ここから本文です

マリノスはなぜ「完敗」を繰り返してしまうのか。セレッソ戦で顔を出した慢心、貫くべきこだわり

5/16(木) 11:11配信

フットボールチャンネル

 横浜F・マリノスは今季3敗目を喫した。11日に行われたアウェイでのJ1第11節・セレッソ大阪戦は自信を掴みかけたチームにとって強烈な衝撃となる0-3の完敗。なぜこれほどまでに何もできず敗れたのか。そしてアタッキング・フットボールを貫くために進むべき道とは。(取材・文:舩木渉、データ提供:Wyscout)

【動画】J1ポジション別ベストプレーヤー

●「簡単な、楽なゲームだった」(清武)

 一方から見れば「完敗」、もう一方から見れば「完勝」。これほど勝敗のコントラストがわかりやすい試合はなかなか珍しいのではないだろうか。

「走り勝ちですね、今日は。ポゼッションするより裏に走ってくれる選手が生きた試合だと思うし、今年に入ってこういう試合は初めてだったと思うので、考え方としては簡単な、楽なゲームだったと思います」

 この清武弘嗣の言葉が全てを物語っていると言ってもいい。11日に行われた明治安田生命J1リーグ第11節、セレッソ大阪は横浜F・マリノスに3-0で勝利した。開始2分で水沼宏太が奪ったゴールで試合が大きく動き、高い攻撃力が武器のマリノスにほぼ何もさせず勝ちきった。

「最初に失点したのが結構痛かったですけど、自分たちのやることをやれていなかったのが一番悔しい結果になった理由かなと思います」

 マリノス守備陣の要にして攻撃の起点にもなる畠中槙之輔は、「自分たちのやること」を貫こうとしたものの、同時に違和感を覚えながらプレーしていた。

「大事につなぐという意味でも、意図したわけじゃないですけど、後ろに人数が増えてしまったりとか、幅を使って攻めようという部分では逆にそれで1人ひとりの距離が広がって、孤立するようなシーンも……どちらにしろ動きも少なかったですし、良くない部分が出ちゃったイメージがあります」

「いつもだったら(自分がボールを持ったら)前線にパスコースがいくつもあるんですけど、今日は前線というよりも足元に受けに来るとか、相手の前に下りてきてしまうシーンが多かったので、あまり効果的な(パス)回しはできなかったと思います」

 これこそがまさにセレッソの守備の狙いだった。4-4-2でブロックを敷いた桜の軍団は、前半途中に都倉賢が負傷交代するアクシデントがあったものの、規律のとれた動きでマリノスのビルドアップを遮断していった。特に選手間の距離が適切かつ一定に保たれたまま機能していた左右のスライドの動きは見事だった。

 中盤で戦術の核となる働きをしていた奥埜博亮は、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が仕込んだセレッソの守備の狙いを次にように説明する。

「(マリノスは守備組織の)間に縦パスを入れてからスピードアップしてくるチームだったと思うので、そこで今日は自分たちの守っている(ブロックの)外でボールを回させていたと思うし、その中に入ってきた時にしっかり引っ掛けてカウンターというのもできていたので、チームとしての狙いはできていたのかなと思います」

●人もボールも動かせず…

 実際、マリノスが本来武器にしているテンポの良い組み立てや崩しはことごとく封じられた。例えばセンターバックを起点に、中盤のアンカーや内寄りにポジションを取るサイドバックが関与しながらパスを出し入れし、相手を引きつけたところで危険なスペースに入り込んだインサイドハーフに預けたり、サイドに張ったウィングに仕掛けさせたりする定番の流れに持ち込むことができなかった。

 マリノスの左サイドバックに入っていた和田拓也は「相手がかなり中を締めていたので、後ろが外に押し出される感じになって、前と後ろ(の距離)が長くなってしまった。(サイドバックが中に入っていくスペースがなくて)ちょっと下がっちゃうとか、外に開いちゃうとかもあって、それはセレッソもかなり意識して対応してきたと思います」

 いつもなら選手間の距離を近くしてパス交換をしていると、相手の選手が前に出て潰しにくる。それによって相手の中盤の背後にできるスペースや、組織としてのバランスが崩れたところに入り込んでボールを前進させていける。

 だが、この日のセレッソは全く動じなかった。ボールを失うと全員で自陣に退き、縦にも横にもコンパクトなブロックを形成する。とはいえ、ただマリノスの前進を許すのではなく、危険なエリアに入る手前でパスを受けた選手には複数人で囲い込むようにプレスをかけ、そこでボールを奪った瞬間に切り替えてカウンターへ。桜色のユニフォームをまとった前線の選手はマリノスの浅いディフェンスラインの裏に猛然と駆け出し、それに呼応するように後ろの選手たちもサイドバックの裏(センターバックの外側)を狙ったロングボールとスプリントで続く。この流れが繰り返された。

 ボールも人も動かせないことで、マリノスの全体に違和感が広がっていく。相手2トップと対峙する2人のセンターバックをアンカーの喜田拓也が下りてサポートして3対2を作る。ただ、ここでサイドバックが中央に入ってくるスペースがない。

 そうなるとインサイドハーフの天野純や三好康児もパスを受けるためにポジションを下げるが、いざボールをもらって前を向いてもFWやウィングへの距離が遠く、孤立してしまう。近距離のトライアングルを連続して作り出し、常に複数のパスコースを設けながら前進していく攻撃の流れは寸断されてしまった。うまくいかない時間が続き、チーム全体の動きや思考は硬直していく。

 開始2分で先制ゴールを奪っていたセレッソにとっては願ってもない展開。奥埜は「相手のボール回しを見て、アンカーの選手が結構後ろに下がり気味でボールを回していたので、そうなればFW2枚で見て、(アンカーが)高い位置を取れば僕が出てという形でやろうとはしていました」と、守備対応の原則について明かす。

 この形がハマっていたからこそ、畠中の言う「後ろに人数が増えてしまったりとか、幅を使って攻めようとすると逆にそれで1人ひとりの距離が広がって、孤立するようなシーン」が発生してしまった。和田も「前半はかなり相手に釘付けにされちゃったというか、みんな立ち位置があまり変わらなかった」と“いつも通り”の自分たちのサッカーができなかったことを悔やむ。

●データが示す2つの試合の違い

 GKのパク・イルギュも最後方からマリノスのちぐはぐさを感じていた。

「(中盤から)下りてきて(パスを)受けたんだけども、結局前との距離が空いてしまって、前に入れられるんですけど、入れたところで孤立している。それだったらもうちょっと後ろで回しながら押し上げていこうという意図があったと思うんですけど。そこにもうちょっと早く気づいて、下ろすんじゃなくて、自分含めたセンターラインがもっと高い位置を取ってからやれればよかったんですけど、ちょっと前が下りてきすぎちゃって、後ろが重くなってしまって。これが前にパワーを持っていけなかった要因だったと思います」

 そして「良くも悪くも鹿島戦で先制されながらも後半で逆転できちゃったのが、変にみんなイメージがついちゃっているから、そのままやれば点を取れるだろうと思っていたのでは」と、チーム全体から感じた問題点も指摘する。「前半のうちに追いつけるタイミングがあったら追いついていく、逆転できるタイミングがあるなら逆転していくという強い気持ちをもって、もうちょっとゴールを取りにいく姿勢を出していかないと、こういうゲームになってしまう」のである。

 データもセレッソ戦と鹿島アントラーズ戦、同様に先制された試合ではあったが、それぞれのコントラストをよく示している。

 セレッソ戦で生まれたパスの受け手と出し手の関係を分析すると、最多は「喜田→チアゴ・マルチンス」の24本、それに「チアゴ・マルチンス→畠中」の22本、「畠中→和田」「チアゴ・マルチンス→喜田」の21本、「和田→畠中」の17本、「畠中→天野」の16本と続いていく。

 喜田が後半途中から選手交代に伴って右サイドバックに入った影響があるとはいえ、ここに出てくる選手たちの位置関係を考えればディフェンスライン近くでの横パスやバックパスが多かったことは容易に想像がつく。

 一方、鹿島戦はまた違った傾向が見えてくる。同じデータで最多は「畠中→和田」の22本、さらに「畠中→喜田」の21本、「喜田→畠中」「畠中→天野」の20本、「和田→天野」の19本、「和田→遠藤渓太」の18本となっている。

 ここから読み取れるのは最終ラインから中盤へ前向きのパスが多かったこと、また左サイドバックを経由して中盤やウィングに展開できていたことだ。バックパスもそれなりにあったが、「畠中→遠藤」が15本、「天野→遠藤」「遠藤→天野」が14本を記録していたことも考慮すると、中盤よりも前へスムーズにボールを運べていたことがわかる。

●選手交代にも問題あり?

 マリノスのチーム状態を測るバロメーターとも言えるアンカー喜田のパス方向のデータをサンプルとして、セレッソ戦と鹿島戦で比較してみても、2つの試合の違いははっきり現れている。セレッソ戦での「縦パス:バックパス:横パス」の数字(カッコ内は成功率)は「22(91%):8(100%):44(100%)」で、鹿島戦は「31(90%):13(92%):32(100%)」だった。

 パス成功率こそ高い水準で保っていても、鹿島戦に比べて縦パスの数が減り、横パスが増えている。実はこの2試合で蹴ったパスの数そのものは1本しか変わらないが(先に挙げた3つの他にも複数種類のパスがありセレッソ戦は総計95本、鹿島戦は総計94本)、位置取りが低かったイメージそのままにセレッソ戦のプレーの傾向がデータに現れている。

 マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督は試合後の記者会見で「(お互いの)戦術どうこうの問題ではない」とうなだれていたが、逆転勝利の余韻とも言えるわずかな慢心が、失点した後の試合運びを難しくしてしまったとも考えられる。「ブレずに自分たちのやるべきことをやる」という勇猛果敢な姿勢は鳴りを潜めた。そして相手の思い通りのカウンターを受け、最終的にはいつの間にか3失点だ。

「失点してしまうと(ゴールを)取りにいかないとダメ。別に0-0だったらあの感じで回していても絶対何も言われないし、見ている人たちも『今日はマリノスのペースでやられているな』って思うでしょう。むしろ相手はホームゲームですし、勝ちたいという気持ちがあるからどうしても前に出てくると思うんですけど、それで先に1点取られちゃったのが、やっぱりゲームを難しくしてしまったというか。あそこで悠長に回している時間はないじゃないですか。2点取って勝たないとダメなので。

そうなった時に見え方がちょっと違ってくる。0-0の状況でのボール回しと、0-1の状況でのボール回しでは、(今日は)見ている方もやっている方も『あれ!?』って思うじゃないですか。別に回し方とかは俺は問題なかったと思います。ただ状況が状況だったのでもっとボールを前に運ばないとダメだし、前で厚みを持たせて点を取りにいかないとダメなんじゃないのという、そこのところが若干ピッチの中でも消化しきれていなかったし、意思疎通がうまくできていなかった部分かなと思う」

 パク・イルギュの言葉は重い。もちろん選手交代で中盤を1人削ってストライカーを2人並べて4-4-2や4-1-3-2に近い形にしてしまい、ピッチ上で近距離のトライアングルやコンビネーションを作りにくい状況にしてしまったことも「いつも通り」を妨げた要因かもしれない。「焦り」と「勢い」はプレーの見た目こそ似ているようで全く質の異なるもの。自分たちのやるべきことをやりにくくしてしまった姿勢にも課題は残る。
 
●「ちょっと悔しすぎる敗戦」(畠中)

「別に相手のやり方なんでどうのこうのというのはないですけど、そういう(対策を講じてくる)相手に対して自分たちがどうポジション取りを変えていくかというのも全然できなかったですし、いつもみたいに相手を遅らせることもできなかったし、本当に効果的なところにボールを入れられなかったので、それが悔しかったです。そこ(対策を上回れないこと)がまだ弱さだと思うし、逆に言ったらそこを乗り越えなきゃいけないという、1つの課題なのかもしれないし……そうですね……ちょっと悔しすぎる敗戦ですね」

 畠中は噛み締めるように言葉を絞り出した。マリノスのアタッキング・フットボールには、多くのチームが様々な策を用いて対抗してくる。大分トリニータはビルドアップの起点を潰しながら各個撃破の形を作ってきたし、北海道コンサドーレ札幌は試合中にシステムを変更しながら柔軟に戦ってきた。この2試合で痛い目にあって、迎えたのが今回のセレッソ戦だった。

 今季のリーグ戦での敗戦は、いずれもそういった明確な策を持った相手に封じ込められて完敗というケースばかりだ。だからこそ今後は「考え方としては簡単な、楽なゲームだった」と言われないよう、常に「自分たちのやるべきこと」を表現できるように、信じて日々の練習から突き詰めていくしかない。マリノスが歩むのは慢心や妥協など一切許されない険しい道であり、もうその方向へと舵を切ってしまったのだから。

(取材・文:舩木渉、データ提供:Wyscout)

フットボールチャンネル

最終更新:5/16(木) 11:32
フットボールチャンネル

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事