ここから本文です

ドラマのタイトルがこの10年で長くなったテレビ局の事情

5/16(木) 12:00配信

webマガジン mi-mollet

また、歴代のベストセラーを見ると、2000年前後までは『五体不満足』『バカの壁』『生き方上手』などシンプルな体言止め型タイトルが多かった。それが、『チーズはどこへ消えた?』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』あたりから文章型タイトルも目立ちはじめ、2010年前後から『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』と一気に長文化が顕著に。

『わたし、定時で帰ります。』は小説、『初めて恋をした日に読む話』は漫画が原作だけに、こうした出版界の影響を受けている部分はあるだろう。


【2】インターネットからの影響

もうひとつがインターネットの影響だ。匿名掲示板では、伝統的に文章型のスレタイ(スレッドタイトル)が多く、「~しているんだが」「~の件」などの言い回しが定番。『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』などは、まさにネットの文法そのままのタイトル。前クールの『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』もタイトルは掲示板のスレタイがベースになっている。
 

タイトルだけで内容がズバリとわかる

上記2点の共通点は、タイトルだけで内容そのものがズバリとわかるところ。『腐女子、うっかりゲイに告る。』もまさにその系譜のひとつで、タイトル通りBL好きの腐女子がうっかりゲイのクラスメイトに告白してしまう話だ。「腐女子」と「ゲイ」というキャッチーなフレーズが2つ並んでいるだけでインパクト抜群。さらに、ドラマの中身もBLイベントで妙にハイテンションになる腐女子の雰囲気や、親友にも家族にも明かすことのできないゲイの葛藤がリアルに描かれていて、瑞々しい青春ドラマに仕上がっている。

『わたし、定時で帰ります。』も題名だけで作品の内容が説明できる良タイトルだ。同作は、定時退社を死守する女性と、彼女を取り巻く上司や同僚、後輩たちによるお仕事ドラマ。「長時間労働」のひとつの切り口として、現代の労働問題をシリアスになりすぎず、けれど確かなリアリティを持って浮かび上がらせている。

たとえば、もし『腐女子、うっかりゲイに告る。』が『秘密の告白』、『わたし、定時で帰ります。』が『彼女のルール』といった、かつて主流だった体言止め型タイトルだと、印象が一気に曖昧になるのがわかってもらえるだろう。文章・長文型タイトルは内容を凝縮して表すため、テーマに関心のある視聴者を引き込みやすいメリットがあるのだ。

ドラマの世界でこうした文章・長文型タイトルが増えた背景には、視聴者のドラマ離れが一因に考えられる。それこそ1990年代頃までは、新しいクールがスタートしたらどのドラマもひとまず第1話はチェックするという視聴習慣も珍しくなかった。けれど、インターネットが登場して以降、娯楽は多様化。テレビドラマは「観て当然」のものから、数ある娯楽の選択肢のひとつになった。

それに伴い、視聴者もある程度内容がわかるもの、興味を持てるものしか選ばなくなった。YouTuberの動画など顕著だが、タイトルだけで動画の趣旨が一目瞭然。ユーザーは気になるタイトルをクリックし、好きな動画を思い思いに楽しむ。今は誰もが簡単に娯楽を自分仕様に最適化できる時代だ。リターンの不明確なものに貴重な可処分時間を投じたくないと考えるようになるのは、ごく自然と言えるだろう。

だからこそ、テレビドラマもまた「選ばれる」ために、なるべくタイトルの段階で内容をわかりやすく表現するようになった。どんどん長文化していくタイトルの行間には、そんな現代人の娯楽と時間に対する意識と、つくり手たちの努力が読み取れる。
 

 

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部) 

横川 良明

2/2ページ

最終更新:5/16(木) 16:54
webマガジン mi-mollet

記事提供社からのご案内(外部サイト)

スタイリスト大草直子がコンセプトディレクターを務める、ミドルエイジ女性のためのwebマガジン。ファッション、ビューティ&ヘルス、ライフスタイルの情報を配信中。

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事