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オスがメス化!? フクロムシに奴隷にされたカニの皮肉な生涯【えげつない寄生生物】

5/17(金) 7:00配信

デイリー新潮

 ゴキブリを奴隷のように支配したり、泳げないカマキリを入水自殺させたり、アリの脳を支配し最適な場所に誘って殺したり――、あなたはそんな恐ろしい生物をご存じだろうか。「寄生生物」と呼ばれる一見小さな彼らが、自分より大きな宿主を手玉に取り翻弄し、時には死に至らしめる様は、まさに「えげつない!」。そんな寄生者たちの生存戦略に、昆虫・微生物の研究者である成田聡子氏が迫るシリーズ「えげつない寄生生物」。第6回は「カニをメス化するフクロムシ」です。

 今回、親友のカニをオスからメスのようにさせ、奇妙な卵を抱かせた寄生者は「フクロムシ」です。フクロムシ類は、海に棲み、カニ、エビ、シャコ、ヤドカリなどの節足動物に寄生します。私たちが目にすることができるフクロムシは磯によくいるイソガニ、イワガニ、ヒライソガニに寄生するウンモンフクロムシという種類です。

 フクロムシは昆虫やカニと同じ節足動物門の生物です。節足動物というのは体節や肢が特徴的ですが、それらがフクロムシは退化しています。そのため、大人になっても節足動物とは思えない外見をもっています。

 ウンモンフクロムシは、イラストでもわかるように、カニの腹部にあるカニの卵のように見えます。このカニの卵のように見える部分はフクロムシの体の一部です。この部分はフクロムシの生殖器部分で卵巣と卵がたっぷり詰まっています。では、フクロムシの本体部分はどこにあるのでしょうか。フクロムシの本体部分は、カニの体内にいます。まるで植物の根のように、カニの体内にフクロムシの組織が張り巡らされています。そして、この根のような部分で、カニの体中から栄養を奪っています。こうして、フクロムシは宿主の体内から栄養を奪い、自分の卵を抱かせて生きています。

フクロムシとカニの出会い

 では、今回の不幸なカニはいつからフクロムシに体と心を乗っ取られたのでしょうか。まず、フクロムシとカニの出会いから見ていきましょう。

 フクロムシのメスは卵から孵化するとプランクトンのように海の中を漂います。そして、少し成長すると、カニの体内に侵入します。しかし、カニの体は硬い殻で覆われています。なのに、どのようにしてフクロムシはカニの体内に侵入するのでしょうか。まず、フクロムシはカニの体表にある毛の根元に付着します。するとフクロムシから針のような器官が伸びて、シュルシュルっと一瞬にして体内へと侵入していくのです。

 カニの体内に侵入したフクロムシは、徐々に植物が大地に根を張るように細い枝状の器官をカニの全身に張り巡らしていきます。そして、その部分からカニの体内の栄養分を吸い取ります。そして、フクロムシは十分に成長して生殖能力をもつようになると、カニの表皮を突き破って、自分の生殖器をカニの腹の外側に露出させます。

 カニの腹部の外側に飛び出したフクロムシは無防備です。腹部に飛び出した寄生者など、カニのハサミで取り除かれてしまいそうですが、そうはなりません。なぜなら、フクロムシは宿主であるカニの神経系を操り、まるでカニが自分の卵を抱いているかのように錯覚させているからです。実際、フクロムシに寄生されたイソガニの神経系を調べると、胸部神経節がフクロムシの組織に侵されているのが見つかります。そのような場所では、本来あったはずのカニ自身の神経分泌細胞が一部消えていたり、完全に細胞が消失していたりするものもいます。

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最終更新:5/17(金) 7:00
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