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主人公は「セミ」のサラリーマン! ショーン・タンの新刊が現代社会に鋭く突き刺さる

5/16(木) 17:43配信

GQ JAPAN

文字のない絵本『アライバル』で一躍人気となったオーストラリアの画家・映像作家の最新刊が話題だ。

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静かで過激な問題作

5月14日、オーストラリアの画家・映像作家、ショーン・タンの最新作『セミ』(原題:CICADA)の邦訳版が刊行された。A4変形版、32ページの絵本である。

主人公はサラリーマンとして企業で働く「セミ」だ。身体に比べやや大きめのグレーのスーツに白いシャツを着て、黒いネクタイを締めている。職種は明らかではないが、オフィスは高いビルにある大きなワンフロア。細かく仕切られた作業部屋の1室で、データ入力の仕事をしている。

セミいわく、なんと17年間欠勤はなくミスもないという。もしかれが人間だったら、相当優秀な社員だったろう。

だけどかれは、どうしようもなく「セミ」なのだった。セミゆえに誰からも認められず、昇進することもない。けれどセミは文句も言わず、コツコツと働きつづける。そんなある日、かれは定年を迎えることになって──。

『ロスト・シング』や『アライバル』など、これまでの作品でショーン・タンが描いてきた想像力豊かな世界観は、今回は色調を抑えた緻密な筆致によって「現実」へと近づいた。グレートーンで淡々と進む物語と、最後のひとこと以外感情を顕にしないセミの語り。けっして文章は多くないが、人気翻訳家・岸本佐知子のリズミカルな言葉選びがセミのキャラクターを惹き立てる。

帯にはこうある。

「セミ おはなし する。
よい おはなし。
かんたんな おはなし。
ニンゲンにも
わかる おはなし。」

かわいいセミの口調に騙されてはいけない。本書を読み終えたいま、これがたいへんな皮肉だったことがわかる。これはまさしく現在進行系の世界であり、日本の現実でもあるのだ。

現在、東京・練馬区にあるちひろ美術館にて、彼の緻密で壮大な創作の秘密を解き明かす日本初の大規模個展「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」が開催中。「セミ」のフィギュアも展示されているそうだ。


ショーン・タン
PROFILE
1974年オーストラリア生まれ。幼い頃から絵を描くことが得意で、学生時代にはSF雑誌で活躍。西オーストラリア大学では美術と英文学を修める。これまでに発表したいずれの作品も卓越した内容と表現で評価が高く、オーストラリア児童図書賞など数々の賞を受賞。作品は世界中で翻訳出版されている。イラストレーター、絵本作家として活躍する一方、舞台監督、映画のコンセプトアーティストとして活動の場を拡げている。9年の歳月をかけて映画化した『ロスト・シング』で2011年にアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。同年、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞も受賞。現在、メルボルン在住。代表作は『アライバル』『ロスト・シング』『遠い町から来た話』など。

岸本佐知子(きしもと さちこ)
PROFILE
翻訳家。主な訳書にM・ジュライ『いちばんここに似合う人』、L・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』、G・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』など。編訳書に『居心地の悪い部屋』ほか。著書に『気になる部分』、『ねにもつタイプ』、『なんらかの事情』などがある。

文・横山芙美(GQ)

最終更新:5/16(木) 17:43
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