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海外文学が面白い! いま話題のミュージシャン、ミツメ・川辺素が愛読書を語る

5/17(金) 12:11配信

GQ JAPAN

いま話題のミュージシャンに愛読書を聞く新連載がスタート! 第3回は、ロックバンド「ミツメ」でヴォーカル・ギターをつとめる川辺素だ。

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想像力をひらく3冊

4月にニューアルバム『Ghosts』をリリースしたミツメの、美しくも寂しげで不穏な世界はどのように生み出されているのか? 川辺素が選んだ3冊を起点に、現実と虚構の入りまじる世界、目に見えないものへの想像力をひらくさまざまな作品について語ってもらった。

ポール・オースター『幽霊たち』柴田元幸訳、新潮文庫、1995年

──アルバムの“Ghosts”というタイトルは、もしかしてこの『幽霊たち』からとっているのでしょうか?

川辺:アルバムタイトルを決めたメンバーの(大竹)雅生のなかで、イメージのひとつとしてはあったようですが、直接的に引用したわけではないんです。僕はこの本のタイトルしか知らなかったので、“Ghosts”という名前が決まってから初めて読みました。

ただ偶然か必然か、『幽霊たち』の登場人物の「存在の希薄さ」が、このアルバムのテーマである「不在」と根底でつながっているような気がしましたね。僕は、作家ではフィリップ・K・ディックが好きなのですが、ディックと同じように、時代を選ばず、どこに置き換えても通じるような独自の物語が発明されているという印象でした。

──『幽霊たち』は探偵小説でありながらドラマティックな出来事がなにも起こらない物語です。普段こういうスタイルの文学を読むことが多いですか?

川辺:子どものときは石田衣良の『池袋ウエストゲートパーク』や、中場利一、江國香織、村上春樹の小説を読んでいて、大学に入ってから太宰治や川端康成などの近代文学を読むようになりました。

なかでも僕にとって大きかったのは、森見登美彦がきっかけで「マジックリアリズム」(註)を知ったことです。それからガルシア=マルケスのようなラテンアメリカの作家や、トマス・ピンチョン、ミシェル・ウエルベックのような海外文学が好きになりました。ほかにも洋楽の歌詞の意味が少しでもわかるようになりたいと思ってリチャード・ブローディガンなども読みましたが、効果はいまいちでした。

──川辺さんは文学作品をもとに歌詞を書くことがありますか?

川辺:直接的なモチーフにはしないまでも、歌詞を書いているときに頭の片隅にちらつくことはあります。『Ghosts』についていえば、じつは『幽霊たち』よりも芥川龍之介の短篇小説「早春」のイメージが強くあります。中村という男が彼女を博物館で待っているのですが、その間は時間がなかなか進まないように感じる。ついに待つのをやめた途端に10年後の姿が少し描かれて終わる、というだけの話なんですが、「早春」のような時間の伸び縮みの感覚を描きたいという意識がありました。

──「不在」や「存在の希薄さ」というテーマは、ミツメの音楽のもつ寂しさやノスタルジーと地続きの表現といえると思いますが、現代を生きるなかでそれらを描く必要性を感じたのでしょうか。

川辺:何かの不在を描くことで、それがよりリアルに浮かびあがってくる瞬間があると思うんです。誰も写っていないアルバムのジャケット写真はそれを伝える手助けをしてくれていて、たとえば特定の誰かが写っているよりも、頭のなかでイメージが補完されて強い印象が残りますよね。

それに関連して、『Ghosts』は「雪山」を着想のひとつとしています。雪山は、見た目の美しさに反して、足を踏みいれたら死んでしまうかもしれない危険性を孕んでいる。目に見えているものを書きながら、その奥に潜んでいるものをこそ描きたいと思っていました。



現実や日常と、そこに潜む幻想や神話のような非現実的な事象を融合させて描くことによって、現実を別の視点から捉え直す芸術表現技法。魔術的リアリズムとも呼ぶ。1967年に出版されたガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』はマジックリアリズムの代表的な作品であり、世界的なラテンアメリカ文学ブームを牽引した。そのことからも、マジックリアリズムはラテンアメリカ文学に特徴的な手法として知られることになった。

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最終更新:5/17(金) 12:11
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