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自分に合う仕事って何? 『バカの壁』養老孟司先生の「仕事論」

5/17(金) 6:50配信

デイリー新潮

仕事とは穴である

 街中でスーツ姿の就活生たちが見かけられる機会が増えてきた。着慣れないスーツを着た彼ら、彼女たちの表情には緊張感が漂う。

 就職を真剣に考え始めたとき、若者たちが悩むのは「自分には何が合っているのだろうか」「自分は何をしたいのだろうか」ということだろう。

 実際の面接では「御社が第1志望です」と言うとしても、本当にどんな仕事をやりたいのか、明確なヴィジョンを持っている人ばかりではない。また、そこに適性があるのかもわからない。

 この問題を真剣に考えだすと、かえって就職は難しくなる。「自分に本当にあった仕事」かどうかを判断することは極めて困難だからである。

『バカの壁』で知られる養老孟司さんは、著書『超バカの壁』の中で、こうした若者の悩みに対して、独自の見解を披露している。一言で言えば、仕事とは「社会に空いた穴」なのだという。

「就活の壁」に悩む若者も、こんな考え方を知れば、少し気が楽になるかもしれない。「自分に合った仕事」を探している人たちへの疑問を示しながら、養老さん流の仕事論を述べた部分を抜粋して紹介しよう(以下、『超バカの壁』より)。

 ***

 どうも現状に満足しておらず、何かを求めている人が多いらしい。それで調査をすると、働かないのは「自分に合った仕事を探しているから」という理由を挙げる人が一番多いという。

 これがおかしい。20歳やそこらで自分なんかわかるはずがありません。中身は、空っぽなのです。

 仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない、と言いたくなります。

 仕事は自分に合っていなくて当たり前です。私は長年解剖をやっていました。その頃の仕事には、死体を引き取り、研究室で解剖し、それをお骨にして遺族に返すまで全部含まれています。それのどこが私に合った仕事なのでしょうか。そんなことに合っている人間、生まれ付き解剖向きの人間なんているはずがありません。

 そうではなくて、解剖という仕事が社会に必要である。ともかくそういう穴がある。だからそれを埋めたということです。何でこんなしんどい、辛気(しんき)臭いことをやらなきゃいけないのかと思うこともあるけれど、それをやっていれば給料をもらえた。それは社会が大学を通して給料を私にくれたわけです。

 生きている患者さんを診なくていいというのも、解剖に向かった大きな理由です。一番助かったのは、もうこれ以上患者が死なないということ。その点だけは絶対安心でした。人殺しをする心配がないからです。しかし患者さんを診るという行為から逃げ出しても、遺族の面倒だとか何とか実はもっと大変なことがありました。

 社会、仕事というのはこういうものです。いいところもあれば、悪いところもある。患者の面倒の代わりに遺族の面倒を見る。全部合わせてゼロになればよしとする。

 あとは目の前の穴を埋めていれば給料をくれる。仕事とはそもそもそういうものだと思っていれば、「自分に合った仕事」などという馬鹿な考え方をする必要もないはずです。NHKの「プロジェクトX」に登場するサラリーマンも、入社当初から大志を抱いていた人ばかりではないでしょう。

 合うとか合わないとかいうよりも大切なのは、いったん引き受けたら半端仕事をしてはいけないということです。一から十までやらなくてはいけない。それをやっていくうちに自分の考えが変わっていく。自分自身が育っていく。そういうふうに仕事をやりなさいよということが結論です。

 最近は、穴を埋めるのではなく、地面の上に余計な山を作ることが仕事だと思っている人が多い。社会が必要としているかどうかという視点がないからです。余計な橋や建物を作るのはまさにそういう余計な山を作るような仕事です。もしかすると、本人は穴を埋めているつもりでも実は山を作っているだけということも多いのかもしれません。

 しかし実は穴を埋めたほうが、山を作るより楽です。労力がかかりません。

 普通の人はそう思っていたほうがいいのではないかと思います。俺が埋めた分だけは、世の中が平らになったと。平らになったということは、要するに、歩きやすいということです。山というのはしばしば邪魔になります。見通しが悪くなる。別の言い方をすれば仕事はおまえのためにあるわけじゃなくて、社会の側にあるんだろうということです。

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最終更新:5/17(金) 11:06
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