府に約束したとされる。その約束は守りつつ、一方で、日本に対しては対米自動車輸出の自主規制を求めてくるのではないか。

日本政府は、日米貿易協議の本格化を、夏の参院選挙への悪影響に配慮して、選挙後とすることで、トランプ大統領からの同意を得た、との報道もある。しかし一方で、トランプ政権内では、対日交渉を加速させることを目指す動きも見られる。今回の措置を踏まえると、5月27日の日米首脳会談で、貿易問題が議題となり、トランプ大統領が、農産物の関税率引き下げと対米自動車輸出の規制に言及する可能性もあるのではないか。

ところで、対米自動車輸出の自主規制を最終的に日本が受け入れさせられる場合には、日本経済には相応の打撃となることを覚悟しなければならない。仮に自主規制によって日本から米国向けの自動車、自動車部品の輸出額が半減するとすれば、それは2017年度の実績値に基づいて計算すると2兆7,825億円分だ。この金額は、2017年度名目GDPの548.7兆円の0.5%に相当する。その分だけ、日本のGDPが押し下げられる。波及効果も含めれば、その押し下げ効果は1%に近付く可能性もあるだろう。

今後は、米中貿易戦争の帰趨だけでなく、日米貿易協議の行方もあわせて、貿易問題全体が日本経済に与える影響を慎重に見極めていく必要があるだろう。


木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)
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この記事は、NRI金融ITソリューションサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/commentary/category/kiuchi.html)に掲載されたものです。

木内 登英

最終更新:5/16(木) 12:24
NRI研究員の時事解説

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