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ソ連の北方領土不法占拠に暗躍したスパイ 丸山穂高議員の知らない近代史

5/18(土) 7:31配信

デイリー新潮

 北方領土を「戦争」で取り戻す可能性について、元島民に質問をした丸山穂高衆議院議員への批判が高まっている。結果、彼は所属の日本維新の会から除名処分を受けることになった。
 酒席とはいえ、また「疑問形」の発言だったとはいえ、丸山議員が不用意だったことは間違いない。
 また、彼の発言の前提には、北方領土が「戦争」で取られたものだという考えがあるようにも受け止められるが、これ自体、正確さに欠けると言えるだろう。戦後のゴタゴタにまぎれてソ連が不法占拠したのは事実であるが、北方領土を失った経緯はそんなシンプルなものではない。

 有馬哲夫早稲田大学教授は、最新の文献研究をもとに著書『歴史問題の正解』の中で、この経緯について詳しく述べている。そこから分かるのは、決して「ソ連が隙を狙って侵攻してきた」といった単純な話ではない。
 アメリカ大統領の人気取り、ソ連のスパイの暗躍……米ソの身勝手な振る舞いと謀略によって、領土が奪われていった経緯を、同書をもとに見てみよう(以下は基本的に『歴史問題の正解』による)

人気取りのためにソ連と共闘

 1944年はアメリカ大統領選挙の年で、ルーズヴェルトは史上例のない大統領4選に臨んでいた。現在と違って当時は、世論調査は頻繁になされていなかったため、選挙の帰趨を予測することは難しく、彼は選挙戦を有利にするためにできることはなんでもしなければならなかった。
 そんなルーズヴェルトが有権者にアピールするために取った策の一つが、英国のトップ、チャーチルとソ連のトップ、スターリンとの巨頭会談を開き、戦争終結のための協議をすることだった。ドイツとの戦争を早期に終結させ、日本にも白旗を揚げさせるのに手っ取り早いのは、ソ連に対日戦争に参加させることだ、と考えたのだ。問題はスターリンがこの誘いに乗ってくるか、だった。

 というのも、スターリンは忙しかった。すでにドイツは敗走を続けていて、ソ連としては東ヨーロッパに支配地域を広げ、傀儡(かいらい)政権を作らなければならなかったからだ。それに、ドイツの敗戦が決まって、勢力地図がより明確になってからのほうが、噛み合った議論ができるため、スターリンの側には会議を急ぐ理由はなかった。この頃、すでに英ソ首脳は1944年10月9日にモスクワで、東ヨーロッパを英ソでどう分割するかまで話し合って、合意していたのだ。

 いうまでもないことだが、これは英ソで勝手に決めていいことではない。当該国の国民はもちろんアメリカの承認もいる。
 そこで、ソ連に駐在していた米国の大使ウィリアム・アヴェレル・ハリマンがこの話の相談に与ることになった。このとき、ハリマンは米英ソによる巨頭会談のことをスターリンに打診した。するとスターリンは、カイロ会議のときから対日参戦するにあたって米英に「政治的問題」が解決されなければならないと言っていたが、次の巨頭会談でそのことを話したいとも伝えた。
 婉曲な言い方だが、スターリンの言う「政治的問題」とは対日参戦と引き換えにソ連に渡す利権のことだ。のちに「極東密約」と呼ばれるもので、南樺太の返還、千島列島を引き渡し、満州の利権の取得を斡旋するというものだった。つまり、参戦の見返りというエサで釣って、巨頭会談に応じさせたのだ。

 このようにして巨頭会談は開催までこぎつけた。場所はソ連の領土、クリミア半島の南端のヤルタ。問題は、この会議でルーズヴェルトが行った信じがたい言動である。
 ヤルタ到着後、ルーズヴェルトは会議場に行く途上で周辺が荒れ果てているのに気付いて「なぜクリミアはこうも荒廃しているのか」と尋ねた。
 スターリンが「ドイツ軍によるものだ」と答えると「ではドイツ軍将校を5万人ほど処刑しよう」と提案している。
 さらにドイツをどう処理するかという話になるとルーズヴェルトはソ連にドイツの約80パーセントの工業設備と約200万人の労働力を持ち去らせ、農業国にしてしまおうと言った。チャーチルが「それではドイツという馬は働けなくなります、干草ぐらいは残してやりましょう」ととりなすほどだった。

 ソ連はのちに満州に侵攻し、現地のあらゆる日本の工業設備を持ち去っただけでなく、ポツダム宣言に違反して、約60万人の日本の軍民をシベリアに送り、強制労働させた。しかも、今にいたるまで謝罪も補償もしていない。
 しかし、こうした非道な行為も、スターリンにしてみれば、ドイツに対して行っていいとヤルタでルーズヴェルトとチャーチルが認めたのと同様のことを、同じ敗戦国の日本にして何が悪いということになる。

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最終更新:5/18(土) 7:31
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